宣戦布告
テルデサード王国の特使がやってくる日が来た。
俺達もこの前、魔王様と謁見した広間に呼ばれた。
裾の方の所謂、末席という奴だけどな。
ヴィーラやソニアは別の席だ。
魔王様に近いところに用意された席に座っている。
二人とも重要人物だからな。
そう言えばソニアのことはこれまで隠されてきた。
王国から実は王女は生きていて、そちらが匿っているのではないか?と言う詰問の特使が派遣された時もしらばっくれてきたんだからな。
一部の者達は知っていたが、多くの者にはとある国の高貴な家の生まれの娘を預かっているとしか知らされていなかった。
だから、誰もが半神レネ自らが父親代わりのようになって養育していることを不思議に思っていたらしい。
しかし、こうなってしまえば隠していても仕方がない。
正式に発表したわけではないが、今日から堂々と『テルデサード王国の王女』として出席している。
ソニアにとって今日は、公の場で正体を初めて表す言わばデビュー戦のようなものでもある。
もっともこれまでも会議などに連なることがあれば、謎の重要人物として上座を占めていたらしいから、本人はたいして気にもしていなかったが。
触れ役が特使の名を宣言した時、俺は戦慄した。
「テルデサード王国、特使、セイヤ=トオノ殿おなり!」
明らかに日本人の名前、召喚者だ。
現れたのは長身で痩せた男だ。
ショウ、ヒカル、ユウとこれまでに出会ってきた召喚者達のような狂気じみた様子は見受けられない。
こいつが射手の召喚者なのか?
弓と矢筒を身に着けている。
ここに入る際は武器を預けるよう言われる筈だが、拒否したのだろうか?
ジルワード殿が相手の身分を考え、免除したのだろうか?
「遠野征矢だ。」
この召喚者は無礼だが、他の三人の召喚者ほどなめくさった口調でもなかった。
「テルデサード王国を代表してこの地に赴いた。これより国王陛下からの命を伝える。謹んで受けよ。」
こいつは理性的で信頼できるんじゃないか?
こいつなら話せるんじゃないか?
召喚者達にこちらの住人がNPCやモンスターではないことをわかってもらえば、少しは変わるんじゃないか?
「副使、そなたから伝えよ。」
召喚者は傍らの男に命じた。
普通は特使自らが口上を述べるべきだ。
これはかなり失礼な行為じゃないか?
エルノー男爵と紹介された副使が前に進み出て口上を述べた。
オーク、ゴブリン追放令の公布だ。
この法令の恐ろしいところは公布と同時にその地にいるオーク、ゴブリンを殺戮できることだ。
因みにオーク、ゴブリン追放令というが実際にはトロール族も対象に入れられている。
事前に知らされていたからヴァラキア側の反応は静かだった。
「それで…」
魔王様が答えた。
「そのような戯言をここで宣言して、そなたら生きて帰れると思っておるのか?」
いきなり強烈な返しだ。
しかし、ヴァラキアはオークやゴブリンが住民の八割を占める地域だ。
魔王様の言う通りだ。
「わ、我々はフィリップ国王陛下が派遣された使者ですぞ!我らを害することがあれば、即ち反逆を意味しますぞっ!国軍が即座に攻めてきますぞ!」
エルノー男爵は狼狽して裏返った声で叫んだ。
その横で遠野征矢は冷笑した。
「この副使殿はともかく、貴様らが俺を倒せると思っているのか?」
男爵は震え上がった。
召喚者が自分も守ってくれると思っていたらしい。
皆が身構えた。
しかし、遠野征矢は特に弓を構えることなく続けた。
「とにかく。伝えろと言われたことは伝えた。念の為に確認するが拒否するんだな?」
「無論だ。」
「わかった。俺達はもう帰る。先程、不穏なことを言ってたが、俺を相手にしない方が身の為だ。」
そう言い捨てるとあっさりと背を向けてしまった。
「待ってくれ!」
やはり、こいつもまともじゃないとは思ったが、俺はわずかな希望にすがりたかった。
「ん?お前は例の転生者か?ショウ、ヒカル、ユウはお前を探し出してぶち殺してやるとよ。こいつも伝えたぜ。」
「待ってくれよ!話を聞いてくれよ!」
「なんだ?降参するのか?」
「そうじゃない!お前は俺達のことを、ここにいるオークやゴブリンの皆のことをどう思っているんだ?」
「ただのモブとモンスターさ。ユウ風に言えばな。」
「違う!皆、生きているんだ。ゲーム世界の住人じゃない。」
「だから、何だと言うんだ?俺はユウのようなゲームと現実の区別がつかない奴じゃない。」
「だったら…」
「わかってて言ってんだよ。」
「?」
「ああ、そうさ。お前らは皆、生きている。命があるんだろ?俺はそれを射抜いて奪ってやると言っているんだ。」
「お前、正気か?」
「馬鹿だな。なんでこんな気持ち悪い連中とつるんでるんだ?命がある?生きている?だからどうした?お前は転生する前の世界でゴキブリやハエを殺さなかったのか?」
「ゴキブリやハエだと?」
「そうさ。俺にとっては似たようなものだ。」
「…」
俺は言葉を失った。
こいつもまともじゃない。
「一応、自己紹介しておこう。何度も言うが俺は遠野征矢。セイヤで良い。別にショウやヒカルみたいな自慢をする気はないがな。転生者風情のお前になれなれしくされたくないね。気持ち悪い。」
セイヤは嫌悪感むき出しで俺を睨んだ。
「そうだ。魔王。お前を倒すのは俺だ。この神器でな。」
セイヤは弓を手にして矢を番えた。
皆が戦慄した。
次の瞬間、セイヤは弓矢を構えたまま後ろを振り返った。
そして、放たれた矢が広間の扉を木っ端微塵にした。
ダメだ。
こいつもショウやヒカル、ユウと同じだ。
どうしてこうも血に飢えた狂人のようになれるんだ?
「これでお前らは反逆者だ。お前らも、ヴァラキアの民全ても、それらに与する者も皆な!」
セイヤは悠々と王の広間から出て行った。
「貴様らの反逆は確定した!テルデサード王国は正式にお前らに宣戦を布告する!」
「宣戦を布告してもらえるということは、王国に我らは国として認めていただけたということだな?私の認識ではヴァラキアは貴国に属する自治領だった筈だがな?フィリップ殿も太っ腹だな。」
魔王様の強烈な皮肉には答えず、男爵はセイヤの後を追った。
「ジルワード、どうやらヴァラキアはまた独立国になれたようだ。ヴァラキア魔王国の国旗を掲揚させよ。」
魔王様は鷹揚にそう命じた。
半神レネが引き取った。
「明日は御前会議だ。各部族の族長達もすでにブラドに到着している。ジルワード、そちらの準備も頼むぞ。」
こうして第六次暗黒大戦が勃発したんだ。




