第十四話「覚悟と決意」
ーーー目が好きだ。二桁にも満たない頃からボクはいろんな人の目を見てきた。どんな人のどんな感情も、生きている限り、その目の彩りが真実を伝えてくれる。
百合はあのゾンビのために走っているが正直に無謀だと思っている。けれど、あのときと同じ、覚悟の眼をした人を止めれるのだろうか。
学生、、いや、大人になるまでに求められるのは自立、コミュニケーション力、課題解決力などとても多い。
でもボクはそれを一番に必要と思わない。一番なのは行動を妄想から現実に変える『覚悟』だ。その覚悟の一歩で人間は二つに分かれる。殻を破った自由な者と蛹のままなりたいものにならなかった者だ。
ボクは蛹のほうだ。職を跨いでなりたいものを見つけた自身を見続けてみたかった。結局見れずに世界は終末になってしまった。多分、道が見えなくなったのは、『規則上の大人』になった頃だ。
今になって思う。ボクは覚悟できてたと思い込んでいた。この道に進んでみる『決断』という名の『覚悟』
で満ちていたと。
わかっていたんだ。そんな屁理屈で生まれる覚悟なんかで変えられない。いつだって変わるときは誰かも変えれる。
提案も救済も告白も支持も牽引も
他人ごと変える覚悟があればできたはずの行動だ。
あのときもし、お嬢様を連れて行く覚悟ができていれば、隣で支えれる存在でいれ、執事として見守れる大人に成れただろうと一生後悔するだろう。
だから止める。今度こそ。
葉吏は全力で走り、百合の前で立ち止まった。
「はぁっ、はぁっ、待ってください!止まって、一度考えましょう!」
「考えてるよ!でもこれが私の結論なの!」
「何か起こる前の想定じゃもう間に合わない!」
葉吏の百合の頭をのぞいてから喋ったのではないかと思う叫びに言葉と足が止まる。
「なんで、私がそう思ってるって、、」
「目、、顔を見ればすぐわかりますよ。貴女は信じたい可能性を見て行動していると。それはそうと、」
葉吏が住宅地を見るとゾロゾロとゾンビがやってきた。
「少し、叫びすぎましたね。」
「、、、」
ゾンビたちはいずれもそこに住んでいた方々のように見える。中には子供も数人見え、心が痛む。
「どうしますか?食料を捨てれば私は貴女を担いで彼らを撒きつつ帰れますが」
「いいよ、、ありがとう。もう落ち着いた。隠れよ、葉吏くん」
一様目を見てみると百合の覚悟は決意へ変わっているようだ。
そのときになって感じた。覚悟と決意、一見似た者同士にしか思えない言葉。覚悟は危険を孕む存在でもある。今の百合は決意の方が必要だろう。
葉吏の表情が和らぎ、一安心したところで辺りを見回す。
「あのビル、、屋上が空いてますね。ここの建物に入りましょう。」
「え?あの、ほら、ゾンビとかいないのわかるの?」
「?いえ?そこに何種類もの鍵が置かれているのが見えたので。」
百合がビルのガラスのドアの奥をじっとみると、確かに鍵があるのが見える。屋上に上がった後に閉めることはできそうだ。
「心配ですか?安心してください。必ずお守りします。」
葉吏は両手に持った荷物を左で全て持ち、右手で懐からナイフを取り出す。
「目の前のドアを閉めるのは頼みます。体力はどのくらいありますか?」
「大丈夫。まだあるよ。」
「では、百合さんが鍵を閉めたら全力で上に上がりましょう。荷物は持ちますよ。」
「ううん、いいよ。、、、片方、持って、ほしいです」
両手の重みに正直になった百合を見て、葉吏は思わず笑みを漏らす。
一方で百合は恥ずかしくなりつつも、笑われたのが少し嫌で歯を食いしばっている。
「では、行きますよ」
二人はさっさとビル内に入り、葉吏が鍵を取り、百合が、ドアを内側に付いているサムターンを回し、ロックする。
そのときに出るカチッという音と共に二人は階段に向かい、走り出す。
全力で走るが、意外と何も起こらない。
「あれ、、こういうのは何か起こるのが定石では、、」
「期待しないでよ不幸を」
そうは思いつつピンチにならなかったことを二人は幸運としておくことにした。
鍵を閉め、屋上に留まることにした。今日は一旦ゾンビが消えるまで野宿になりそうだ。
夜は暗い。明かりはタバコを吸おうとしたときに使ったライターのみ。一度屋根伝いで帰ろうとしたが、足元が不安定で荷物も多いため、断念していたのだ。
「丁度良い気温ですね。明日は早朝に下を確認し、外出します。百合さんもう寝ていた方がいいですよ。」
「うん、葉吏くんも寝なよ。」
「ええ。少しすることがあるので、まだ起きますが。」
そう言って葉吏は手帳とペンを取り出した。これは葉吏の日課だ。一人になり、一日が終わるタイミングで必ず記入する。
手帳は執事になったタイミングで新品のものにしたため、まだ白紙が多い。
10月5日
昨日書いた通り、外出し、百合さんと食料を探しに行くことになりました。
車で来た時は気づかなかったですが、街が異様に廃れているのに空は驚くほどの快晴。青と灰の色の対比でなんだか残酷だと感じました。
食料確保のついでにタバコを吸ってみましたが思うように吸えず、、。タバコはやはり危険ですね。(私個人の感想です。)
成し遂げたこととして、強い覚悟を持った方を前にし、今回は百合さんを止めることができ、お嬢様のときを悔やむと同時に自信を身につけれた感覚になりました。
どんな環境でも自信と決意を抱き、覚悟承知で挑む大切さが重要です。正直、ここまで来て生きる意味がまだありそうでとても嬉しいです。
この日記を見る人がいれば、私と違い、一度目から成功することを願います。
ここ最近、文字数が増えていると感じる。夜の時間が長いからか、はたまた楽しくなってきているのか。思い出が貯まっていく静寂な夜、葉吏はゆっくりといつも通りの地獄の青空を迎える。
夜明けが来た。日が葉吏と百合を照らし、目が覚める。
早速下の状況を確認するが、ゾンビは見当たらない。辺りを見回すが人らしき影は見えない。安全と考えて良いだろう。
「まだ眠気が冷めないでしょう。温かくはないですがコーヒーはいかがですか?」
「ん、いいよ。私飲めふぇん」
欠伸と関西弁が混じるような発言で葉吏は苦笑いしながら自分用のコーヒーを用意する。
状況は未だ不明。葉吏が百合を止めた理由も悪魔で葉吏自身の悲観的観測にすぎない。
確かめれるのは己の目のみ。二人は動くことを決意する。
早朝とも言い難い午前、晴れかと言われると若干怪しい空の中、まるで世界に二人しか居ないとも思えるほど廃れた街の中を歩き始める。
「ねぇねぇ、葉吏くんって今までどんなゾンビと出会ったの?あのゾンビの人初めて見てそんな驚いてなかったでしょ」
「そりぁあボクも驚きましたよ。ですが百合さん、私は貴女を見て彼を判断しました。ゾンビという存在が横にいるにも関わらず、信頼しているようにしか見えなかったのです。なら私も勿論信頼します。まあ、そうは言いましても私、警戒している時は本当の感情を表に出しません。対人の場合は尚更です。」
そう言いながらニコッとした顔で百合を見つめていたので、百合目線、少しこの笑顔が胡散臭く見え始める。
「、、、今の本心ですよ?」
「ぅえ!?、、いや、あ、、そのぉ、、ご、ごめん!」
百合は頭の中が筒抜けになり、恥ずかしさのあまりテンパってしまい、勢いよく謝罪する。
「顔を上げてください。とても気まずい。」
「ふふ、ありがと、、っていうか今敬語使った?前もどこかで一回使ってなかったような、、。とにかく、タメ口のときが本心なんじゃな〜い?」
百合は勘が当たっている予感がし、少し自慢げに見える百合の言葉に葉吏は何一つ顔を変えない。
「あまり探りを入れすぎると、倍にして返還しますよ。」
「え!?怖!!」
「冗談はさておき、遠いですが見えてきましたよ。ゾンビと人の避難場所が。」
たった1日、そうたった1日だけだというのに、そこには善が残っているか悪が残っているかがわからない。
もし、ここに着くまでに葉吏の言葉が無ければこの疑問はなかったかもしれない。暖かな迎えか、絶望の悲劇かを味わっていたかもしれない。だが、不確定要素など見ればわかる事実だ。
二人はゆっくりと出入り口を目指した。真実とはじきに対面するだろうーーーー




