第十七話「出発の時」
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「お風呂に行きたい」
琉導、百合、葉吏が出会った日から5日が経過した。そろそろ清潔な体が欲しくなる頃であるのは間違いないだろう。
百合はサッと袋と洗剤セットを取り出した。
「葉吏くん、温泉とか知ってる?」
「ボクはこの辺りについてそれほど、、」
まぁだろうなという結果だ。火はいくらでも作れるが持ち物の水は貴重。他で使用しなければならない。
「(温泉、、今の俺とは無縁だな。)」
ゾンビにそんなこと必要ないとは思うが彼らにとっては必要。なら動かないわけにはいかない。
「温泉、、温泉、、温泉、、」
百合はすでにゾンビみたいに項垂れている。限界が来ているのだろう。
それを見て葉吏は必死に考える。
「あ!百合さん、山に行きましょう!」
「や、山?」
「ええ。山はゾンビが滅多におらず、川があります。そこで洗いましょう。このスポーツショップはキャンプセットもたくさんありますので可能かと。」
危険を避けることに限って確かにベストだ。
だが、川の所在が不明なのと百合と琉導が山で出会ったのは足の速い異様なゾンビ。また来ても対応できるかなどわからない。
「え、いいじゃん!行こ行こ!君も一緒にね!」
勿論琉導も同意だ。これで行き先は決定した。彼らは再度、危険な旅へと進んだ。
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やはり山中となれば誰もいない。張り詰めた空気は薄く、気楽に行けそうだ。
この世界の中、久しぶりの小鳥の囀りが聞こえた。山中はもう異世界に来たような気分だ。
「耳を傾けながら進んでください。聞こえたらそこへ行きましょう。」
彼らは探索を進める。赤黒い場とは無縁の地で。
ただ、山頂あたりまで来ても未だ川の音が聞こえない。
「(無駄足になりそう。まぁそんなもんだよな)」
そんなときにふと耳に入る音があった。それを聞いたのは百合だ。
「あ!聞こえる!右、側?」
その声で残り二人がバッと右側を向き、耳を澄ませる。葉吏はなんとなく?聞こえるが、琉導には全く聞こえていない。
体を洗いたい欲が百合の聴力を強化でもしたのだろうか。
「行こ行こ行こ!早くしないとゾンビにバレちゃう!」
その言葉で百合自身がピクッとなり、琉導の方を向く。葉吏も苦笑いでこちらを向いている。
「(、、、言われなくてもわかってるって!)」
百合はその場から逃げるように音がしたと言った方に走って逃げる
「今逃げるとこの後も気まずいですよー」
そう言いながら葉吏も歩きで追いかける。勿論目の届く範囲でだ。
チラッと琉導の方を見て、行けます?と声をかけてきて、それに琉導も頷いたことで二人とも歩き始めた。
「あ!見えた見えた!ほらほらこれ!」
「待ってくださ〜い。」
はしゃいでいるのは見えるが、男二人にはその光景がまだ見えていない。
葉吏が先に辿り着き、笑顔になる。場所としても良さげなのだろうか。
「(いいじゃんか)」
そこは確かに川が流れていて魚もいるような透明感と清流がそう伝えてくる。
「きぃぃたぁ!」
百合は喜びのあまり思いっきり坂を降りていく。いつ転けてもおかしくないが、こういうとき、意外と転ばないのがあるあるだ。大丈夫だろう。
「ちょちょちょ、ちょっと!危ないですよ!」
葉吏は急いで百合を追いかける。だが止まらない百合を相手にしているため諦めかけているようだ。
「(それはそうとして、、崖、、)」
崖というか坂だろうか。目の前の少し急な坂を見て、琉導は病院の階段を思い出す。体は治ろうとも苦手意識はあるようだ。
そう考え込んでいるうちに、一歩、歩くと、想像以上に早かったが想像通りに転んで転がっていってしまった。
「ん、、?」
背後からの物音を感知し、葉吏が振り返ると、既に横を通ろうと転がるゾンビが見えた。
「うっそ、貴方!っっ百合さん!今すぐ右にズレてください!」
「ええっ!?とっとぉ右!」
急な大声にびっくりし、足を踏み外しかけるが、咄嗟に右に避ける。
その瞬間、爆速で転がってくるゾンビが横切る。間一髪だった、、。
「(ちょぉぉぉぉ!目が回っっっっ)」
琉導はそのまま勢いよく川に落ちる。初めての水没でようやく悟る。泳げないと。
「マズイ!百合さん!彼を岸にあげますよ!」
「お、応!」
その頃琉導は焦りに焦って水中でもがいていた。本心とは違い、顔は何一つ動いていない。
「(おぼれる、、手が動かねぇから上がれねぇ、、!っていうか、、このままだと俺、ガチで死ぬくね?)」
琉導が纏っている空気は自身が吐いたものではなく、落ちたときにできた気泡だ。
琉導は息をしていない。それをすぐに察知し、咄嗟に口を閉じる。
このままではもしかしたら肺に入った水は出せないかもしれないと思ったのだ。
「ボクが引き上げます!百合さんは火の準備を!」
葉吏は上着を脱ぎ捨て、川に飛び込んだ。わずかな気泡を頼りに突き進む。
予想通りの場所に彼はいたが、泡を出しておらず、顔の変化がないため、生きているのかさえわからない。
「えぇ〜っとこれで着火剤、木、それから、、あ!二人とも!無事?無事だよね!」
百合が火をつけようとしたタイミングで葉吏が琉導を担いで帰ってきた。
「百合さん、一様血を。貴方、大丈夫ですか?」
琉導がこくりと頷くことでまだあまり温かく感じない焚き火の近くに座らせ、血を飲ませた。
「(た、助かったぁ〜)」
まさに危機一髪。だがこれで危険さこの辺りから去っていったようだ。先ほどの葉吏の大声で近寄る影がいない。
「ボクが水を汲むので百合さんは水を温めてください。」
こうして、葉吏の指示で手際よく作業をしている。ちなみに琉導はというと、手伝いが不可能のため、偵察だ。
もちろん一人では伝えれもしないため、腕に紐を巻きつけ、それを引っ張るとベルが鳴る仕組みになっている。
「もう結構な量作れてるよ〜」
「じゃあ体洗いますか。先にテントを建てましょう。」
これは百合の案だ。一番楽で体を隠せる方法ということでテントを採用。
テントといってもキャンプの時のように大きなものではなく、ビーチなどで使うものなので一瞬で出来上がる。
「じゃあ、私入ってるから待ってて!」
「あ、その前にお風呂の用品を少々分けてくれません?」
葉吏の手には三つの皿がある。ボディーソープ、シャンプー、リンスだろう。とにかく、欲しいということだ。
「でもなんで?順番なんだからまだまだだよ?」
「あ、いや、ボク外で洗いますよ。」
「(なんだこの野生児執事)」
百合は若干引いているが、とりあえず用品の中身を分け、テントの中に入っていった。
葉吏は堂々と脱ぎ捨て、温かくない水で体を洗っている。
「つめたっ」
葉吏ではなく、百合の方から聞こえた。テントを建てている間に、早めに温水にしたはずの水は冷めてしまったようだ。
「(いやじゃあなんで葉吏くんこんな耐性あんだよ、、あ、俺助けるときに浴びてたな時間経ってるけど)」
そんなこんなで葉吏が服を着るまでいって、百合も数分後テントから髪をタオルで包んだ状態で出てきた。
葉吏は犬のように頭をぶん回して乾かしながら、火で服も乾かしている。
「あ!そうそう!せっかく火があるんだから、、じゃーん!マシュマロ!」
いつ手に入れたのかはわからないが、キャンプらしく憩いの場のように感じるようになってきた。
「マシュマロなんて本当に久しぶりです。いつ以来やら、、」
「いいじゃん!今日思い出しなよ!これほぉ〜んと好きなの!」
その言葉通り、少しこんがりと焼けたマシュマロを頬張る。葉吏はとろけるような顔になり、全身が溶ける感覚になる。
ニッコリとしている葉吏をみて気分が良くなった百合はチラッと琉導を見てきて、自身のマシュマロを差し出した。
「食べる?」
そらぁ食べさせてもらいますよ。と心の中で言いながらこくりと頷く。
ゆっくりと差し伸べられるマシュマロにしっかりと琉導はかぶりつく。
「(っっっっ!!!)」
琉導は何回か噛んだ後に固まった。百合も飲み込んでいないとわかり困惑する。
その静寂でほんわかしていた葉吏がこちらを向き、ちょっとした後、察する。
「貴方、口、開けれます?」
琉導が口の中を開けるとそれはもう映せないような光景だ。彼らの食欲が失せるほどに、、、
「なに開かせてんのよ葉吏くん!!」
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さらに1週間し、風呂も入った翌日、節約してきた食糧が尽きかける頃まできてしまった。この辺りで食料は見られない。とうとう出発のようだ。
「二人分だけで良かったのが本当に助かりましたね。ここまで使えるなんて、、」
彼らは食料を全ては使っていない。これからの移動に向け、体力が保つくらいを目処に出発しようと計画していた。
とうとうそれが今日になってしまった。琉導はゆっくり外を見る。
「(晴れ、、か。ちょうどいいな。雨だと雨水に何入ってるかわかんないしな)」
晴天、とは言えないがまぁ雨は降らないだろう。そう思い、琉導は振り向いて支度をしてくれている二人の元へ行った。
「えぇ〜っと、、これは持っていくでしょ?これも、あれも、こっちも勿体無いし、、」
「落ち着いてください。そんな大きな荷物ではゾンビに襲われると大変です。」
二人は相変わらずだが、見た目も然程変わらず、強いていうなら髪が若干伸びている程度だ。葉吏はたまたまコンビニにあった髭剃りで顔は綺麗に見えている。
「それじゃ、三人旅、しゅっぱーつ!」
彼らの今目的としているのはスタジアム。スタジアムというか、アリーナというか。
中は芝生ではなく体育館で、結構巨大な施設となっているのは結構有名だ。
「心配なのは時間より距離とゾンビですね。ここ数日の歩数と比べると自信がなくなります。」
彼らは基本的に室内で生活していて、1日に外に出るといっても日を浴びる程度で、散歩なんて危険なことはしない。
ランニングマシンはあるにはあるが、森に行くのを最低限にしたかったので、水分補給の多い行動は極力避けていた。
「まあ大丈夫大丈夫!意外と目的地まではぱぱーっと行けるんじゃない?」
「そうですね。うぅ、ボクの車のタイヤを交換さえできていれば変わってたかもしれないのに、、すみません。」
確かに状況は変わっていたかもだが、起こったことだ。仕方がないと二人は慰める。琉導は頷くだけではあったが。
そんなこんなで太陽は天頂辺りに来た頃だろうか。ペースはマップがないため良いか悪いかがわからない。
「そろそろご飯食べよ!この建物で休憩休憩」
「そうで、、っと都合が悪いですね。」
都合など考えない奴らなどこの世界で現れるのは基本的にはゾンビだ。
現れたゾンビは数体だが、建物の中から出てきたため、最近まで生きていて、ゾンビになった可能性もある。
「この程度なら大丈夫です。あれらの他に来たら教えてください。場合によっては逃げますよ。」
葉吏はバックに突き刺していたゴルフのドライバーを取り出して脳天直撃させる。
「(さっきから執事からのギャップが激しい)」
だが、3回思いっきり振るったらもう壊れてしまった。そのためすぐさまバッグからテニスラケットを出し、ドライバー代わりにし、全員の動きが止まった。
傍観者二人は顔を見合わせて、互いに少し葉吏に恐怖を覚え始めたことを理解した。
「きゃぁぁぁぁ!!」
悲鳴だ。それも近場からだ。百合は、琉導に血を与えて、葉吏から貰ったナイフを持ち、「行こう」と、一言言ったことで現場へ向かうことになった。
悲鳴から1分は経っていないだろうが、ようやく現場に着いた。建物は狭い階段から上に上がるか、目の前の定食屋かの2択のようだ。
「まあ、上でしょうね。逃げ場があまりにもない方でしょうから。」
そうして、葉吏を先頭にダッシュで階段を登る。二階の扉を開けるとすでにゾンビとなっている二人が居た。
「まって、待っておくれよぉ!」
いや、まだ上だ。3階が最上位のため3階のようだ。葉吏は二階の扉を閉め、消化器などで簡易的に閉めてから3階に向かう。
「先ほどの声、、もしかして、、」
予想は的中のようだ。そこに居たのは二体のゾンビとことさんだ。ゾンビの内一体はマーシーさんに似ていて、ことさんに至っては噛まれる寸前だ。
『ことさん!!』
響いたのは二人、だが三人が一斉にことさんを呼んだだが、間に合うわけもなく、すでに噛まれていた。
「あ、あんたたち、、!逃げてくれ!頼む!!」
ゾンビが寸前だが、辛うじて意識のある最後の叫びだ。これに従う他ない。琉導は自信が遅いため、先に二人に下に降りるように壁にくっついて促す。
「(ちっ、ことさん、マーシーさん、みんなはこんなところにいたのか、、)」
「ごめんよ、、、」
これがことさんの最後の言葉になった。二度目の別れは一度目とは違い切ない気持ちがよぎったが、出会った人が一瞬で変貌する残酷さを体験してしまった。
だが彼らは進むことしかできない。今は安置に向かってだんだんと、、、




