スヴァートエルフ裏切りの真相
「冗談じゃないわ。こんなところで何してる?ですって?巨神兵が動きだしたってブラドからの使者が言うじゃない?飛んできたのよ!」
そうか。
それはすまなかったな。
ルサールカはメルクハイムにある三つの王国の一つを治めるスヴァートエルフの女王だ。
その領土はメルクハイムの中で一番ヴァラキアに近い。
だからスヴァートエルフ達とブラドの連絡は主に彼女の王国の者が担っていて、ルサールカ自身がブラドに来ることもある。
確かに俺達がブラドに戻る直前に魔王様は巨神兵が動きだしたことを知らせる使者をメルクハイムに出しているからな。
なるほど、報せを聞いてすぐに飛び出せば、このタイミングになるのか。
「俺達はドワーフ王達から聞いただけだが、ヴィーラはその目で巨神兵が動きだしたのを見てるよ。」
そのヴィーラは後ろでアランと並んで歩いている。
捕虜の連行はンヴァラとルサールカに随行していた彼女の臣下達に任せている。
俺達は早々に哨戒任務を切り上げられた。
反対側から来たルサールカが異常なしと教えてくれたんだ。
思えば、ルサールカと二人で話すのは初めてかもしれない。
ルサールカがブラドに来るとヴィーラ、ソニアと三人で前世で言うところのガールズトークが始まってしまうからな。
直接会話することなんてあまりなかったんだ。
「ドワーフがこちらについた件も、聞いているわ。北の荒れ地では頑張ったわね。」
「俺はほとんど何もしてないさ。」
「あら、魔王殿の使者のお話では大活躍したと聞いているわよ。それにドワーフ王達との交渉もあなたによるものだって。」
魔王様は少し吹き過ぎだ。
俺がブラドに来て以来、ずっと俺を広告塔のように扱っている。
「この前も言っただろ?俺の事を魔王様は大袈裟に言うんだ。」
「ふふ。政治的な宣伝の犠牲ね。良いんじゃない?あなた、ちょっとした英雄よ。」
「英雄になんかなりたくないね。」
「あら?あなたは英雄を目指すべきよ。つり合いってものが、この世にはあるじゃない?」
「つり合い?一体、なんのことだ?」
「あーあ!これね。ソニアも苦労するわ!ねぇ!ヴィーラ?そうじゃない?」
後ろでヴィーラが笑っていた。
ヴィーラの笑顔を久々に見た。
「彼、頭が良すぎて、肝心なことが見えないタイプなのよ。」
横でアランが頷いている。
おいおい。
なんだよ?
ヴィーラがすぐにアランとの会話に戻ってしまったので、俺はルサールカに色々と聞くことができた。
なかなかスヴァートエルフと話す機会なんてないからな。
貴重な機会だ。
聞きたいことが山のようにあるんだ。
スヴァートエルフに関することや、スヴァートエルフに伝わるエルフの歴史とかな。
早速、ルサールカから上古の時代や芽吹きの時代のエルフの歴史を教えてもらった。
ライオスエルフの正史で語られる嘘くさい奴じゃない。
エルフ達が目を背けたがる黒歴史。
真実の歴史だ。
興味深い話ばかりだ。
「あなたは本当に歴史ばかりなのね?ソニアからは聞いていたけど。さっきからそればっかりじゃない?」
そうか。
ソニアの奴、俺の事を歴史オタクと触れて回ってるのか。
否定はできんが。
「だって知りたいんだ。スヴァートエルフからしかも女王陛下ご自身にこんなこと質問できる機会なんか滅多にないからな。王国の歴史家が歯噛みして羨ましがるよ。」
「あなた、歴史家の羨望の眼差しを受ける前に王国に戻ったら八つ裂きにされるんじゃない?」
それを言われるとな…
そうなんだ。
もうこうなると王国に戻れる日が来るのか疑問だ。
「まぁ、いいわ。どうせブラドまでまだ時間はたっぷりあるわ。どうぞ。」
ありがたいね。
ルサールカ女王陛下は寛容にも俺の質問攻めをお許しくださった。
流石、ヴィーラとソニアの親友だ。
話せるね。
ルサールカの話を聞いていると、やはり、上古の時代後半から芽吹きの時代はエルフの七大王家が血で血を洗う抗争の連続だったようだ。
「私は芽吹きの時代に生まれたから上古の時代の話は父から聞いた話よ。」
芽吹きの時代に生まれたって…
一番若く見積もっても七百五十歳はいくよな?
いかん。
女性の年齢を詮索するのは御法度だ。
これまで散々ヴィーラを怒らせているからな。
黙っておこう。
いや、それにしてもエルフだよなぁ…
ルサールカの見た目はヴィーラと同じく俺と同じか少し上かなと言う感じなんだ。
ルサールカはヴィーラと同じエルフの第二世代だ。
即ち、創造神に創られた最初の第一世代である十四人の男女から生まれたエルフだ。
この第一世代である七組の夫婦がそれぞれエルフの七大王家になるわけだが、彼女はその中で一番下位とされたデック家の娘だ。
七組の中で一番最後に創られた事と、彼等だけが雪のように白い肌を持って生まれた事が下に見られた理由だ。
「そんなわけで私達デック家の末裔だけがスヴァートエルフとして区別され、ライオスエルフを名乗った他の六家に支配されたのよ。」
そうだったのか、
スヴァートエルフ発祥の話なんて王国では学べない。
俺、王国に戻れたら本が書けるな。
「デック家の者だけが君のように真っ白な肌を持って創られたのは創造神の思し召しだ。それを理由に差別するなんてライオスエルフが間違っているよ。」
「ありがとう。ダンカン。」
彼女には兄が何人もいたが皆、エルフ同士の戦いで死んでしまったと言う。
現在、スヴァートエルフ王家の宗家とされるデルブリウ家は一番長兄の家系らしい。
兄弟の多くは上古の時代と芽吹きの時代の争いで殺され、最後に死んだ兄は第三次暗黒大戦の末期だそうだ。
スヴァートエルフがライオスエルフを裏切ってヴァラキア魔王国についてからライオスエルフ軍との戦闘で戦死したと聞いた。
スヴァートエルフの、いや、ルサールカのライオスエルフへの憎しみはさぞかし強いだろう…
「創造神様は決して私達を赦しはしないに違いないわね。」
「?」
「同族殺しの禁の事はヒト族には伝わってないの?」
「少なくとも俺は知らないな。」
「博学で歴史好きのあなたが知らないなら、きっと伝わってないのね。」
「上古の時代、私達が創られてすぐの頃は、息子の神々だけだなく創造神様も自らエルフを教え導いてくれたそうよ。そして、その時に創造神に教えられた事の中に同族殺しの禁があるの。」
「つまり、エルフによるエルフの殺害を禁じられたってことか?」
「そうよ。それなのに私達は創造神様の期待に背いて激しく殺し合ってきたわ。そして、今も。」
ルサールカはため息をついた。
「私、今回の戦の果てには、その報いが待っている気がする。」
何気ない彼女の一言。
今から思えば、彼女の言葉は真に予言だった。
「でも、創造神は君達がライオスエルフを裏切るように仕向けたんだろう?そうなればスヴァートエルフとライオスエルフが争う事は明白じゃないか?創造神はわかっておられるさ!大丈夫だよ。」
「なんのこと?」
「いや、だから、君達は創造神のお導きでヴァラキア魔王国側についたんだろ?」
「いいえ。違うわ。それじゃ、まるで私達が創造神様の思し召しで裏切ったみたいじゃない?」
「そうじゃないのか?魔王様はそう言っておられたぜ。」
「違うわよ!あの時、私達は心底ライオスエルフを憎んでいたのよ。第三次暗黒大戦が始まった時、私には二人の兄がいたわ。一人はライオスエルフの命令でヴァラキア軍の大軍への無謀な襲撃を強いられて戦死したわ。」
ルサールカは憎々しげに言った。
そうなるよな。
「ライオスエルフは私達を日頃から見下し、酷い扱いをしていたの。大戦が始まると今度は私達を消耗品のように扱ったわ。激怒したもう一人の兄はスヴァート族の王の一人となって、ライオスエルフとの縁を切ったのよ!その兄もライオスエルフとの戦いで死んでしまって、私が王位を継いだのよ。」
そうなのか。
それはそうなるか。
あれ?
確かにそれなら創造神の出る幕はないな…
「魔王様が勘違いなんかするかな?」
「まさか!魔王殿は神々の一柱なのよ。勘違いなんかするわけないじゃない!」
そうだよな。
でも、確かに魔王様はスヴァートエルフの裏切りが創造神様による恩恵だと魔王様は仰ったんだ。
「魔王様はどうしてそんな事を仰られたんだろう?」
ルサールカは暫く思案顔だった。
「当時、私達の長だった兄が魔王殿に謁見した時にそう言ったのかもしれない。」
「なんだって?」
「それまで私達はライオスエルフの命令で無謀な攻撃を繰り返していたのよ。それがいきなり裏切ると言っても信じてもらえないわ。少なくとも兄ならそう考えるじゃない?だから、創造神様が夢に現れてヴァラキアにつくように言われたなんて言えば、信じてもらえるかもしれないじゃない?」
それか…
そうなのか…
と言う事は…
「どうしたの?ダンカン?」
「え?あぁ?」
「あなた、失礼じゃない?こんなレディと話している時に上の空なんて。」
「いや、すまん。」
「あなた、何を考えてたの?」
「ごめん。本当、なんでもないんだ。」
何を考えていたなんて、言えない。
ルサールカが言った事が真実なら…
そして、そこから考えれば…
今日は帰れば半神レネが待っている。
その前に俺は衝撃的なことを知ってしまった。
この事は半神レネにも言うべきか?
いや、その前に俺は…
俺にはまだ決められない。
「あーあ!まただんまりじゃない!」
「あぁ、すまない…」
丘陵を越え、広々とした田園に出た。
ブラドへの街道は続く。
雲なく晴れ渡った空は依然として俺の目には白々しく映っていた。




