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第十六話「擬似英雄」:石動視線

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

琉導、百合、葉吏が休憩となった今も、石動、芹生、氷鉋は幾度となく危険地帯へ外出している。


少し遡り、前回の終戦後の帰宅まで戻る。

彼らはゾンビとの戦闘から帰ってきたばかりのため、休憩中であるが、そう長くは休むわけにはいかない人たちだ。


「つーわけで、近嵐 乃愛な!よろしくヒショーとそことそこ!あ〜名前は?」


乃愛はタバコを吸いながら気楽な笑顔で挨拶する。


「氷鉋 凛津(りつ)。こっちは、」


「芹生 桜志郎(おーしろー)だぁ〜。よろしくぅ」


「OK!よろしくなリツ!オーシロー!」


氷鉋と芹生はこの緊迫した空気の刑務所という名の安全地帯で、明るく気楽な人が来てくれて助かったと、顔に出るほど安堵する。


「お前たち、俺と警察でゾンビを運ぶから他を頼む。」


「今日は運んでないぞぉ?」


意外と石動も疲れが出てくるのかと思うが、こうも一人で現場を離れた隙に新たな狂屍の発見となり、疲労困憊のように見える。


「今日含めて数日は休みましょうよ。まだ食糧もめっちゃあるので」


その言葉で我に返ったかのように深く息を吸って吐く。


「そうだな。今日と明日は休もうか。」


その場の全員が「もっと休め」とつっこむが、自分に厳しい性格が石動らしいともいえる。

とはいえ芹生、氷鉋にとっても嬉しい休憩だ。二人も精神を削るような戦闘後のため、即座に休憩に入ろうとする。


「ていうか本当に乃愛って誰なの?」


ひと段落終えてようやく初めの疑問に戻れた。芹生はこの氷鉋の発言があるまですっかり忘れていたようだった。


「、、、拾った。」


「ザツいっすよそれだけじゃ!」


前回のトラックに乗る時もそうだ。石動は何かと重要なタイミングで説明が薄い。


「私ゃあ私だぞ?」


「乃愛もせつめぇザツじゃぁねぇかぁ」


芹生と氷鉋は細かい説明が面倒な感じ、各自の部屋に戻ろうとする。


「氷鉋、お前は残ってくれ。」


どうやら残業の宣告のようだ。落ち込んでいる氷鉋の横で芹生はそそくさと小走りで氷鉋を置いて帰る。


「ごめんなぁ、先に休んどくぜぇ」


氷鉋は芹生のニコニコとした煽り顔に腹が立ってくる。まあいつでもまた出会えるため、今は我慢することにした。


彼らは刑務所を住まいとしているが、勿論囚人はいる。ただ、ここは刑務所の中では群を抜いて新築寄り。

そのためまだ空きが多く、二箇所程度を二人以上で一部屋を使う形式で避難者は住んでいる。



「ヒショーさ、まだ今日歩けっか?」


そう呑気にタバコを吸う乃愛に向けてゾンビと夕日を指差し、時間がないと伝える。氷鉋もようやく察する。あの狂屍のせいで呼ばれていると。


「そ。んじゃ最後にさ、私どこで寝ればいい?」


「そこの女性たちに聞いてくれ。空き状況なんて俺は知らんぞ。後、室内は禁煙で頼むぞ。」


乃愛はへいへいと言って少しめんどくさそうにタバコを手に取り、「おやすみ〜」と一言言ったあと、女性のいるところへ向かった。


さて、ここからが本題だ。この場に残した氷鉋と対面した新たに発見された『知能のある狂屍』

それが生き残りの研究者にとっては喉から手が出るほど欲しい実験材料なのだろうか。

とりあえず特例の狂屍専用の収容部屋に入れる。芹生が対面した狂屍も同様だ。


「聞かせてもらおうか氷鉋。こいつのことを。」


「はい。先に言っときますが、その狂屍に狼煙を上げた人がやられたと言ったのは上から降りてくるゾンビがいたからです。花火らしき音は敵を近づけさせないようにするために人が抵抗目的でやったのではないかと。」


氷鉋が出入り口のゾンビだけを相手にしなかった理由は、上に人が生き残っていると考えたため、動くわけにはいかなかったのだ。

だが、狂屍の後、ゾンビが降りてきたことから、狂屍に対しての殺意が少々わいてしまったため、戦闘を継続していた。


「その可能性は目撃者である氷鉋に従う。今知りたいのは狂屍の特徴だ。どうやって指示を出していた?」



氷鉋の話をまとめるとこうだ。

狂屍の指示は指差しと呻き声のような声の二つで行われており、指差しのみなんとなくの理解ができる。

ただ、呻き声での指示が基本的に死角のゾンビへの攻撃指示だったため、多少はわかりやすかったとのことだ。

その呻き声で、上から新たにゾンビが来たため、最悪の展開となっていたという。


「この情報って、科学者とかなんとかに伝えた方がいいんじゃないですか?」


氷鉋の提案は確かにそういう人が近くにいたら喜ばしいことだろう。

だが、ここで狂屍を管理しているということは、未だこのあたりで研究者は見つかっていないということだ。


「、、もっと効率良くなることがある。」


そう言って石動は狂屍の前に立つ。狂屍は閉じ込められたときからフリーズしたかのように動かない。石動は鋭い眼光で問いかける。


「俺の言葉がわかるか?」


指示できるということは意思がある。意思があるならこちらの言葉を理解している可能性がある。それなら直接聞くほうがいいという石動の考えだ。


「わかるならこれからの質問に首を縦か横に振って答えろ。いいな。」


狂屍は問いに対し体を少しも動かさなかった。石動は少しピキッと苛立ちが出ていたが、すぐに期待を諦める。

一瞬の殺伐とした空気だったが、氷鉋が怯えるほどの力があった。


「い、石動さ〜、、ん」


「呼び止めてすまなかった。もう帰っていいぞ。」


そう言いながら振り返ると、目の前に氷鉋はいなかった。一瞬視界から外れる影があったのでそれが答えだろう。

石動による狂屍の解明は未だ進むことはないようだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「、、、何の用だ」


石動が少し困惑するのは目の前に乃愛がいるからだ。寝室のわからない方向音痴か、はたまた寝る間を惜しんで聞きたいことがあるのか。


「数時間くらい前に行ったこと話してぇんよ。別に特段ヒショーが得する話じゃねーけどな。」


二人は誰もいない庭に移動する。今日は月明かりが室内に届くほど明るく見えている。その景色にタバコの煙が見えたタイミングで話が進む。


「なぁ、いつから人助けしてんだ?」


「ゾンビがこの辺りに来る前だ。1週間以上前から呼びかけていたが、ついてきてくれた人は少なかった。」


それもそうだ。誰だってゾンビが現実に現れているなんて最上級の冗談だ。

たとえニュースで報道されようが、ネットの民に真実を求めようが、危機感を覚えれた人が少なかった。


「俺も全ての助けになれるわけではない。切り捨てることもある。」


「ほぉ〜ん、でもこんな自堕落な私は救うんだな」


「選抜は基本しない。協調性の無い利己的な奴はここに入れると秩序が壊れてしまう。だから捨てる。」


実際に切り捨てたのは今のところ悪徳富豪数名のみ。人を奴隷呼ばわりする奴らに救う手などあの場には誰もいなかった。

石動の職業柄でいうと救わないといけないのだが、崩壊した世界は誰も止められない。ゆえに無秩序だ。

石動たちの住む刑務所は唯一と言っていいほど貴重な秩序のある場だ。成り立つ理由は協力できるかどうか。それに限られる。


「利己的ね。実際誰もが利己的だろ。」


乃愛は一服してゆっくりと会話を止めて煙を出す。目は月をずっと見つめている。


「ヒショー。私は利他的ってのが嫌いだ。思いやりとか親切とか、自己犠牲とか。それって言い換えると自分勝手な判断で他を守りたいって利己的な考えだろ?」


こういうのが乃愛の哲学みたいなものだ。石動は他の哲学に反論するような性格ではない。

言葉の解釈は人生という名の体験で培われる。誰しも道が違うとそうなると石動は知っている。


「、、、ヒショーはなんで、こんな世界で大勢の役に立とうとすんだ?私にはわからねぇ。少ねぇ余生で何してんだよ。」


「乃愛は熱中するものがあるか?あったらそれが答えだ。」


石動の原動力は自身を形成した心にある。そうしたいからそうする。乃愛を元にして言うなら自分勝手で利己的に人を助ける擬似英雄みたいなものだ。


「俺は死にたいのかもわからない。だが、俺の責務に巻き込んでしまった芹生と氷鉋には、俺よりもっと生きてほしい。地獄かもしれないが、この世界で笑える人に死は相応しくない。」


責任。いや、生真面目なだけだろう。あの二人が初めは安置に連れてきてもらった恩として共に行動していようが、元は守るべき存在。外せないものが石動の中にはある。

すると、少し下を向く石動の胸に一つの拳があたる。


「じゃあさ、私も付き合わせてよ。」


石動は顔を上げて乃愛を見る。タバコを咥えながらニッコリ笑う乃愛に石動は固まってしまう。


「言い方がちげーか。そんな重くなんな。ちょっとぐらいその責務を分けろ。つってもまぁ、勝手に背負うけどな。私だって自分勝手(りこてき)だからさ」


ようやく言葉にされて気付いた。芹生も氷鉋も強制しているわけではなかった。勝手についてきたのだ。

恩かもしれないが、石動を助ける。なんともまぁ随分と利己的なものだ。


「ありがとう乃愛。気が楽だ。」


今の石動は少し笑顔になった。その言葉と顔で満足した乃愛はくるっと後ろを向き、歩き始める。


「んな大層なもんじゃねぇよ。とにかくヒショーは心をほぐせ。んじゃ、おやすみ」


乃愛は石動の肩の荷が下りるのがいつになるのかと思うが、やりたいことに付き合わされにいくのも悪くない。少し楽しみになっている。


「、、タバコしっかり捨ててから部屋に戻れ。」


「おとんかよヒショー」





翌朝になった。外の門番交代とともに自衛隊が訓練を開始。囚人以外のその他全員は朝食を食べるための移動が始まる。


「贅沢言えねーが、これっていっつも囚人が食べてるもんか?」


寝起き早々嫌味を言う乃愛だが、石動たちが例外なだけでほとんどの人が囚人のような生活になってしまっているのが現状だ。


「石動さぁん」


なぜか寝癖でオールバックになった芹生が目が線になりながら近づいてくる。


「畑作ったけどさぁ〜いつ食べれるんだぁ?」


「数ヶ月後」


夢に逃げたくなるような気の遠くなる答えだ。今日から芹生の食欲が失せるようになってしまった。


「石動さん。どうせ今日行くんでしょ?休むとか言いつつ働く。ほんっと社畜のかが、、」


社畜の鏡と言おうとしたが、自衛隊ってそんなものか?となり、言い切らなかった。


「とと、とにかく、どこ行くつもりなんですか?」


「病院、中でも総合病院に行きたいな。あそこなら今後に必要な医療品が見つかるだろう。」


総合病院は少し遠い。つまり、行くなら昼前、なんだったら朝飯がすぐかもしれない。氷鉋は急いで飯を食べて支度を始めることにした。




氷鉋の予想通り、すぐに出発となった。芹生は未だ頭が寝ていたので水をぶちまけて起こした。


「ふがぁっ、、さ、さむいぃぃ、、」


「何してんだよ」


そう言ったのは乃愛だ。しれっとトラックに乗るメンツになっている。


「っていうかぁ、、もう行くのぉ?スィッチ切っちまったなぁ」


芹生が完全にショートしているため、寝袋に包んだまま運ぶことになった。




「なぁなぁヒショー、リツー、オーシロー。暇くね?」


見るからに退屈に苛立つ乃愛だが、まだドライブは始まったばかりだ。


「乃愛、いまから薬物採取なんだぞ。我慢しろ。」


「それタバコじゃねぇだろ!言い方も悪りぃよ!」


氷鉋はこんなときに芹生が起きてたらなぁと思うが、何故か植物状態かのように動かない。


「仕方ないか。起きろよ芹生」


氷鉋はエナドリをぐいっと芹生に飲ます。たちまち元気になる。なぜか目がガン開きだ。


「おおぉぉぉぉ!おはよぉ!、、、暇ぁ」


「はえぇよ戻んの!」


もう一度ぐったりした芹生に頭を抱える氷鉋。芹生の暇は解決しなかったが、乃愛の暇は解決したようだ。

とはいえトラックでの移動となればそこまで遠くなく、退屈などすぐに消える。


「やっぱりゾンビ多いねぇ、、そぉいやぁ乃愛って武器使えるのかぁ?」


芹生が振り向くと不安が逆に何事かと言うぐらい軍人武装する乃愛の姿があった。


「ん?ああ任せろ!ヒショーからもらったけどいいな!特にこの手榴弾、、」


「待て待て待て!」


氷鉋は必死に投げるのを止めさすが、なんで?と顔で伝えてくる乃愛に逆に武器を与えた石動を睨んだ。


「ちょっと!俺たちの使ってないものまで渡さないでくださいよ!」


「あめぇぜ石動さぁん。」


2人からの抗議があったため、武装を取り上げ、芹生の持つ長包丁を渡した。

芹生は代わりに石動のナイフを、石動が銃等を所持することになった。


「心苦しいが、患者のゾンビも含めて殺そうか。」


その言葉が発せられたと同時に石動が出入り口近くのゾンビを一掃する。内一体はまだ動くようだがすぐに芹生が仕留める。


「どうします?二人ぐらい残りますか?」


「いや、ドアをバリケード代わりにして全員中に入ろう。」


全員がその言葉の通りに動く。氷鉋が素早く中の情報を確認し、安全を確保。芹生が、向かってくる敵の一部を倒し、石動が芹生が入った瞬間に封鎖。

一瞬だが、この三人での連携は経験がいうものなのだろう。


「お!マップあんじゃん!」


乃愛のその言葉で護衛役をする芹生以外が集まる。

とりあえず一階に物を運び、物が多い場合は何回かに分けて運ぶことになった。



「なぁヒショー」


そう石動に話しかけるのは低層階担当の石動と乃愛だ。この二人は一階の処方箋や、コンビニなどを漁る。そのコンビニに行った乃愛に何かあったようだ。


「食いもん、ほとんどねぇぞ?しかもあまりは腐るやつばっかだ。」


手当たり次第どんな薬かをみている石動は当たり前かのように動揺はしなかった。


「まあ当然だ。ここに避難している人や患者が探していたんだろう。外に患者姿のゾンビがいただろ。」


確かにそうだ。行く先々で都合よく食べれる食べ物があるなんて稀。基本的には空き場などゾンビになってしまった人の元住処だ。

むしろ今回のメインは薬系。この世界でゾンビ以外の病気にかかってしまうと場所によっては対処が不可となってしまう。


「こちらは想像以上に余っているな。ありがたくもらおうか。」


石動は全部は持っていかず余らせた上で回収した。もしかしたらここに病気にかかった人を助けにくる人がいるかもしれない。

ないとは言い切れないのが人だ。石動はその予備が大事だとよくわかっている。



一方で上層階担当の芹生と氷鉋。彼らは生き残りがあるかの徹底捜索で全部屋を見回っている。

上層階は基本的に病棟であるため、特段薬などがあるわけでもない。


「あぁ〜れ?おかしいなぁ、品がねぇなぁ」


薬がないとはいえ、輸血室の輸血パックは貴重な品だ。芹生はそれを取りに来たが、既に誰かに根こそぎ取られたようだ。



「誰かいますか!」


芹生とは違い、生き残りを探し、勢いよくドアを開けまくる氷鉋だが、数回目、初めて人影が見えた。救助せねばと急いでカーテンを開ける。


「、、!」


そこにはゾンビが座っていた。ゾンビは患者の頃のように座って外を見ている。彼も自我があるのだろうか。

いや、そんなことよりもこんな残酷過ぎる光景に悔しさで目を背けれなかった。


彼も狂屍なのか、、?と思うが連れ帰るのに抵抗がある。だが、石動たちだって連れ帰りはしないだろうと考え、他の部屋へ行く。



結局生存者はゼロと分かり、退散することになる。ゾンビはただ一人を残し一掃し、帰宅した。

その一人は、氷鉋以外知らない。

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