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第十二話「終戦」:石動視線

ーーー『狂屍』。狂屍とは、通常のゾンビの行動とは一部かけ離れた行動をするゾンビの総称。狂屍はいつ、どんなゾンビに出現するか分からない完全なランダムな突然変異体だ。

琉導はその中でも例外の中の例外。一時的に自我を失うもののほとんどの時間を自我のある状態で過ごせ、自身の意思で行動の選択が可能、何より再生力の異常発達という名のバグが世界にただ一人の狂屍を爆誕させている。


今回、芹生の前に出てきた狂屍は過去数回目撃されているが、氷鉋の前に出てきた狂屍は未発見の珍種。研究材料として、生捕りが求められる。




「だるいなぁ〜足速いやつは前見たんだよぉ〜。でも俺こいつ初めて見たからなぁ。生捕りしないとかぁ〜。」


芹生は過去二回、狂屍と接触しているが、その二回とも脚力型である。

今芹生の前にいるゾンビは拳を構え、格闘家のようなポーズをする。


「ん〜あったっけぇ〜」


芹生はズボンのポケットわガサガサと漁る。が、顔色が少し青くなる。


「あ、銃置いてもた。」


芹生の銃は芹生がゆらゆらと揺れながら寝ている間にポケットから落ちていた。つまり、芹生の武器は長包丁ただ一つのみとなってしまった。


「はぁ〜、頑張るかぁ〜、不殺ぅ〜、、でぇ」


芹生の血濡れた長包丁の刃先に寒光が走る。




一方氷鉋は苦戦を強いられている。右手には銃があるが未経験ゆえにゆっくり狙いを定めないと当たらない。

だが、その止まる時間はゾンビ達が与えない。常に死角を狙いにくるゾンビは何度刺そうとも襲おうとしてくる。


「クソッ、こんな短時間で連携しだすのかよ。どうやって指示出してんだ?あの狂屍(やろう)」


司令塔のような狂屍が出た途端に噛まれそうになってしまうため、原因が狂屍なのは明らかだろう。


「さっきから司令は単純で死角の奴が常に動いてる。耐久はできるけど数が多い、、!」


氷鉋は銃をポケットにしまい、尖った鉄の棒を握りしめる。


「石動さん、あんたに賭ける!」





この際、石動は市役所の前まで来ていた。


「、、閉まっているのか。仕方ないこじ開けるか。」


石動は腕力で動かなくなっていた自動ドアをこじ開けた。

中は勿論暗いが、外が明るく、まだ見えやすい方だ。

ふと、石動は受付に目をやる。そこには人の足が見える。


「人!?避難者か!」


石動は急いで受付へ走る。が、足の後ろ側から煙が見え、安堵と不満でいっぱいになる。


「君、大丈夫か?」


石動が煙が立つ方を見る。そこには若い女性がいた。

じろっと石動を睨んでいるが動こうとはしない。

彼女は目が凛々しく、少しぼさっとした長めの髪、ダボダボのパーカー服は真ん中までチャックを開けている。彼女はタバコを吸い、ふぅっと息を吐いた。


「どうした?アンタ。」


「無事なようだな。ここに他に人はいるか?」


彼女は顔を上にあげ石動の方を見てゆっくり答える


「誰もいねぇ。私一人だ。」


「ならここから一緒に出てほしい。」


その言葉で彼女はムッとした表情になる。


「はぁ〜?出たくねぇよここ。アンタが開けちまったけど安全じゃん。」


「今からここにゾンビを引き寄せる。だから出てほしい。協力してくれれば安全は保証する。」


彼女は一服して右に向けて煙を吐く。そして真剣な顔つきで話す。


「タバコはついてくる?」


「考えておく。君が周りを見て吸うのなら没収はしない。」


その言葉で彼女の表情は柔らかくなり、足を下ろし、椅子に腰掛ける。


「いいよ。で、私は何したらいい?」


「防災行政無線を使う。どこから繋がれるかわかるか?」


「え、、?なにそれ?」


「屋外スピーカーにつながる通信場だ。」


彼女はしばし考え、あっ、と思い出した顔をして目を大きく開ける。


「わかったわかった!ついて来な!」


そう言われ、彼女の後ろをついて行く。彼女は石動が話していないため事情を知らず、歩いて案内している。


「あ、ねぇねぇアンタ」


「石動だ。」


「名前の方は?」


「飛翔(ひしょう)」


「ヒショーさ、灰皿ない?」


石動の眉間が少し歪む。彼女から見ても明らかに怒っている。


「無い。今までどうやって火を消してたんだ。」


「え〜いいじゃんか、もう誰も使わないんだし。あと私、近嵐(ちからし) 乃愛(のあ)な。あ、ついたぞ。」


扉を開けると確かに放送器具がたくさんある。石動は急いで器具についての仕組みを会得する。


「近嵐、」


「乃愛でいいぞ」


「乃愛、凄いな、よくここだと瞬時に察されたな。」



そう言いながら石動はガチャガチャと機械を動かす。


「まぁ当然だ、私ってほら、天さ、、」


ガチャっと石動が動かした途端にサイレンのような音が鳴り響く。


「うるせっ」


乃愛はタバコを持っていない左手だけで左耳を塞ぐ。


「、、できれば公園のみにしたかったが、まあいいか。行くぞ乃愛。」


「おう!こっからは何すればいいんだ?」


「俺は仲間を助ける。近くにあるトラックに乗り込んでいてくれ。」


「了解(ラジャ)!」


二人は駆け足で目的地へ向かう。石動は万が一をと思い、腰にかけていた銃を取り出す。


「え!銃!?んでそんなもん、、」


「後でゆっくり話せる。」


言葉を遮られムッとするが、石動のスピードについていくのに精一杯だ。





一方で、サイレンが鳴り始めた時、芹生と氷鉋は未だ戦っていた。


「サイレン〜?石動さんか、、」


芹生が目の前の狂屍を見ると若干音に引きつられているように見える。すかさず腕を切ろうとするが片腕で塞がれ、噛みつこうとして来たが、瞬時にそれをかわす。


「あぁ〜!ミスったなぁ。ラストチャンスだったのにぃ。」


そう後悔したとき、狂屍の足元に人影が見えた。

氷鉋だ。

氷鉋は足に銃を目の前まで突きつけて撃った。狂屍はバランスを崩し、倒れかけたところをすかさず手を後ろにクロスさせ、拘束する。


「ナイスゥ!よく来れたなぁ。」


「危なかったぞ。あのサイレンで指示受けてたゾンビが止まってその場にあったタオルで狂屍の口をぐるぐる巻きにしてやったんだよ。」


「、、ん?まてまてぇ、指示したぁ?」


「石動さん来てから話すよ。あと、銃使える?」


「いちよぉ」


「じゃあそいつ抑えとくからあいつらやってほしい。」


氷鉋が指を刺す方には数体のゾンビが彷徨いていた。


「ああ、こんだけならまぁ。」


そう言って芹生はゾンビの元へ近づき、しっかり脳に銃を命中させる。


「おぉけぇ。これでこの辺りのゾンビ全滅かぁ?」


大量にいたゾンビはスピーカーの音でこの場からもういない。完全勝利だ。ひとまず狂屍を二体連れてきて縛り上げる。

それと同時に石動がたどり着いた。


「おぉ!石動さ、、誰だその女!」


「追々説明する。それで、そいつらは狂屍か?」


乃愛はウゲッとした表情でゾンビを見ているが、石動はじっと二体を観察する。


「石動さん、今回、、指示を出す狂屍が現れました。狼煙を上げた人は多分、そいつにやられました。」


その言葉で石動のあまり変化のない眼が一瞬大きく開く。


「、、急いで帰ろうか。それは俺も知らない謎だ。」


「食料とかはいいかぁ?」


「一旦いい。今回は新しい人も乗せるからな」


そう言って石動は乃愛の方を見る。


「お〜い、まさかゾンビと一緒に荷台に入れんのぉ?」


「はぁ!?ヒショー、、マジで?」


芹生は石動が女を連れてきたことでトラックの席がなく、死と隣り合わせが続くのかと思っている。

乃愛はなぜかトラックの席に自身が入る想定ではなかったようだ。


「俺上に乗っとくよ。安心して助手席座っときなよ。」


氷鉋がそう言ったことで芹生も俺も俺もとなる。




帰り、上にいた二人は看板を避けながらハードなドライブで帰宅したのであった。

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