第十八話「烏合」
「あ“ぁ”あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
その声はゾンビ化した者の誰かが発したが、元となった人間の声は知らず、人間の時と声が同じかも不明のため、身元はわからない。
「ことさんは!皆さんは今こちら側に来てますか!」
葉吏が一階と2階の間にいる琉導に声をかける。ちらちらと2階をみているが、ゾンビは降りてこない。琉導は肩を片方ずつ動かし、首を横に振る。
「、、、早いところ、ここから逃げましょう。」
彼らは公園を見つけた。簡易的ではあるが、遊具は場所によっては見つけづらく、高いため一時的避難には最適だろう。
「あれ、ことさんたちだったよね。わざわざ出ていっちゃったからこんな目に、、」
百合は後悔している。自身が足を運んだせいで拠点を離れ、こんな間に合ってしまった。原因が他に見つからず、自責の感情が百合を押し潰す。
「こと、さん、、じゃあもしかして、ボクが倒したあのゾンビたちって、、、」
葉吏は自身の行いが軽率だったと理解し、元知人を殺してしまったと思うと脳が理解を拒み、焦心が募る。
「(落ち着いてくれ、二人とも)」
手首まで未だに感覚のない両手を両腕を上げ、手をそれぞれ2人の頭に乗せる。
もしかしたら体温などないかもしれない自身の冷たい手の場合を思い、少し不安で、かかない冷や汗を感じる。
手を置かれた二人は少し下を向いた後、口には少し笑顔が出た。
伝達能力を多く失っているゾンビに宿る暖かさが二人の心を安定させる。
「彼らを弔いたいですが、危険すぎますよね。」
「うん、仕方ないって言いたくはないけど私たちまでああなっちゃったら元も子もないし、、、」
未練を感じる。それこそ善人であるほどにためらいにより生存の道から外れてしまう。
彼らはそんなことがなかった。一度捨てた者達だからだ。
「(そうだ。安心してくれ。いざとなったら、俺が噛まれてやる。俺なんて障害者みたいなかんじだから、五体満足の二人が生きてかなくちゃいけないんだよ。)」
チラチラと後ろを確認しつつ、彼らは目的地を目指す。ことさん達のいたエリアから多分だが高台にいればようやく見える程度。すぐそこまで来ていたのだ。
「ぐっうぅぅ、、足が疲れるぅぅ、、」
百合が声をあげながら肩を落とし、歩く速度がみるみる遅くなってゆく。
琉導には疲れているかの感覚がないため共感できないが、結構な距離だ。逆に葉吏がおかしいまであると分かる。
「休憩はこまめに取りましょう。ゾンビから逃げれる体力は確実に残さないといけませんしね。」
葉吏はカップにコーヒーを淹れながら近くにあったバス停の椅子に座る。
「休む気満々じゃん!!」
「(優雅だなこいつ)」
休憩混じりでざっと1時間経過した。足元は他のアスファルトとは違い、凹凸の少ない、綺麗だといえる。
「つ、着いたぁ!やったぁ!」
「落ち着いてください。ここからですよ。」
喜ぶ百合と冷静な葉吏。ここまで目的地到着で分かれるのは面白いが、どちらも間違いではない。
「これからボクたちは多分いるであろう先客にここに定住させてもらえるかが今からです。堂々としていましょう。あちら側が優位となると手強いです。交渉は対等が絶対条件です。」
「(十中八九いるだろうな。ついでに俺とかいう外見がゾンビのやつだ。ことさんの時みたいにリーダー的な人の器が広ければ問題はないんだけど)」
正面口、、ではないと分かる。こんなに狭い駐車場を正面には置かない。きっと逆だろう。
かといって正面まで行くとゾンビに接触すると危険な開けた土地の筈だ。
「階段をのぼりましょう。きっとそこから入れます。」
三人がゆっくり階段を登ると頑丈そうなガラス9割でできた壁の一箇所にドアがつけられていた。しっかりと施錠されていて鍵式、ということは、、
「葉吏くん、またあの時みたいに開けてよ!」
「勿論です。」
葉吏は前回琉導が囚われている部屋をピッキングで解錠していた。もう一度使う時が来たということだ。
「(あー、そういうことだったんだ。合鍵でもあったのかと思った。)」
施錠には然程時間はかからなかった。葉吏はゆっくりとドアを開ける。静寂から静寂へ。新天地だというのに、空気だけは外部と変わらない。
「誰かいるかな?声出してみる?」
葉吏はしっかりと鍵を閉め、ゆっくりと振り返りながら話す。
「いえ、やめましょう。かえっているかもしれない相手を刺激させるかもしれません。」
彼らは慎重に歩き始める。人がいるとすれば余りにもスポーツショップとは真逆に感じる寒気がある。
「階段、降りますか。」
「(階段、、ね。さっきのぼったし、そりゃ降りるか。)」
いつも通り転けるはずだが、右手を葉吏が、左手を百合が掴んでくれた。室内という安堵によるものなのか、はたまた怪我をするのが見てられなくなったか。
「(ありがとう。百合、葉吏くん。)」
三人は一歩ずつ階段を下る。妙な違和感はなかった。だが、事など全て突然だ。
急に一階の階段横通路から人が現れた。
「なっ、誰だお前ら、どこから、、」
現れたその男はボサボサの髪とヒゲの生えているが、若々しいように見える。世界が崩壊している今らしい顔つきだ。
「落ち着いてください。危害を出すつもりはありません。」
葉吏は両手をあげ、敵意がないと示す。警戒心が顔まで行き届いていた男はゆっくりと落ち着きを取り戻す。
「勝手に入られたのは初めてなんだけど、まあ、ここに来るのはよくあることなんだよなぁ。とりあえずどっから来た?」
「ボクたちはうえの2階のドアから侵入しました。正面口まで行くのは危険と判断し、少し強引に入ってしまったことは本当に申し訳ありません。施錠も勿論しております。」
色々と全て葉吏が言ったことで随分とお互いに冷静になったようだ。だがそこに割って入るかのように新しい影が現れる。
「おぉ〜い?何やってんだテメェら。、、見たことねぇな。」
少しヤンキー気質の男が現れた。外見は目つきが悪く、癖のつかないくらいの短髪で、両耳にピアスをつけているいかつい男だ。
「枇杷さ、、」
「おい、、、なんでゾンビがいんだよ。」
気づかれた、、いや、逆に気づくのが遅いくらいだ。ゾンビなんて安置では当たり前のように侵入禁止だ。ここからは説得が必須となる。
「説明します。彼は、、」
「俺ぁお前らみたいにな、イカれた奴等は殺すって決めてんだよ。背ぇ向いて帰んなゴミ。」
口が悪いとは思うが当たり前のことだ。ただ想像以上にことさんの器が広すぎたのが奇跡だっただけだ。
「待って!彼は危害を加えない!現に今も襲ってない!ほら!」
琉導もそれに賛同するかのように首を縦に振る。というかそれ以外の伝達方法が余りにも無い。
「キーキーとうるせぇ女だなおい。噛まねぇって証明できんのか?あ"?」
百合は琉導の両唇を持ち、口を開ける。琉導の歯にはマウスピースが付けられている。
「これでどうなの?」
「ボクたちは皆さんに安全だと証明する方法を用意してから来ております。ただ、住まわせてもらうからにはここらの情報も欲しいです。無知の無能が加入するよりは良いとは思いますが。」
枇杷と呼ばれた男はチッと舌打ちをしてこちらをずっと睨んでいたが、ようやく口を開いた。
「うさんくせぇ奴らが、反吐が出る。人間のテメェらはどこに居てもいい。だがグズのお前は縛らねぇと許可はしねぇ。殺したほうが早いがな。」
随分と苛立ちを覚える口の悪さだが、ボロを出すほうがかえって危険。このような男を相手にするにはその程度は冷静でないと潰されるだけだ。
「枇杷さん、わざわざ殺しは、、うっ、」
「チッ、吐いたらゾンビにするぞ。とっとと俺の前から失せろ能無ども。」
己を捻じ曲げないのはいいことだが、口調含めて全体的に余りにも友好さが見られないまま終わった。
「気にしないでくれ。おまえらは案内してやるよ。あ、ゾンビのあんたは縛るのはするぞ。ひとまず着いてこい。」
そのまま男はくるっと振り向いて進み出し、「あ、俺柳っていうから。」とだけ言って階段をのぼり始めた。
彼らは一つの大きな扉に案内され、そこから観客席はついた。中の体育館はとても広く、バレーやら屋内スポーツがいくつもできる広さだと実感する。
「んじゃここでいいか。お前ら、縄取ってくるから待ってろ。」
そう言われて案内されたのは更に階段をのぼった後の三階の端だ。
周りを見渡すと意外と大勢の人がいるとわかる。だが、誰も強力な姿勢が見えず、二人以上の団体が数えるほどしか居ない。
「すっごい殺伐としてるね。」
「ええ。烏合の衆。この言葉が最も当てはまっているかのような、、」
ここにはことさんのようなリーダーらしき存在が見当たらない。仮にもし枇杷がリーダーの場合、ここは崩壊しているだろう。
「(こんなんじゃ逆に疲れなんて取れないでしょ)」
「おい、戻ったぞ。」
早めの帰宅で柳によって琉導は腕を縛られた。何故か足は縛らなかったため、それほど今までと変わらないような気がしている。
「あ、柳さん、ここのリーダーとかっているんですか?挨拶とかしておきたくて、、」
百合がそういうと、柳は目を丸くしてこちらを見てきた。ただ少し怒りも見えるような表情だ。
「、、、いるわけねぇだろ。リーダーがいたらみんな活発に動いてるわ。元リーダーはちょっと前に死んだ。誰かわからねぇし次になるリーダーが同じことになって死ぬって恐れて誰も支持しないんだ。だから誰も食料を取りに行こうとはしねぇし、互いに地位を押し付けようとしたんだ。」
葉吏の言った通り烏合が似合う場だ。だが、そんなことを思っていても夜がやってくる。ここに泊まるしかない。
「どうします?」
「どうします?って何?ここまではうまくいったほうじゃないの?」
葉吏はここの空気に若干の恐怖を覚えている。余りにも憎悪のような殺意が漂っていて、寝れるかも不安になっている。
「貴方の縄は軽く解きやすいようにしておきます。万が一があったら貴方も逃げれるようにしておいてください。」
そうして外れやすくなった手首の縄を背後に、百合から血をもらい、じっと周囲を見ていた。
「(ありがとう葉吏くん、お陰でこの夜は君たちを守れそうだ。)」
琉導の見えない眼光はどこか決意が決まったように見えた。
朝を迎えた。意外にも何も起こらず朝が訪れた。まだ少し残る食べ物を食べ、軽く体を伸ばし、血を与えた。
「何もなかった、、でも不安ですね。ここにいては心が、、」
葉吏の考えは的確だ。あんなにも荒々しい男が蔓延る場はいくらなんでも危険だ。
「とりあえずさ、外出するなら縄外しても問題ないよね?いつでも出れるし、外にいつ行くとかも全部考えとこうよ!」
あたりでは続々と人が起き始めたがなんら変わらず、静寂に包まれている。だが、夜もそうだったが、枇杷と柳はいない。
彼らは彼はでどこかの部屋でも使用しているのだろうか。
「(まあ、危害はまだないからいいか。ここも長く住めなさそうなのは残念だけど。)」
話はみるみると進んでいく。目的地は不明のまま、更に新天地へ行くことになった。今までの場所では食料の在処などないとの判断だ。
「じゃあ今日の昼ご飯食べたらもうここを、、」
「で?テメェらなぁに企んでんだ?羽虫どもが目障りでここまで来ちまったじゃねぇか。」
嫌なタイミングでの遭遇だ。今日はいつ危害が加えられるかわからない。大人しくするのがベストだ。
「俺はな、ここが一番いい場所だって感じてんだ。食べ物も腐るほど用意できた。死にかけには腐ったもんでもあげてゆっくり死に様でも見てんのもできるのがここの娯楽だ。」
ここまででも狂気だが、話は終わる気配がなかった。
「前のリーダーぶってたやつは嫌なやつだったよ。目障りでなんの力もない、すぐに死んじまってよぉ。でさ、お前らはどんな血を見せる?」
彼の手には銃が握られていた。
おまけの補足
実はことさんらもスタジアムに行っていましたが、人数が多く、中の人々が若者以外を拒んだため追い出され、ゾンビ化した周辺で暮らしていました。




