そしてニート化するエンシェントドラゴン(笑)part2
「人類滅ぼしたら……平穏になりますか?」
「魔族を崩壊させたら……穏やかな生活になりますかね?」
「人類を滅ぼせば、魔族が内部分裂するじゃろう。魔族を崩壊させれば人類の国同士の戦いがさらに燃えさかるじゃろうな」
「ワレの方が聞きたいわ。それは一体どういう情熱なのだ? 人類にしろ、魔族にしろ」
「戦わずにいられんのか? 征服せずにいられんのか?」
「この世の総てを独り占めにしたがらずにはいられんのか?」
「それがその身に可能であると……どんな根拠で信じておるのだ???」
「その弱っちく儚い身で……なんでそんな悪夢に取り憑かれておるのだ?」
「あのバカ者どもが目を輝かせる“希望”とか言うヤツは、己が民族を滅ぼす業病か、己が文明を内部から蚕食する腐毒そのものにしか見えんのじゃがな」
「攻められたから攻め返す、攻められそうだから先に攻める、とか言ってたら始まりも終わりもない。ただただ繰り返すだけではないか。敵国から見れば全く鏡構造だ。延々と同じ所を回るだけだ。バカみたいとは気づかないのか? 自分の尾を追ってぐるぐる回る犬と同質ではないか」
「そんな難問の答えなんて持って無いっすけど………」
「それじゃどうあがいても」
「平穏にならないじゃないですか」
「平穏などいずれつかの間よ。永きに渡り世に在するワレの目から見て……と言うだけでも無くな」
「………ふぅぅ。クソだね」
でも……ホントに……ここでの穏やかな生活が俺の望みか? そうなのか?それすら曖昧だ。
「もう……ほっといて欲しい、って望んだらダメですかねぇぇぇ?」
「なんでオヌシがワレと共鳴したか……なんとなく今……分かった」
「嫌気が差している。そんな気分が共鳴したのだろうな」
「お互い……この世界がキライですよね。うんうん」
キライ……とまでは言えねぇか? ひたすらこの、何処かのバカ野郎に押し付けられた立場が……うぜぇ。だっるっっ……の一言だ。
ドラゴンさんも……そんな感じなのかな?
人嫌いってー程でもない。ハヤリのコミュ障とか言うわけでもない。
大体初対面のヒトとちゃんとまともに喋れなくって日雇いが勤まるかっ。
毎日のように違う現場いくんだぜ。大概会うヒト会うヒト知らんヤツばかりだ。
それがふつー。それはただの当たり前。
そこで和やかに振る舞えるか、なんなら爆笑の一つも湧き立たせる、そんぐらいのスキルが無きゃ、日銭七千八千の端仕事すら勤まらねぇだろう。
だからといってその日銭現場に所属しようなんて気は欠片も起こらない。
一人とぼとぼと安宿に帰り、安メシ食って、安酒飲んで、一人くたりとせんべい布団に転がる。
それがなんか極めて楽なのだ。無名の愉悦。誰でも無く、たいしたこともなく、居るかどうかすら確かでない孤独の愉楽。
俺のことだけ、その極めて数少ないコトのみちょっぴり考えて……あとは頭の中は空っぽ。その軽さ。心の軽さ。
その空っぽに俺のやりたいことだけちょこっと揃えて……ああ、貧楽。
貧乏って……楽。ギリ喰えてイケさえすれば。
僅かな安酒と煙草銭がアリさえすれば。
ギリギリでなんとか家賃が払っていけさえすれば。
一人が寂しいとか……? どうも意味がわからなくなってしまった。
一人でいるのが極めて日常なので……一人でいて寂しいって感覚がどういうモノだか……なんか……うまく思い出せない。
寂しいって……どんな感覚だったっけ?
そんな人間、こんな世界に呼んで!ナニやらそうってーの!!!
神! 出てこい神! 釈明しろっ!!!
「逃げます? 地の果てまで二人で?」
「空の果て、地の彼方まで飛んでも……ワレがエンシェントドラゴンであることは辞められぬ。逃れることは出来ぬ……」
「オヌシが魔王の息子、次期魔王であることも……な」
「辞めるって言えば……辞められません? 魔王なんてヤダ、って」
「辞めると口にすれば……他の王子が寄って集ってオヌシを暗殺しに来るだけだろうな」
ま、居ないみたいなんですけどね。俺の脳内のコレ以外に王子とか。いや、親戚とかか?継承権?
「盤石、というのはそういうコトだ」
「ただ一人の王が決まるとき、他の候補者は闇に葬られるのみ。対抗勢力など生かしておく理由がない、と言うモノだろう」
……だから王様、一人しか子供作らなかったのかなぁ……
あんだけえろえろ王妃でも。
「どん詰まりですな」
「どん詰まりじゃな」
「この世界で死んだら……元の世界で……はっ、とか言って、目覚めませんかね?」
「ふつーに。今まで俺が知っている世界で何事もなく……戻れませんかね?」
「わからんな。やってみるか? ワレの爪の一刺しで出来なくはないぞ」
「……ギャンブル性が高いっスねぇぇ」
「それはいよいよ最後にするっス。どういう形に為るのかわからないっスけど」
「うむ。ささやかな友情の証に、なるべく痛み無きよう計らおう。約する」
やだやだ。鬱々。
「近々……一番やりたいことはなんなのだ? 気反らしにはなるやも」
「一番っスかぁ……魔王の嫁さん……縛りてぇっスね。あわよくば!その先もっ!」
「やめろっ!……母上を汚すなぁぁぁ!」
ああ。陰湿な気晴らしが一つあった。
この俺の頭の中から出ていくことが出来ない哀れな王子様でもからかって気晴らしするか。くふふふっ。
「お前の兄弟を作ってやるぜぇ……ぐふふふ……妹がイイか?弟がイイかっ!」
「ま!俺のタネだがなっ!!」
「くっ……オマエを殺すっ……そんなことしたらぁぁぁ!……ああっ……でも……どうすればぁぁっっ……」
「そーだよ。お前は俺の中で、俺の頭の中で!俺がお前の母親を……アレコレするのを!ただ見ていることしか出来ねぇんだよぉぉっっ!」
「こ、殺せっ! ど、どうやったら死ねるっ?」
「解せんなぁ……お前の中にも……ちらりとそういう欲望があるはずなんですけどねぇぇぇ……あれだけのえっちっちボディだ……若いオスとして……そういう目で見たことが一度も無いとは言わせねぇ! それに……オトコのコと母親だ……必ず、微かにでもそういう欲求は湧いて出るはず……大概必死に押し殺すがね……でも……押し殺さねばならぬ程……それははっきりとあるんだ……その上!それも無理ない程!あのカラダはヤバい……メス過ぎる極上ボディだ……あのカラダの曲線総てが……オスに孕まされたい……そう訴えているんだ……王子様はそう思いませんかねぇぇ……」
「お、思わんっ!思わん思わん思わんっっっ!」
激しい拒絶が。その魂をねじ切らん程の苦悩が。
愉しいったらっ。くすくすくすっ。
「な。解放しちゃいなよ。くすすっ。はいはい。俺が悪いんです。俺が無理矢理ヤっちゃうんです。キミは少しも悪くない。キミは止めることが出来なかった。出来ないスタンスにいた……だから……それを望んでしまっていた、とあとから気付くのも……仕方の無いことなんです……華やかに縛られて……えっちに喘ぐ母上様を見て……興奮しちまうことも……しょうがないことなんです……くふふ……な、呑みこんじまえよ……楽になりな、王子様っ……くすすすっ……」
「あ、悪魔っ……キサマこそ真の魔族だっっっ!!!」
それ褒め言葉?
「そんな鬱なら!私に身体を返せ!」
「出来ンならやってるよ! それで俺が俺の元の身体に戻れて!身の保証もされんなら! 歓んでやってやるっ!」
「第一!そもそもやり方が判んねぇよ!」
「さらにそもそもを言えば!だっ!」
「なんでお前!俺の頭ン中に残ってンんだよ!!!」
「私にだって判らんっ!はよ出て行けっ!」
「出来りゃやってるってんだろっ!クソ王子っ!」
一人で頭の中でとっくみあいをしてる……一人でごろごろ頭を抱えて床に転がっている、罵詈雑言を吐きまくっている俺を、奇妙な虫を見る目でエンシェントドラゴンが呆れたように見つめていた。




