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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第三章 ヴァラキア編

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前衛アラン

エミィの隠密は相変わらず見事だ。

今は茂みから手を振って合図しているが、そうでなければ気づけない。

最初の合図は『前方に敵あり』だ。

「伏兵はいないようだな。」

フレッドが矢筒から矢を抜いた。

エミィは手の振り方で意味を持たせている。

ハンドサインみたいなものだ。

次々と情報を送ってくれる。

「人数は多いようね。ただ街道の真ん中で待ち構えているだけはあまりに杜撰ね。」

ヴィーラやユキーナも今ではエミィのサインを覚えてしまい、読み取れる。

「難民相手の略奪だしな。なめているんだろう。」


俺達は今、最前線のルーテシア国境より少しヴァラキア側、即ち北に入った地域で馬車の一団の護衛を務めていた。

まだ軍に入りたくないと言った俺達に魔王様から与えられた任務だ。

「そなた達の力は大いに頼りにしているのだがな…」

ジルワード殿の言葉は魔王様の本音でもあるだろう。

そんなわけで俺達は前線には立たず、こうして後方支援の仕事を請け負っている。

報酬も出る。

ヴァラキアの臣民というわけでもないから魔王様の命に服さなければならないことはない。

けれど、俺達としては行きがかり上、何もしないと言うのも落ち着かないからな。

ヴァラキアの為になり、戦争に加わるだけでもなく、傭兵として稼げるこの仕事が気に入っていた。


俺達が護衛しているのは国境付近の村落の住民達だ。

主に老人、女、子供だ。

オーク、ゴブリン、ヒト族いろいろだ、

ヴァラキアの住民だからな。

戦争が始まればすぐに蹂躙されるこの人達をむざむざ殺させまいと魔王国は住民の避難計画を進めた。

避難民の中にはルーテシアから国境を越えて逃げてきたヒト族もいる。

隣国だからな、これまで当たり前のようにヴァラキアとルーテシアで人々が行き来してきた。

だから、オークやゴブリンとヒト族の交流も盛んだった。

しかし、王国軍の先遣隊はルーテシアに移住していたオークやゴブリンを全て捕らえて虐殺し、彼らに同情的な態度をとったヒト族も虐待している。

以前にオークやゴブリンと交流があったという理由だけで財産を没収された人もいるらしい。

それを恐れてルーテシアからヴァラキアへ逃げてくる難民もいるわけだ。


一方で王国軍の一部が小部隊で国境を越えて潜入し、村々や避難中の難民を襲撃している。

略奪目的だ。

その為、魔王国は兵力の一部を割いてその護衛に当たらせているのだが、ただでさえ魔王国軍は王国軍に兵力で負けている。

できるだけ兵力を割きたくない。

だから俺達にこの仕事がまわってきたわけだ。


「ンダギ、ブロウ、アラン、俺が一発目をぶち込んだら突撃だ。フレッドは敵の後衛が射程に入るところまで進んで、先に後衛をやり始めてくれ。」

フレッドは誇示するように左手で弓を持ち上げた。

魔王様からご褒美でもらったヴァラキア製の弓が気に入ったらしい。

「大きさの割に射程が長いんだよ。」

最近、飲む度にフレッドが語る口癖だ。

大概の王国軍の弓より射程が長いから相手の後衛の射程外から矢を撃つ戦法を取りたがる。

リスクは少なそうだし、有効な手だから、俺も積極的に取り入れている。

何より本人がそうしたいって言うんだからな。


奴らが見えてきた。

街道の真ん中で座り込んでダラダラしてやがる。

こちらに気付くと一人二人と立ち上がり武器を構えだす。

やる気が感じられない。

それに遅い。

馬鹿な奴らだ。

護衛がいるとは考えなかったのか?

せめて斥候を立てておけば、俺達の存在に気付けた筈だ。

奴らが気付いた時にはンダギ、ブロウ、アランの新前衛トリオが走り出している。

アランには一番端を走ってもらった。

まだ、実戦で一緒にやりはじめてからまだ日が浅いからな。

三人が走り出すと同時に俺は炎の玉にとりかかっていた。

いつもの作戦だ。

炎の玉が追いつく直前に真ん中のブロウが端に寄った。

炎の玉は街道の真ん中を進み、ブロウ達の脇を追い越していった。

その時、アランも軽くステップして炎の玉と反対側に飛んだ。

おっ!

タイミングを掴んだか。

アピールしてくるところを見ると前衛の真ん中をやらせろってことだな?

次はそれもありか。

炎の玉が慌てて立ち上がった兵士の集まっているところに突っ込んだ。

まだまだ生き残りがいる。

敵がもっと密集隊形で待ち構えていてくれたら、最初の一撃でもっと倒せたんだが。

逆にダラダラしてやがったからあまり固まってなかったんだ。

今回は前衛に頑張ってもらわなきゃな。


ンダギの怒号が聞こえてきた。

敵は前衛、後衛もなく無秩序にたむろしていたから、逆にこちらの作戦通りに行かない。

乱戦状態だ。

敵を仕留める一撃を振り下ろしたンダギの背中に向かって切りかかる兵士をブロウが吹っ飛ばした。

あの『妙なギザギザがついた巨大な鉄板』としか形容のしようがない凶悪な剣を野球のフルスイングのような振りで腹に食らわされている。

無事では済むまい。

ンダギとブロウの連携は相変わらず見事だ。

アランは二人と少し離れたところで剣を振っている。

カレドニア人が好む両手持ちの大剣だ。

こちらは連携しないで一人で戦っているように見えたが、実は少し距離を置くことでンダギとブロウの背後を狙う兵士を見つけて始末しているようだ。

とは言え、相手は人数が多い。

こちらの都合が良いようには動いてくれない。

アランに複数で襲い掛かってくる奴らもいる。

フレッドは更に離れたところからそいつらを狙撃してくれている。

乱戦になると味方に当たるのを恐れて射手にとってはやりにくくなるところだが、さすがに名手だ。

フレッドは確実に敵を始末していく。

魔法使いにとっても乱戦はやっかいだ。

敵が密集しているところに炎の玉や稲妻を打ち込んでまとめて始末できるのが魔法の最大の強みだが、乱戦になるとそうもいかない。

しかも、敵も動き回るから魔法で攻撃するには相性の悪い状況だ。

仕方なく俺は地の精霊を使役する魔法で敵の足場を揺らしたり、大気の精霊を使役して風の力で敵の射手の狙いを逸らしたりして支援に徹した。

同じく始めは魔法で攻撃していたヴィーラは剣を抜いてアランに襲い掛かる敵の始末にかかった。


常に先頭に立って奮闘するンダギとブロウのおかげで敵を半分以上斃してしまった。

こうなると相手は怖気づいてしまう。

逃げ出す奴が出てくる。

エミィとユキーナの軽戦士二人が既に隠密行動で敵の背後にまわっていたから逃げ出した連中もほとんど二人に討たれてしまった。

はっきり言って敵が弱すぎる。

兵士といってもほとんどが新兵だ。

練度が低い。

俺達の敵ではなかった。


降参した連中もいる。

五人を捕らえた。

ここで殺す必要はない。

避難民を送る先の街には魔王国軍の兵団が駐屯しているからそこで引き渡せばいい。

ンダギとブロウの剣に震え上がっている五人の手をエミィがテキパキとロープで縛っていく。

ロープの反対側は馬車に括りつけられた。

こいつらこれから馬車に引っ張られて徒歩で移動だ。

この街道は基幹街道でもない。

さほど整備されているわけではない。

この時代、よほど整備された街道でなければ馬車のスピードなんて下手をすれば徒歩に劣る。

痒いところも搔けないし休むこともできないが、しっかり歩けば問題ないんだ。

虐待とは言わせない。

こちらも少人数で多くの避難民を護衛している。

余裕がないんだ。

捕虜には脱走や反抗の余地を与えないようにするしかない。


今回の戦闘でアランが俺達の前衛としてかなり馴染んできたことがわかった。

ンダガの死後、あの古城でしか戦闘はしていないが、ンダギとブロウは前衛がもう一枚ほしいと言っていた。

アランはンダガとは違うタイプの戦士だが、意外と悪くない組み合わせかもしれない。

だからと言ってンダギの心が晴れるわけではないんだが、弟を失って空いた前衛の穴が埋まれば、弟を失った悲しみを思い出すことも減るだろう。


遊撃にはエミィに加えユキーナが入ったし、後衛にはヴィーラが魔法使いとして入ってくれた。

こちらは超弩級の実力者だ。

俺の存在価値が危ぶまれるほどの魔法の使い手だ。

俺、本当にいていいのか?

しかも、ヴィーラは剣の腕前も一流だ。

状況に応じて前衛にも加われる。

射手には名手フレッドがいる。

俺達のチームもかなり強くなったもんだ。

そしてもう一人加わったものがいる…


「ンダギ、じっとしてて。薬をしっかり塗らないとダメよ。」

ソニアの澄んだ声が響く。

「ブロウはもう包帯をいじっちゃダメ。痒くなっても我慢してね。」

ブロウが大人しく左手に巻かれた包帯を弄っていた右手をはなした。

ソニアには逆らえないらしい。


そうソニアが俺達に加わっていた。

俺達が任務に出る時、ついていくと言い張って聞かなかった。

魔王様も半神レネもノルデル伯もジルワード殿も皆して反対したが聞かなかった。

「避難民の中に急病人がいたらどうするの?それにダンカン達が怪我をしたら?ダンカンの魔法がないと任務も危ういわ。」

どうして俺がやられること前提なのかわからないが、そんなことを言い張ったんだ。

だからと言って仮にもテルデサード王国の王女を簡単に危険な任務に出すわけにはいかない。

皆が猛反対したんだがな…


確かに彼女は役立っている。

避難民の中には病人もいた。

ソニアは移動中も馬車でそんな病人達に薬を与え、怪我人の手当てもしてくれている。

俺達が連日のように任務をこなせるのもソニアがその場で手当てをしてくれているおかげだ。


こうして最後に加わったアランも含め、旅の仲間が皆チームに入って一緒にやっている。

勿論、ノルデル伯は別だ。

ノルデル伯に傭兵をやってくれなんて誰が言える?

それにノルデル伯はブラドで各地の同志に指示を飛ばし、集まってくる情報を魔王様はじめヴァラキアの皆に共有している。

多忙なんだ。

とにかく良いチームになった。

最高な仲間達だ。

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