ニート仲間が出来たのでした part3
動揺していた。人類軍も魔王軍も。細かく震えていた。
それはこの世界の人全てにとって、ドラゴンとは圧倒的な恐怖なのだ、と示していた。
思わず立ち上がったチツが青ざめていた。
真っ黒な巨体は小山の如く。近くにある山と比べても遜色ない頭の高さ。
その目が真っ赤だ。怒りに充ち満ちているかのように禍々しい。
バサリと広げた黒い翼は山の尾根から尾根まで届いている。
グォォォッッとその長い首を仰け反らせて吼えた!
その重低音の叫びは、本当に地を震わせた。足裏に感じた。
チツがへたり、と尻を落とす。マクが杖に縋り付いて脚を震わせている。ヨニも両膝を付き、真っ青になって固まっていた。
人類軍、魔王軍、もう分け隔てなく、目に怯えを映し……地に伏し、何かに祈っているモノまでいた。
動けるモノなどいない。俺だけだ。
よく知らない俺だけが動けた。
ファンタジーとか全く実感できない俺だけが。
ただ、それが脅威の固まりであることだけは判っていた。
「チツ!マク!ヨニ!人類軍側に行け!戦線を膠着させろ!攻めさせるな!攻めるな!押さえろ!」
そう叫ぶと、ふらふらと立ち上がった三バカマゾ親衛隊達が背後に消えていく。
チツの心配そうな瞳はちらっと見えたが。
その間に俺はドラゴンを!
な、な、なんとかするっ!なんとかってなんだ???!!!
縛れるかっ!俺の〝縄師入門〟ならっ! でもでもデカすぎぃぃぃぃ……。
いけんのかっ!〝縄師入門〟っ!
俺はとりあえずの片手に剣、と、もう片手に〝縄師入門〟を抱えるという、何したいのか自分でも判らん、と言うカッコで突っ立っていた。
ホントに……何したいのか自分でも判らなかった。
もう、もう……聞いてみるしかなかった。
「な!何しに来たんですかぁぁっっ!」
思わず口から出た余りにも幼稚な言葉に自分で絶望した。
「……うるさい……うるさいうるさい……ヒトが寝てれば小うるさい……がちゃがちゃと耳障りな金音をっ!……」
が。
あれ……言葉通じるじゃん。
刃の先をつい下げてしまう。
その事に気付き……エンシェントドラゴンも怪訝に目を細める。
「ん……汝……この世の者では……無いのか?」
「ん。ちょっと違うんですけど」
「別世の転げ込み……か……?……久方ぶりに見よう……」
ぱしぱしとその大きな目の瞼が何度も瞬きする。
直感的に……敵ではない、と感じた。
「ここには何しに?」
「あまりの騒がしさ……命が泡の如く消え去るさざめきが耳に煩わしく、取り敢えず総てを焼き払い、消し去ろうかと」
「出来ちゃうんですねぇ。騒がしくして申し訳ない。ちょっと待ってていただければ。もうすぐ追い返しちまうんで」
「……んぅ?……真言の響きがあるな。かくしてかくなる世の理の響きだ……」
その古龍は少し驚いた顔をしていた。
「そ、そうっスか……ちょっとお待ちいただければ……なんぞもてなしなんか用意しますけど」
「ワレと闘わないのか……?」
「話が通じる存在といきなり闘うのは……あのバカな人類だけで充分です。十分すぎます。はよ帰れ。アホ共。全員死ぬぞ」
苦々しく吐き捨てる俺の言葉に、大きく開いた目がゆったりと弓の形を描き……耳まで裂けた口がにんまりと歪んだ。
「興が乗った。もてなしとやらに期待する」
「ま……どーしましょ……このままってわけにも……少々申し訳ないっすけど……やられたフリでも、していただけると……」
「いささか矜持に響くが……まぁ……よかろう……」
「なんか、俺の方から光線みたいなモノをびびびと出して……それに当たって……うわぁ……やられたぁ……的な演技をお願いしちゃっていいですか?」
「適当にその手から出せば良かろう?どうせワレには効かん」
「なんも攻撃スキルが無いんですよ。なんか適当なモノが出せればいいんですけど」
「なんと。よわよわでは無いか。それでよくワレの前に立てたモノよ」
「もう死ぬ覚悟っスよ。ま。話が通じてラッキーっス」
「……ふふっ。よかろう。自作自演の討伐劇。一刺し舞って見せようぞ!」
手をかざせ、と言う指示そのままに掌を向ける。
そこからなんか光が出た!びっくり!
その光が一直線に古龍の顔を照らす!
ぐぉぉぉぉっっ!と派手に重々しい響きの咆哮を響かせて、一度伸び上がった古龍がぐずぐずと崩れるように……どさりと横倒しに倒れた。
名演技のように見えた。さっすがぁ。
小さく呟いたのが聞こえていたのか、古龍がこっそりとウインクをして見せた。
ちっと待っててください……と、その横倒しの巨大な顔に近づき、囁いたあと……取り巻いている魔王軍に向かって叫んだ!
「この竜は眠らせた! これはもう手を掛けずともよい! ただ、僅かにでも剣で触れれば!再び竜が目覚めるぞ! このまま放置せよ!」
「それよりも! 今は正面の人類軍だっっ!」
「貴様らも人類軍の方に全員回れ!」
このクソ面倒くさい人類軍の方に脚を進めた。
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脳筋ジャンヌは下ろして……人類軍に任せた。
はい、王都まで行ってきてぇ。お疲れ様でした~。また今度~。
脳筋ジャンヌを無力化された人類軍はあわあわと撤退していった。
ホントにカリスマなんだなぁ、とちょっと感心した。
そんなあっさりとした撃退後。
「で……いつまで寝てればいいのだ?」
「えーっと……それじゃあ魔王城の地下にでも、来ていただきますか」
魔族も、皆遠巻きに見守るだけだ。ずかずかと近づくのは俺だけ。
小声の会話など、誰にも聞こえない。
「身体大きいから……そのままじゃ入れないっスね。んー」
魔王城の方角に向けて、掌を立てる。その真っ直ぐ下。地下のこの辺……かな。
「はい。この角度辺りに……ブレスでも一発かましちゃってください」
「イイのか?」
「ま、崩れない程度。あの上のヘンな城が転げ落ちない程度にお願いします。ドラゴンさんが入れる範囲に穴でも開けちゃってください。その先に広い地下のドームがありますから」
少しだけまた、エンシェントドラゴンの目が見開いた。
少し驚いているようだった。
「その決断……見事である……大事の決の迅速さよ……ワレの力を信じると?」
「別にあんな城どうなってもイイかな……ってだけかも。あはははは」
古龍の顔のこわばりが少し解けたような気が……
「ま、そう言うのなら、遠慮はいるまい。存分に大穴、風穴開けて進ぜよう」
むくりと起き上がった古龍に周囲はビビり! おおぅ……と言う野太い声と共に遠巻きがさらにすざっと遠ざかった。
その口がかぱりと開き!
轟音と共に目も眩む光りが!
地に突き刺さった光りの筋が! 岩を巻き上げ、土砂を噴き上げる!
その岩土が溶けて消え去る!
ふっ、とその光りの大束が消え失せると……
まるで何もかもが失われたように……
ただ厖となる大穴が口を開けていた。
ちょいと顔を傾けてその大穴を覗くと……
魔王城の地下の大広間にきっちりと続いている。
さっすがぁ。
二度目の驚嘆に、エンシェントドラゴンの目尻がくたりと垂れた。
その穴の中に巨体が進み入る。充分に広さは確保されていた。
「もてなしとは……何がいいかの……ムゲリアの毛牛の雌五六頭……それにアンダリスの麦酒の蒸留モノ……樽三つ分ぐらいがよいかの……いや、四樽じゃな……期待しておるぞ……ふふふふ……」
大きな竜体がのしのしと大穴の中に消えていく。
量が多い! ま、あのカラダだ、と言うことはあるけど!
注文が細かいな!
美食家なの?




