行商人ウィンガルの商売講座
このおっさんただの酔っ払いちゃうんか?
そう思った俺は早速慧眼でステータスを見てみることにした。
ピーピピッ。
スキル発動【慧眼】
【ウィンガル】
年齢:47
Level:64
種族:鳥人族
職業:行商人
俺は思わず男の顔を見た。
薄茶色の羽毛。
年季の入った革のベスト。
腰には小さな帳簿らしきものがぶら下がっている。
「おじさんってもしかして…」
『なんだ。その顔は。』
『ワシが商人に見えんか?』
「いや、そんな事ないです!」
『ガハハハハ!』
『少し意地が悪かったかな!』
豪快な笑い声が酒場に響く。
『これでも三十年程行商人としてやっとる。』
「三十年!?」
思わず声が大きくなる。
俺なんて前世含めても商売歴十年程度だ。
俺なんかと比べ物にならない大ベテランである。
『まぁそのほとんどがウラン村に必要な物資を仕入れる為に王都に行っとるんだがな!』
「おじさん!ぜひ勉強させてください!」
『まぁこれも何かの縁だ!』
『教えてやらんこともないがワシに何か対価を支払えるか?』
「受講料として銀貨5枚でどうでしょう?」
『まぁ少したらんが子供から金を取る気にもなれんし…』
『坊主の心意気に免じてそれで構わんよ!』
なんとか受領してくれた。
子供の見た目って案外使えそうやな。
『それで坊主は今何がしたい?』
「実はウラン村から調味料を仕入れたいんです。」
「でもただ買うだけやと相手からしたら客でしかないじゃないですか。」
「だからこっちからも何か卸したいんですよ。」
「けどこの村に必要な物を持ってるわけではないので…」
すると男はニヤリと笑った。
『その考え方が間違いなんだよ!』
「間違い!?」
『商売ってのはな。』
『商品を売る仕事じゃない。』
『困り事を解決する仕事だ。』
「困り事……。」
『そう。』
『だから相手が欲しい物って考えるんじゃ無い。』
『まずは周りを見るんだ。』
ウィンガルは酒を一口飲む。
『坊主。』
『この酒いくらすると思う?』
「え?」
突然の質問だった。
「急に言われても……」
「酒場やし銀貨1枚とか?」
『銀貨2枚だ。』
「高っ!?キャバか!」
思わず声が出る。
前世なら二千円。
酒一杯の値段ではない。
『じゃあミルクは?』
「流石に銅貨5枚とか?」
『銀貨1枚だ!』
「せっ…せんえん!?」
今度はもっと驚いた。
牛乳一杯が千円である。
お中元かよ。
『なぜ高いと思う?』
「ここが酒場やし?」
『まぁ半分正解と言ったところかな。』
『確かに酒場の仕入れだと商店からの購入になるから高くなるのは当然だ。』
『だがそれだけじゃない。』
『王都からの輸入費、商店への卸費、客の購入費。』
『つまり皆が利益を乗せた結果だ。』
なるほど。
言われてみれば当然だった。
『じゃあさらに問う。』
『この村の人間は何に困っとると思う?』
「物価の高さとかでしょうか。」
『そういう事じゃな!』
『坊主にはそれが見えてなかったろ?』
図星だった。
調味料はある。
食料もある。
店もある。
活気もある。
こんなのどう考えても困ってるようには見えなかった。
『だから村長にあしらわれたんだよ。』
ぐさっ。
それはあまり言わないで欲しい。
『坊主はまだ客目線でしか物事を見てねぇ。』
『商人目線で物事を見れてねぇからそうなる。』
そう言われれば確かにそうかもしれない。
俺はペルシャ村に調味料を卸したいが為に来た。
目的は調味料の仕入れ。
相手が何を欲してるのかなんてわからなかった。
『交易関係になりたきゃ相手が困ってること。』
『つまり相手が求めるものを提示しなくちゃならん。』
翔斗は反論する。
「でも話を聞けば物価高なのはわかりましたけど、それでもこの村は豊かに見えます。」
するとウィンガル。
『なら己の目で確かめてみるか!』
こうしてウィンガルに村を案内してもらうことになった。
これから異世界初の商売講座を受けれるようだ。
まず向かったのは薬屋。
薬草が銀貨5枚。
「えっ!?薬草ってこんなするん?」
『薬類は王都でも貴重だからな。』
『ほぼ全ての薬類の原料となる薬草は、マナの濃いところにしか自生しないしな。』
そして次は雑貨屋に向かった。
「なんか特段高いなーとかはなさそうやなー。」
『まぁ雑貨だからな。』
『ただし……』
「えっ!高っ!」
説明前に気付いて思わず声が出る。
グラスや食器がひとつ銅貨6枚。
さらに風呂やトイレの掃除用スポンジはひとつで銀貨2枚。
『生活雑貨はある程度買い換えるから高い。』
「現世やったら百均で揃うやろ。」
そして肉屋も八百屋もその他全てが現世の二倍から三倍程度だった。
この世界の村人の生活費って一週間1万くらい違ったか?
電気・ガスとか細かい税金やら家賃はないにしろ、この村では生活無理やん。
そしてついに目当ての調味料屋。
「いや、高すぎるわ。」
そこには各調味料ひとつ銀貨1枚とあった。
自炊の入りしんどすぎんか?
「全部見て回ったけど物価高にしても高すぎへん?」
『王都からの輸入に頼ってるから仕方ない。』
「でも自給自足の部分もあるんやろ?」
『それを王都の料金に合わせなければ村の物だけが売れて無くなるだろ?』
俺は頷く。
『そうすると商店側は安い物しか売れないから収入が落ちる。』
『つまり王都からの輸入品が買えなくなっておしまいだ。』
なるほど。
「でも物価高を解消なんて流石に出来ませんよ?」
『金額に大差無くて気付かんかったか?』
「何がなんすか?」
『家具屋も見ただろ?』
「行きましたねぇ。」
『テーブルと椅子いくらだった?』
「テーブルは銀貨7枚で椅子は銀貨5枚だったかな?」
あっ。
俺は気付いた。
値札しか見て無かったから気付かなかった。
現世と変わらん。
いや、むしろ安い?
まぁ品質は日曜大工レベルやけど。
『そう。』
『家具類はドワーフとの取引で安く仕入れられる。』
ドワーフの村はウラン村から西北西に徒歩3時間ほどらしい。
「つまり王都との交易では無く一部をここと交易してるんですか?」
『そう言うことだ!』
そして他にも事情を色々と聞いた。
鳥人族は飛べる。
直線距離で行ける分速さはピカイチ。
だが大量輸送は苦手らしい。
個々が生活物資を仕入れるなら王都に毎日出向くことになる。
だから商人に頼んで輸入をしているようだった。
『つまり坊主もドワーフを真似てみるといい!』
「んー。でも俺個人やと仕入れと卸になるから結局……」
ぶつぶつ言いながら考える。
そして翔斗がピタッと止まる。
「あっ。そや。」
俺は思い出した。
薬類は貴重。
薬草はマナの濃い場所にしか生えない。
そして俺の頭にある光景が浮かんだ。
巨大な世界樹。
その周囲に広がる濃密なマナ。
そうだ。
世界樹の周りなら。
薬草なんて腐るほど生えていてもおかしくない。
『おっ!坊主なんか見えたか!』
ウィンガルが笑う。
『商売は物を売る仕事じゃねぇ。』
『商談相手を助ける。』
『問題を解決する。』
『相手の懐に入る仕事だ!』
『そして信用を積み上げる仕事でもある。』
「ありがとうございます!」
「何とか交渉の糸口が見えたっすわ!」
ウィンガルがニヤリと笑う。
『やっと商人らしい顔になったな。』
そして授業料としてウィンガルに支払いをし、早速村長に直談判に行こうとした。
『おっと。坊主。また直談判か?』
「はい。そのつもりですけど。」
『一度経験したのにわからんのか?』
『ここの村長はそう簡単に話を聞いてくれん。』
『一度失敗した奴なんて絶対に通してくれんぞ?』
不覚だった。
上手くいく自信しかなかったからしゃぁないけど。
最初に丸腰で直談判なんて戦犯も戦犯。
「なら一度出直すしか無いですかね……」
『仕方ないのぉ。』
『これは坊主の商人祝いじゃ!』
そう言って一枚の紙を渡された。
『そこへ行ってこい!』
『ウィンガルの紹介といえばわかる!』
それは手書きの地図だった。
「何から何までありがとうございます!」
「次お会いした時は一杯奢らせてもらいます!」
『おう!期待せずに待っとるよ!』
そして俺は地図の場所に向かった。
着いたのは村長の家の裏側だった。
小さな居住地区のようで地図の場所には小さなロッジが立っていた。
「ここかぁ。」
「ごめんくださーい!」
コンコンとノックをする。
するとメガネの鳥人族が出てきた。
『尋ね人とは珍しい。』
『どちら様かな?』
「ウィンガルさんの紹介で来たんですけど。」
『ほう。ウィンガルとな。』
『随分と久しい名前が出たもんだわい。』
『まぁ入りたまえ。お茶でも出そう。』
「ありがとうございます。お邪魔します。」
そしてお茶とお菓子がテーブルに出された。
「いただきます。」
『お前さんもこの村に商いに来たと言うことで宜しいかな?』
「はい!自分は只野翔斗と言います。」
『ショートさんとな。またも珍しい名前よの。』
『私はセキエイという者よ。』
ピーピピッ。
スキル発動【慧眼】
【セキエイ】
年齢:62
Level:237
種族:鳥人族
職業:元秘書
元村長の秘書か?
てかレベル高っ!
「それで村長に交渉したいのですが色々やらかしてしまって…」
事の経緯を話した。
『ウィンガルと聞いてそういう事だろうと思っとったわい!』
『オッホッホ!』
陽気に笑う気さくな爺さんだ。
『私は村長とは旧友で、2年前まで秘書もしとったもんでのぉ。』
『ウィンガルとは秘書時代に村長との交渉の時に知り合ったんだわい。』
そしてその人から村長の話を聞く。
昔。
悪徳商人に騙された。
契約だけ結ばされ。
物資は届かず。
村が大損害。
それ以来。
村長との交渉には推薦が必須になったらしい。
ずいぶん警戒心も強くなり、商人嫌い。
『その時ウィンガルもやらかしよってのぉ。』
『オッホッホ!』
「ウィンガルさんも?」
『村長との交渉に飛び込みで来よってのぉ。』
『その上“値切るくらいなら他所に売る”と言いよった。』
「それでどうなったんですか?」
『一度出禁になっとったのぉ。』
『だけどのぉ。』
一呼吸おいて話し始める。
『私が商談内容に惹かれ仲ようなって推薦してやったのよ。』
「ならセキエイさんの推薦があれば交渉の場を作ってもらえるってことすか!?」
『まぁ可能ではあるよ。』
『なのでショートさんや。』
『貴殿の交渉内容をお聞かせ願おう。』
そして俺は世界樹の件。
薬草の件。
調味料が欲しいこと。
物々交換程度の金額を提示した。
『まぁ荒削りではあるが及第点と言ったところよのぉ。』
「じゃあ!」
『良かろうて。』
こうして商談の場を設けてもらった。
『それで?』
『何を持って来た。』
前回と同じ質問。
でも翔斗の答えが変わる。
「薬草です!」
『薬草?』
「正確には継続供給を約束します!」
沈黙が流れる。
そして⸻
『して、要求は何だ?』
「調味料をいただきたいのです。」
『ほう。』
ピーピピッ。
スキル発動【慧眼】
【フォックス】
年齢:62
Level:376
種族:鳥人族
職業:村長
感情:興味・期待・感心・警戒
おー!いける!
俺は内心ガッツポーズをした。
「ウラン村では薬草や薬類を王都から仕入れてる分、随分と高い。」
「私は薬草を安定して入手する手段があります。」
「なのでまずは金銭のやり取りではなく、物々交換としませんか?」
『薬草と調味料の物々交換とは、随分こちらに有益な条件だが何を企んどる?』
「企むなんてとんでもない!」
「私は調味料をペルシャ村で販売したいだけなんです。」
慧眼で感情を見る。
感情:興味・期待・感心・警戒(大)
まずい。
「ひとつだけ企んでるというのかわかりませんが。」
「交渉成立して上手くいけば、他の薬類も私からウラン村へ販売したいです。」
「もちろん今の仕入れよりは安くします!」
慧眼で感情を見る。
感情:興味・期待・感心・警戒(小)
よし来た!
警戒心が薄れた!
そしてしばらく沈黙が流れる。
『ようやく商談になったな。』
『交渉成立としよう。』
『だが考えたな。』
『調味料ひとつと薬草ひとつでは、こちらが得をしすぎる。』
『つまりお前は、初回の利益を捨てて信用を買いに来たわけだ。』
『薬草で信用を買って。』
『薬類で利益を得るつもりか。』
『商人らしい考え方だ。』
村長は満足そうに頷いた。
『では三日後。』
『最初の取引を行う。』
「ありがとうございます!」
俺は深々と頭を下げる。
こうしてウラン村との交易は成立した。
次なる目的は衣類の確保。
戦闘が出来ない俺にとって、狼人族との交易は避けて通れない。
商売の勉強もして知識や情報という武器も手に入れた。
だが、この時の俺はまだ知らなかった。
狼人族の村で起きている問題が――
俺の想像を遥かに超えていることを。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
翔斗、初めての交易成立です。
次は衣類を求めて狼人族の村へ。
ですが、どうやら簡単な仕入れでは終わらなさそうです。
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