メルコルの御前会議
ヴァラキアの御前会議はアルフハイムのそれとはまた違った。
魔王様が玉座に座り、その脇には無表情の半神レネが立っている。
そしてその左右にはオーク族、ゴブリン族の各部族の族長が勢揃いだ。
そして右手奥(そこだけ天井が高くなっているのだが)にはトロール族用の強大な椅子が三脚用意されている。
オーク族の族長は九人いた。
「皆、揃ったようだな。」
魔王様に応えて皆、敬礼した。
「魔王様の招集に応え、オーク全部族の長が集まりました。」
左手に並んだオーク達の内、一番、魔王様に近い席の者が言った。
「かつては十五の族長がおりましたが六つの部族が滅び、今は九部族です。」
確かに六席空きがある。
「うむ。久しいな。最後に集うたは我が封印される直前であったな。その時も九部族であった。生き残っている者が皆、息災であること喜ばしい。」
「最後にナーガ族の滅んだは先の大戦でした。残された者達は皆、魔王様のおかげで今は平和に暮らしております。」
そうだ。
魔王様はジャン王の提案で封印されることにより、先の大戦は終結し、平和な時代が来たんだ。
後からブロウに聞いたんだが、オーク族は元々十五部族に分かれており、更に各部族から小さな部族に分化していったそうだ。
オーク族は部族によって、姿かたちが様々だからな。
ヴァラキアではこの十五の部族に敬意を表して、御前会議では滅んだ部族の分も族長の席を設け、会議の初めにこの会話をするそうだ。
「ゴブリン族も揃っておるな。三部族の族長が勢揃いしてくれて感謝する。勿論、今は亡き二部族の族長もその魂は集っておろう。重ねて感謝する。」
ゴブリン族の三人の族長が頭を下げた。
族長は皆、ゴブリン族でホブゴブリンがいない。
エミィによるとホブゴブリンは三部族それぞれの中で派生して生まれたそうだ。
二部族が滅んでも、族長の席が用意されているのはオーク族と同じだ。
「トロール族よ。遠方からの長旅、苦労であったな。」
トロール族の族長達は苦しげな押し出すような声で答えた。
「召喚者共が再来した今、参集するは必然。何なりと…」
後から知ったんだが、トロール族の言語というのは他の人間とは大きく異なるらしい。
言語そのものよりも発声方法が大きく異なるようで、彼らが他の人間の言語を話すには発声に苦労するらしい。
本当か嘘かわからないが、猫の鳴き真似で喋る感覚だとか。
もっとも、どちらかというと他の種族からトロール語の会話は動物の唸り声に聞こえるそうだ。
その聞き取りにくい言葉にも魔王様はじっくり耳を傾け、頷いた。
次はヒト族だ。
ヴァラキアのヒト族は特に氏族や部族でなく、ヒト族の代表者が数人の随行者を伴い席についていた。
ヴァラキアのヒト族は大戦の度に多くが殺され、戦後、他所から人が流れ込んで定住することが繰り返され、血が混ざりあい、ヒト族として一つにまとまっている。
ヒト族だけ代表者が一人では不公平だから随員を伴っているそうだ。
魔王様から見て左手にオーク族の族長達の席、右手にトロール族、ゴブリン族、ヒト族の席が並んでいる。
そして、魔王様から見て真正面に座するのはスヴァートエルフの一団だ。
スヴァートエルフのメルクハイムもアルフハイム同様に連邦制で王国が三つあるらしい。
但し、ライオスエルフのように上級王は存在せず、三つの王国が並立しているが、その中でデルブリウ家というのが宗家とされ、やや指導者的な立場だそうだ。
ドワーフ諸王に近いな。
「スヴァートエルフ諸王の皆様におかれてはようお越しになられた。」
魔王様は慇懃だ。
スヴァートエルフ諸王は事実上、魔王様の支配下なんだが、それぞれが一国の王だ。
魔王様は対等な立場に近い態度をとっている。
しかし、スヴァートエルフ達は優雅に立ち上がり、恭しく頭を下げた。
エルフ式の美しい答礼だ。
再び席に座る直前、一番近くのスヴァートエルフがこちらを向いて小さく手を振った。
「彼女がルサールカよ。」
ソニアが耳打ちしてくれた。
ヴィーラとソニアのお友達だな。
この後、三人でお茶会だそうだ。
俺達はスヴァートエルフ族と少し間を置いた、やはり魔王様の正面側の端に席が用意されていた。
ヴィーラもアルフハイムで一国の女王だし、ソニアはテルデサード王国の王女だ。
重要人物にふさわしい席があてがわれるわけだ。
俺達はそのご相伴とばかりにその後ろに席が用意されている。
ジルワード殿が宣言した。
「御前会議を始める!」
御前会議の議題は言うまでもない。
テルデサード王国の宣戦布告への対応だ。
そもそも、オーク、ゴブリン追放令のことはノルデル伯からの一報で早くからわかっており、これを拒否することは決まっていた。
そして、その結果、王国が戦争を吹っかけることも必然であったから、誰もがその前段については触れなかった。
いきなり、対王国軍の戦術論から始まった。
具体的な話が始まると各族長の後ろに控えていた高位の武官達が主な発言者となった。
そして、その中にあのバランがいた。
バランも発言をしていたが、最初に発言する時、俺達の方を見てウインクしやがった。
「彼はラミー族きっての猛将として有名な将軍よ。」
ヴィーラとソニアは酒場にいた時から気づいてたんだな。
教えてくれよ。
俺はそんなお偉いさんだとは思わず、酒場で馬鹿話をして大盛り上がりをしてたんだ。
次会う時、どんな顔をしたらいいんだ?
そう言えば、ンダギとブロウはバランと散々試合をしたと言ってたな。
アランも一緒だ。
待てよ?
アランの奴、ヴァラキアでは顔が広いからな。
絶対、あいつも知ってたな。
なんて奴らだ。




