第八話「遭遇」
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場面は戻り琉導、百合は森をそろそろ脱出するところまできた。
琉導にとっては未だ安心はできない。百合をゾンビにしないことが絶対条件としている以上、不安が冷めた体に残る。彼の心は覚悟が決まっているが、体はゾンビらしい若干猫背である。
「私こう見えて部活はバスケだよ?運動には自信があるんだー」
よくここまで来ても話が終わらないな。女子というのはそういう人なのか、と疑問になる。
それに見た目は活発系そのものだろう。初見の時は怯えていて、恐怖の視線しか浴びていなかったのが今ではすっかり手のひら返しだ。その手のひらが逆じゃなくてホッとする。
「あ、そろそろ着くんじゃない?」
木々がない場所が見えてくる。まもなくという証拠だ。白色の服が何箇所も土色になる旅路。疲れという概念が欠如した琉導でも精神的に疲れている。ようやくーーー
安堵している琉導の目に見えたのは公園だった。
「あ、あとは階段降りるだけだよー」
『階段』。それも病院とは違い降りる数が多い。しかも確実にこの体では不安定になるであろう幅の短さ。荷物は一部破損すると考えよう。それにしてもだ、、、
「(なぜ、なぜスロープがない、、!俺がもたれる場所がないじゃないか!さっきからそうだよ、ここまで俺が土被ってるのあの山道に弱点が多すぎるんだよこの体、、!俺何回滑った?なんだったら歩いてるだけで転んだぞ!)」
「あ、大丈夫そう?一緒に降りよ?」
どこの誰でも聴き惚れる天使の囁きだ。百合は若干辛そうにはしているがまだ行けそうな笑顔である。流石は元運動部だろう。いや、年齢を知らないから元は言わないほうがいいだろう。
だが、悪魔の囁きが耳に入る。
「(男として、女性の方を借りることができるのかい?)」
先ほどまでの考え方だ。自身の持つバッグがそう語りかけてくる。
「(、、やっぱジェンダーレスだよね?)」
なんなんだ俺の天使は。としか言いようがないちんちくりんな天使の囁きだ。これが天使のセリフかと言われると絶対にそうではない。
この悩む時間が最も勿体無い。だから、決断は早い。琉導は肩を交互に前に出して盛大に『NO!!!』のサインをした。
「え、そこまで嫌なの、、?うん、そう、そうなの、、」
明らかにしょぼくれた顔の百合が目の前にいる。
「(せーかいだよ。ゾンビめ!)」
「(頼られたかったんだよ。そーんなこともわからないのか。)」
悪魔と天使が囁きを入れてくる。こいつらは言い争うどころか取り憑いた本人を小馬鹿にして消える。
「(2択むっず。)」
言葉にできないため空気が悪いままになってしまうのが本当に辛い。百合は少し無言のまま歩く。チラチラと琉導のことは横目で見ているようだ。
ザザッ、ザザッ、ザザッ、ザザッ、ザザザッ、、
明らかにおかしい。今足音が出るのは琉導自身と百合だけだ。なのに第三の足音が聞こえた。すぐに後ろを振り返るとそこには一体のゾンビがいた。
ゲッとなった琉導が足を止める。横目で琉導を見ていた百合もそれに気づき振り返ってゾンビに気づく。
見た目は全身にところどころ枝などに突き刺さった跡が大きくある。琉導のように再生はしないらしい。
「うっそでしょ!?後ろから来たの!?」
二人とも恐怖より驚きが勝っている様子だ。それもそのはず。先ほどまで森で周りを幾度も見渡しており、絶対に、とまではいかないが近くにはいなかったはずだと言える。
「(なんなんだコイツは!しかもたった一人でこんな木に囲まれた公園なんかに、、。正直、俺たちにあいつを殺す手段なんか無いと思う。なら逃げる以外無いでいい、、か。)」
琉導は「ゔゔぁぁ」と百合の注意をこちらに逸らしつつ階段を降りる。これで逃げると勘づかせる算段だ。
百合は焦りであたふたしない。ゆえに即理解し、急いで階段を降りる。
「走れ走れ走れ走れ、、転けないようにぃぃぃ」
百合が先を走れるように琉導は後ろを見ながら降りて行く。
しかし予想外のことが起こった。なんとゾンビが走り始めたのだ。明らかに琉導より速いと分かる。
「(なんだコイツ、、!今までの奴らとはマジの別種!、、、俺もそうじゃん。)」
そうこう考えていると、ゾンビがもう目の前まで来ていた。琉導は半歩ずれ、百合の進む道を作る。
このゾンビは他のゾンビと同じく琉導を襲おうとはせず、狙いは明らかに百合だと分かる。琉導がずれても行動を一つも変えないからだ。
「(このままだと単純に時間の問題、俺がすべきことは足止めのみ!)」
琉導はゾンビが横に来たタイミングで横に押し、ゾンビに上乗せになり倒れた。依然とゾンビは百合に照準を合わせている。琉導を持ち上げようと必死だ。
「(堪えろ堪えろ!コイツが止まるまで!百合が安全になるまで!)」
足は想像以上によく働いてくれる。まだまだ粘れそうだ。
「(早く止まってくれよ!頼むから!)」
単純な足止めでは異色のゾンビには不十分なようだ。後十数秒持つかわからない。焦りが止まらない琉導の耳に更なる事態の知らせが届く。
「君!もうちょっと耐えて!」
百合の声だ。先ほど走って行ったはずの百合が近くまで来ている。だが後ろを向いて力を緩めるようなことはできない。どのみち声も出せないのだから百合の行動を否定できない。
「そのゾンビの足だけ結ぶから!ちょーっと大人しくしてほしいな!」
よく見ると手には釣り糸っぽい糸を持っている。
結構長いため、百合は腿とふくらはぎあたりを結び、琉導の知らない結び方でガチっと縛った。
「君、後5秒後ぐらいに放して!OK?」
「(OK!信じるよ。これでいけるんでいいよな!)」
5秒後、肘を使って体を上げる。幸い坂のおかげで上手く立ち上がれた。
ゾンビは手を使って追いかけようとするが格段に遅い。
「(完璧じゃん!逃げるぞ逃げるぞ!)」
百合は転けないように注意しつつ大急ぎで階段を降りる。
この瞬間、琉導の視界が暗くなり始めた。




