第九話「偶然の産物」
「(まずいまずいまずいまずい!!今、百合はこっちの状況わかってねぇ!最悪だ!最悪すぎるタイミングだ!)」
百合との距離は近い。このままだと百合を手にかけてしまうであろう距離。もう少しこの状態になるのが遅かったら百合に逃げる時間はあったかもしれない。
「(もたない!これ以上時間をかけれない、、だったらどうすれば、、振り向かす?いや、ダメだ。その後は百合次第の運だ。賭けるなんてできない!、、賭け、、るしかない。別のやり方で、)」
体が疼き始める。目の前の人間に噛みつこうとする意思が琉導の意思を押し潰していく。体に力が入り、手が百合に狙いを定める。
ただ、この瞬間の力に微かな意識の中、琉導は百合にぶつからないギリギリ右側を狙い跳んだ。
狙った以上に跳んでいるがもうその頃には琉導は意識が無かった。
「えぇ!?」
跳びながら横切るゾンビを見て何が何だかわからなくなる。ゾンビの区別はついているため、先ほど襲ってきたゾンビではないことは分かる。が、なぜ彼が跳んでいるかわからない。
琉導はそのまま地面に衝突する。何段もある階段を数段飛ばしに激突しながら落ちて行く。常人であれば息は無いだろう。
「え?え?え?ちょっと大丈夫!?」
一番下まで転げ落ちた琉導を追い、近づく。すると琉導は呻き声を上げ、首だけを百合に近づけて噛みつこうとする。四肢は全て折れているようだ。
百合はその噛みつこうとする琉導を見てハッとする。すぐさま洗浄瓶を取り、琉導の口へ血液を注ぐ。
ーーーーー視界がだんだんと晴れてゆく。感覚で言えば長時間座った後立ち上がる時のボヤッとする視界が少しの間続いた。周りを見渡そうとすると百合が目の前にいた。
「あえ!?もう目が覚めたの?骨めっちゃ折れててしばらく寝てるかも、、、あれ?折れてない、、」
「(上手くやってくれたんだな。、、あのゾンビは!!)」
琉導が突然体を起こし、階段方面を見る。ゾンビはまだまだ遠いところにいるようだ。
ホッとした琉導が横を振り向くと百合が鼻血を出して睨みつけている。どうやら起き上がった時に衝突し、気づかなかったようだ。
「(ご、ごめんな。)」
「むっ、、ほら立ち上がって。行くよ。」
両手を掴まれ、勢いよく立ち上がることができた琉導の顔はどことなく悲しい顔をしている。
しかし、ようやくここで目的地がはっきりと見える。ここが今回のゴールだ。
二階建ての構造で、そこらの店より断然広いだろう。ここらじゃ有名でもおかしくない。
「(こっち側あんまり来てなかったからなあ。ちょっと新鮮味があるし、しばらくは拠点にできそうなの多いしなあ。)」
想像以上に人がいると思う。それくらいには人が入れる場所が多いということだ。
そんなこんなでスポーツショップに着いた。不思議と車がなく、中に人がいない可能性が高い。
「(ドアは流石に壊れてるか。まあ、百合にも開けれる程度のものだよね、、?)」
「あー、やっぱり中暗いねー。懐中電灯とか売ってるかな?」
百合は全力で片方の扉を開け、中に入る。一様で扉も閉めておいた。
琉導は閉めておくのも、中にゾンビがいないのを確認してからの方が良いと思ったが、最悪盾となり時間は稼げるため、可能性を置いておいた。
「あ、あるじゃんあるじゃん!懐中電灯!こんな世界だし、使っちゃっても文句言える人はいないから、ありがたく使わせてもらいます。」
「(この日まで生きててよく冷静になれるよなあ〜。)」
はっきりいうなら異常だ。普通にできるわけが、いや、できないはずの環境なのにだ。逆にその精神に支えられているのも事実ではある。
ひとまず休憩だ。百合が歩く先には散乱した飲料などがある。琉導自身は多分食べても変わらないと思うが、、
「ここいろいろあるね。とりあえずで持てそうな武器とか、、、あ!キャンプショップじゃん!寝れるよ寝れるよ!」
「(流石だなここ。ちょっとした娯楽場って感じかな?)」
琉導は服を見始める。ズタボロの泥で汚れた服はどうにかして変えたいのだが着替えれない。なんだかんだで見てしまうのだ。
「うーん、どういうのがいいのかな。動きやすくて、怪我しなさそうなぁ、、、」
同じく百合も服を探す。こちらの方は懐中電灯で照らしながらゆっくり考えている。
すると、後ろから声が聞こえてきた。
「あなた、、一人で入ってきたの?」
50〜60代あたりの女性だろう。更衣室の中から出てきた。あまり痩せ細ってはいなく、中肉中背。この環境では食べれている方だろう。
「は、はい。あなたはずっとここで暮らしてたの?」
「いいや、3日前にきたところさ。扉がしっかりしていて食料もあったからね。君も私たちと一緒に身を潜めるかい?」
「私たち、、?」
すると、女性の後ろから一人、他の更衣室からも数人が出てきた。
「見ての通り、私たちも人数が多い。ここで長居とまではいかないが、共に生き残ろう。」
少し嫌そうにする人もいるが、皆その考えに否定はしない。
すると、百合の後ろから琉導が顔を出す。女性の青ざめた顔から理解せざるを得ない。
「な、なんでゾンビが入ってきてるんだい、、?閉めたよね?扉、、」
「あ、待って聞いて!この人は、、」
「早く殺せぇぇ!!」
急な叫び声で百合の声が掻き消される。声を発したのは後ろ側にいた男性のご老人だ。
「ち、ちょっと、一旦落ち着いて、話は聞いて、、」
「うるさい!お前が連れ込んだんだろ!お前の責任だ!お前が悪い!早くどうにかして殺せ!」
完全にパニック状態だ。周りもそれに呑まれ、変貌してゆく。目の前の女性はパニックで青ざめ、尻餅をついてしまった。百合も対処しようとそのパニックに巻き添えだ。
今冷静で居られるのは琉導のみ。自らの対処は百合に害が及ぶ可能性がある。
「もういい!俺が殺してやる!」
一人の男性が金属バットを振り上げ、琉導めがけて振り下ろそうとする。
「待って!」
百合が琉導の前に出るがなりふり構わずバットを振り下ろそうとする。
「(そうだった。普通はこういう感じになる。たまたま百合と出会ったからこうなっただけで、始まりはこうして人とも関わらなかったかもしれない。偶然が産んだ奇跡が現実を見せてきただけだ。)」
琉導は百合の前に腕を置き、ゴキッという音と共にバットを受けた。




