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プロスト  作者: ガル
第四部
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第四章

 真夜中。室内は小さなランプの明かりだけで、他に光源はない。薄暗い空間の中、ベッドにはリナ、その脇の椅子にはフォリオの姿があった。看病疲れからか、ベッドにもたれるようにして彼は眠っている。

 刃は主を起こさないようにして、リナをのぞきこんだ。昨晩からリナは昏睡状態に入り、目を覚まさない。今はそれこそ死んだように眠っている。

 こいつって本当に不幸体質だよな、とフォリオを見てつくづく思う。いっそ、クライスの性格が少しでも遺伝していれば、ここまで振り回されることはなかっただろうに。

「全く・・・」

 刃は小さくつぶやいて、主の様子を確認した。よほど疲れているのか起きる様子はない。リナも同様だ。

 最後に時間を確かめる。午前一時半。今から行けば、朝には戻れるだろう。

 刃はそっと部屋の壁を抜けた。

 その後で、そっとフォリオが目を開けたことにはもちろん気づかなかった。


 


 向かう先はただ一つ。守護の島だ。

 ここに来るのは三回目だった。限られた時間でカリルを探し回ったが、まだ彼女は見つかっていない。

 いい加減あきらめればいいのに、と刃は自嘲する。諦められないのは、自分にも負い目があるからだと分かってはいたが・・・。

 再び訪れた島は、前と全く変わっていなかった。相変わらず人が住んでいる気配はない。殺伐とした廃墟が広がるだけだ。

 とりあえずまだ見ていないところを回ってみることにする。森の深い場所。切り立った崖の下側。こんなところに絶対人は住まないだろうというところまで見てみるが、やっぱり探し人の姿はなかった。


「もう探すところなんてないっつーの・・・」

 結局は村に戻った刃は、一面に広がる墓を眺めながらごちた。つぶやきは夜の空気に吸い込まれて消えていく。もちろん返事はない。

「ったく、どこ行っちまったんだか。あのじゃじゃ馬はよー」

 ひとりごとだと分かっていても口に出してしまうのは、あまりにここが静かだからだ。死が蔓延していて、ひたすら音がない。

 やっぱりあの時無理矢理にでも連れていくべきだったのかとつくづく思う。こんな静かな場所にひとり置いていくくらいなら。いや。

「・・・今更だよな」

 小さく自嘲して刃は口を閉ざした。黙り込むと、本当に自分がどこにいるのか分からなくなるほど静かだ。

 そのとき、静まり返った夜の中で気配が動いた。

 刃はハッと顔を上げる。

 まさか。

「誰だ?」

 返事はない。だが、誰かがいる。

「・・・カリルか?」

 しばらくして、崩れた家の陰から誰かが出てきた。刃は目を丸くする。

「紅」

 夜の闇に溶け込むようにして現れたのは、紅だった。まっすぐにこちらを見据えている。

「おまえ、なんでここに・・・?」

「ふん、おまえが城を抜け出すのが見えたのでな。後をつけさせてもらった」

 舌打ちしたいのをこらえて、わざと刃はからかうような口調で笑った。

「姫さんの側離れていいのかよ?過保護なおまえがめっずらしー」

「まこと憎たらしいが、トランド城は警備が行き届いておるからな」

「あー、一応信用してくれてんだ?」

 紅が眉をつり上げた。

「刃、茶化して誤魔化す気か?」

「誤魔化す?なにを?」

 紅は一歩踏み出して、周りを見渡した。当然ながら瓦礫ばかりで何もない。

「ひどい有様だな。確かおぬしらがやったのじゃろう?ここには我らが同胞もおったというのに・・・惨いことじゃ」

 嫌悪感からだろう、紅は顔をゆがめてつぶやいた。刃は小さく息を吐くと、彼女の横を通り過ぎる。

 紅が鋭い声で呼び止めた。

「どこに行くのじゃ?」

「どこって帰るんだよ、城に。そろそろ戻らないと朝になっちまう。ほら、あんたも」

「まだ肝心なことを聞いておらんぞ?おぬし、ここで何をしていたのじゃ?」

「何って」

 刃は紅を振り返ると、肩をすくめてみせた。

「暇つぶしがてら、様子見にきただけだけど?」

「そんな嘘が通じると思っておるのか?」

 これだからしつこい女は嫌なんだ、と刃は内心辟易する。流されてくれれば可愛げがあるというのに。

「皇子はこのことを知っておるのか?」

「あのさ。わざわざ寝てる奴起こして、どこどこに散歩に行きますとか言うか?言わねーだろ、普通」

「では言う必要性はないが、特別隠しているというわけでもないということか。わたしが世間話に皇子に話してもかまわない、ということだな?」

「紅」

「おぬしが守護の島で『カリル』という者を探していたと、言っても構わないということだな?」

「紅!」

 思わず強い声で名前を呼んでしまった。

 紅はじっとこちらを見つめた後、大仰なほど大きなため息をついた。

「・・・あほう。いつからそんなに嘘が下手になったのじゃ、おぬしは」

「紅」

 紅は目を上げると、挑戦的な口調で言った。

「皇子は知っておったようだぞ。おまえが何度か抜け出していたことぐらい。今日とて、貴様を追おうとしておったのをわたしが代わりに来たのじゃから」

 思いもかけない紅の告白に、刃は目を見開いた。まじまじと紅を見つめるが、彼女が嘘をついている様子はない。

 では、フォリオは気づいていたのか。

 はは、と乾いた笑い声が口からこぼれた。

「いつからそんなに仲良くなったんだよ、おまえら・・・」

「馬鹿者、気味の悪いことを申すな!そもそもおぬしが隠すからじゃろうが!」

 ムキになって紅が否定する。刃は口を開きかけて黙った。紅に説明する必要はない。

 紅は刃を見据えると、ふん、と吐き捨て、きびすを返した。

「まぁ良い。帰るぞ。貴様なぞ、皇子に説教くらえばよいのじゃ」




 夜が明けきらないうちに戻った部屋の中、フォリオは刃が出ていったときと同じようにベッドの脇の椅子に座っていた。違うのは身体を起こしていたことくらいだ。

「フォリオ」

 後ろからそっと近づいた刃は、淡いランプの下、空になったベッドを見て、目を見開いた。綺麗にシーツが整えられているだけで、そこにリナはいなかった。

 息を呑み込む。少しだけ嫌な予感がした。

「・・・フォリオ、リナは、」

「・・・」

 フォリオはゆるゆると首を横に振った。その横顔はどこか糸の切れた人形のようだ。

 その顔で、嫌な予感が的中していたことを知る。リナが死んだ、のか。

「いつ?」

 一時間ほど前だよ、とフォリオは抑揚のない声で答えた。

 刃は目元を歪めた。苦々しい感情が広がっていくのが分かる。

 ふとフォリオは刃に視線を向けた。

「刃、」

「おう」

「どこに行ってたんだ?」

「・・・」

 刃はフォリオの顔を見つめた。彼に責めるような感情はなく、むしろ感覚が麻痺してしまっているのか無表情に近かった。

 刃はため息をついた。

「怒るなよ?・・・守護の島だ」

 その名前を出したとたん、ゆっくりとフォリオの表情が動いた。人形のような無表情から、驚きの顔へ。

 ひどく長い間黙っていたフォリオだったが、ようやく口を開いた。開口一番は、やはり予想したとおりの名前だった。

「・・・・・・カリルは、」

「フォリオ」

 刃は語尾を強めて名前を呼んだ。

「もう隠しても仕方ねーから話すけど・・・カリルは島にはいない」

「え?」

「いなかったんだ。おれは何度かカリルを探しに、守護の島に行ったけど・・・どれだけ探してもカリルは見つからなかった」

 フォリオはゆっくりまばたきをした。

「嘘だ」

「嘘じゃねーよ」

 はっきりとした態度で告げる。フォリオの目が揺れた。

「じゃ、カリルは・・・」

「・・・分かんねー。島を出たのか、あるいは」

 死んだのか。その一言は凍り付いて出てこなかった。カリルの性格を考えれば有り得ないとはいえ、口に出すには不吉すぎる。

 そっとフォリオの様子をうかがうと、彼は顔色を失っていた。白いというより、青ざめている。

 彼が何を考えているかは火を見るより明らかで、刃は舌打ちした。こうなることは分かりきっていたから、わざわざ黙っていたというのに。

「おい、フォリオ。大丈夫か?」

 フォリオは首を横に振ると、かつての友人の名前を消え入るような声でつぶやいた。ベッドに寄りかかるようにして、上半身を伏せる。

「フォリオ?」

 返事はなかった。








「それで、おまえらはこれからどうするつもりなんだ?」

 ヤノの家。改めて向き合ったヤノに尋ねられ、カリルと響は顔を見合わせた。うなずいて響が答える。

『とりあえず、もう一度だけティティンの王宮に行ってみるつもりです。サガさんと話をして、それから考えようかと・・・』

「まだ軍に入りたいのか?」

 ヤノの問いに、カリルは鼻で笑った。

「軍なんてどーでもいいよ。ただあいつを一回殴っておかないとマジで気がすまねー」

「そうか。それを聞いて安心した。もう顔も見たくないというわけではないようだな」

「あ?」

 意味を問い返そうとしたカリルの横で『ああっ!』と響が奇声を上げて飛び上がった。

「なんだよ、急に」

『カリルさん!あれ・・・』

 響が指さしているのは窓の外だ。海が一望できる。その海と空の境目に、黒い物が浮かんでいた。カリルは目を凝らして見てみる。

「船、か?」

『あれ、ティティンの船ですよ。ほら、旗が見えます』

「どうやら迎えがきたようだな」

 カリルは落ち着いた様子のヤノに視線を向けた。

「どういうことだ?」

「実はな、おまえたちが来てからすぐ、サガから連絡があったんだ。今日のこの時間に来るから、それまでおまえたちの面倒を見てほしいとな」

「はあっ!?」

「もちろんそれまでに枷を壊せないような奴なら、島に置いていくと言っていたが・・・なんとか間に合ったな」

「おいジジイ」

「もしかしなくてもおれのことか?」

「てめーに決まってんだろ!ウィルのことといい、サガのことといい、なんでそういう重要なこと黙ってんだよ!!?」

「文句ならサガに言え。口止めしたのはあいつだ」

「あああああー、ほんとマジでムカつく・・・」

「サガがか?」

「てめーら親子がだよ!!」

 思い切り怒鳴ると、ヤノは声を上げて笑った。

 舌打ちしてカリルはもう一度外に目を向けた。船はどんどん島に近づいてくる。

 ヤノが頬杖をついて言った。

「行ってこい。どうせあいつのことだ、ここまでは来んよ。時間になったらあっさり帰るのがオチだ」

「・・・あんたは?会わねーの?一応息子だろ?」

「おれはいい。そういうのは性じゃないからな。ああそうだ、伝言だけ伝えてくれるか」

「なに」

「そろそろ結婚しろ、と」

「うっわめんどくさっ」

 ヤノはまた笑った。

「冗談だ。せいぜい苦労しろ、と言っておいてくれ」

 仕方ねーな、とカリルも笑う。

「一応伝えておいてやる。響、行くぞ」

『はい!カリルさん!』

 立ち上がったカリルに、ヤノが優しい目を向けた。

「カリル、響。・・・元気でやれよ。落ち着いたらまた遊びに来い」

「おう」

『はい!』

 カリルは戸口に視線を向けた。台所から出てきたキリが、いつもどおり穏やかにこちらを見ている。カリルと目が合うと、ぺこりと頭を下げた。

「カリルさん。・・・フォリオさまのこと、どうかよろしくお願いします」

「・・・ああ、任せとけ」

 カリルは微笑むと、大股で部屋を横切った。頭を下げたままのキリを乱暴に抱きしめる。苦しいです、と笑いながら言われ、また笑ってしまった。

「ヤノもキリも長生きしろよ。・・・色々ありがとな。また絶対来るから」




 カリルと響は途中何度も振り返っていたが、やがて森の中に消えた。海岸線には大きなティティンの船が停泊している。

「行ってしまいましたね・・・」

 キリがつぶやくと、ああ、とヤノが答えた。その横顔はどこか感慨深そうだった。

 キリは微笑んだ。

「寂しいですか?」

「・・・そうだな。なんだか静かだ」

「ええ・・・」

 ヤノは傍らに佇む黒狼に目を向け「おまえも、寂しくなるな」と声をかけた。ダークの尾が、静かにぱたりと揺れた。




 カリルと響が海岸にたどり着くのと、サガが船から出てくるのはほぼ同時だった。

 船の側面に取り付けてある細い階段を、サガが降りてくる。その途中でこちらに気づいたのか、サガは踊り場のところで足を止めた。ふたりを見下ろすと、笑みを浮かべてみせる。

「久しぶりだな、ふたりとも」

『サガさん!お久しぶりです!』

 嬉しそうに両手を振る響とは対称的に、カリルは仏頂面だ。そんなカリルを見、サガはふむ、とつぶやいた。

「どうやら枷は壊せたようだな。まぁそれくらいできないと話にならんが」

「おいサガ」

「なんだ」

「殴らせろ」

「いいぞ、できるのならな」

「その上から目線がムカつくんだよ!降りてこいテメェ!!!」

『カリルさん落ち着いてください。どうどう』

「てめーもバカにしてんのか!」

 隣にいた響にまで矛先が向く。サガはカリルから響に視線を移すと、その半透明なままの姿に眉をひそめた。

「・・・響の封印は解けていないようだな」

『あ・・・』

 肩を落とした響に、サガは苦笑した。

「その様子だとウィリアムさまにお会いしなかったわけではあるまい。どうやら拗れたか」

 その口調からして、響の主をウィリアムにすることをサガが望んでいるのは明白だった。

 響はぎゅっと手を握りしめると、まっすぐ顔を上げた。

『サガさん、ぼくはもう少しカリルさんと一緒にいたいんです。もちろん役目を放棄する気もありませんし、有事の時にはぼくを利用してもらっても構いません』

「実際に戦の時に響を使うとなると、当然おまえは軍にいてもらわなくてはならない。そうなるとそこのオマケもくっついてくるのだろう?」

「誰がオマケだ!人を指さすんじゃねぇ!」

 カリルは大声で抗議したが、サガはあっさりと無視をした。また響に話しかける。

「つまり、カリルを主と認めた上で、正式に軍に置けということか、響?」

『そうです』

「だめだと言ったら?」

 冷静な声に、響はくちびるをかんだ。

『・・・その時は、ぼくはカリルさんの行くところについていきます。トランドに行けば、戦況の把握も少しならできるはずです』

 響の強い意志に、サガはふっと息を吐いた。視線を横にそらし、茂みへと向ける。

「これに関してはおれに決定権はない。・・・どうされますか、ウィリアムさま」

 声を投げかけられ、茂みを揺らして誰かが出てきた。ウィリアムだ。

 響はびっくりして目を見張った。

『皇子・・・』

 ウィリアムは前に進み出ると、サガに向かって声を投げた。

「サガ。おまえは以前、危険だからと言っておれをここに置いていったな」

「はい」

「その選択は正しかったと今でも言えるか?」

 真っ直ぐな目を反らすことなく、サガは「はい」と受け止めた。

「失礼ながら、あの時まだウィリアムさまは加護を受けられる年齢ではありませんでした。軍はトランドの急襲に混乱し、体勢を整えるだけで手一杯だったのも事実です。

 ウィリアムさまの御身の安全は何にも代え難いもの。あの選択を間違っていたとは今でも思いません」

 迷いのないサガの答えに、ウィリアムはくちびるをゆがめた。

「おれもそう思っていた。いや、実際そうなのだと思う。王族が死に絶えては話にならない。・・・つまりこれは、違う問題なんだろうな」

 最後の一言は、まるで独り言のようだった。カリルは無表情に、響は心配げにウィリアムを見つめる。

「ウィリアムさま」

「サガ。認めたくはないが、おれはまだ響の主にはなれない。・・・なる資格がない」

 サガはじっと次代の王を見つめた後、分かりました、とつぶやいた。

「では、どうされますか。このままここに残られますか?」

 ウィリアムは小さく苦笑した。

「愚問だな。島の生活にはいい加減飽きた。それにおれはもう守られるような年でもない。父上と母上が遺した物を守るつもりだ」

「・・・承知しました。ともに参りましょう」

 ウィリアムの返答に誇らしげにサガは敬礼する。まるで何かの儀式のようなやりとりを傍らで眺めていたカリルを、急にウィリアムが振り返った。

「カリル」

「・・・なんだよ?」

「石版をかせ」

「・・・」

 カリルは目を細めると、いつも首から下げていた石版を手に取った。手の中のこれは、響の本体だ。彼の命といっても過言ではない。

 ちらりと響を見ると、彼は大丈夫だと言いたげにうなずいた。

 ほら、と石版をウィリアムに投げる。

 受け止めたそれを、ウィリアムは感慨深そうにじっと見つめていた。しばらくしてそれを砂浜に置く。誰も何も言わず、彼の動きを見守っている。

 ウィリアムは腰に帯びていた剣を抜くと、それで指先を切った。深紅の血がぱたぱたと落ち、乾いた砂に吸い込まれていく。

 小さく息を吐き出すと、ウィリアムはその血を石版に落とした。

 瞬間。白い光が石版を包んだ。

「!」

 あまりのまぶしさに目を閉じ、間を置いてそろそろと開ける。砂浜にあった石版は綺麗に消えていた。その代わり。

「あああー!!ぼくの身体ですーっ!!!」

 響を見て、カリルはまばたきをした。彼の姿はもう半透明ではなく、刃や汐と同じようにはっきり見えていた。声も以前よりクリアになったような気がする。

「ああ、懐かしいですぼくの身体!」

「・・・つーか、半透明じゃなくなっただけじゃんか」

「むっ失礼な!前とは全然違いますって・・・うわああああああああ!!!!!!」

 とつぜん叫んだかと思うと、響は見えない引力のようなもので一直線にサガに引き寄せられていった。「来るな!」とサガの強い拒絶もむなしく、その身体にスポンと吸い込まれてしまう。

「・・・」

「・・・」

 カリルとウィリアムは思わず顔を見合わせた。すぐにサガの声がしたが、すでにそれはサガではない。

「うえぇぇぇぇん、カリルさぁーーん!!」

 べそをかくサガ(正確には響だが)の姿に、カリルとウィリアムはさっと同時に顔を逸らした。

「・・・なんつーか、あれだな。初めて憑いたのを見たときは、サガのこと知らなかったから何とも思わなかったけど・・・今見ると強烈だな。キモい」

「・・・サガの霊媒体質、治ってなかったんだな」

 口元を手でおおって視線をそらしているウィリアムに、そっと尋ねる。

「でもさ、さっきまでは平気だったじゃんか。なんでいきなり?」

「今までの響はただの精神体だろう?封印を解けば本来の力が発揮される。だからじゃないか?」

「ああーなるほどー」

「なるほどーじゃ、ありません!!」

 いきなり至近距離で聞こえた抗議に、カリルはぎょっとした。いつのまに降りてきたのか、間近にいたサガ(響)がしがみついてくる。

「ふたりで納得してないで助けてくださいよー!!!」

「うわバカ、くっつくな!!キモい!!あっ、こらウィル、てめー逃げんなぁッッ!!!」



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