鳥人族の村と商売の壁
ルピナスの森を北へ進むこと数時間。
護衛の二人を連れ、俺は鳥人族の村を目指していた。
「なんか橋の時より遠い気するなぁ……」
それもそのはず。
橋の時とは違い登り下りが多いのだ。
森を進み始めて一時間ほど。
ガサガサッ
茂みが揺れた。
『翔斗様!』
『下がってください!』
護衛二人が武器を抜く。
次の瞬間。
飛び出してきたのは大型の狼だった。
『ホワイトガルルだ!』
『来るぞ!』
ガルルッ――
ホワイトガルルが威嚇している。
護衛二人が睨み合ってる中、俺は慧眼でステータスを見てみることにした。
ピーピピッ。
スキル発動。
【慧眼】
ホワイトガルル Lv.36
種族:狼族
森に生息する一般的な狼族。
忠誠心、主従関係を大事にする。
「なるほど。そういうことか。」
恐らく縄張りの近くか何かなんやろう。
「にしてもレベル36って弱くないか!?」
「今更やけどグリズリーホーンってレベルなんぼやってん。」
一人でブツブツ言っていると護衛二人にホワイトガルルが飛びかかってくる。
『くっ…この程度のやつが。』
『はぁー!』
二人の連携は見事だったのだが――
森の奥から二匹、三匹とぞろぞろ出てくる。
目の前には七体のホワイトガルル。
「さすがに不味くないか?」
『くそ。他にもいたのか。』
『翔斗様!下がってください!』
『囲まれてしまいます!』
護衛二人が武器を構える。
だが俺は慧眼の説明を思い出していた。
忠誠心、主従関係を大事にする。
確かこれって犬と同じ習性よな。
そして――
目の前のホワイトガルル。
よく見たら。
「なんかデカい犬やな。」
『は?』
『翔斗様!?』
ガルルルルッ!
一番大きな個体が唸る。
『危険です!』
『下がってください!』
「どーどーどーどー。」
姿勢を低くし両手を前に抑える動きをする。
「俺らは縄張りを荒らしに来たわけちゃうから。」
「ちょっとここ通りたいだけやねん。」
すると一番大きな個体が威嚇をやめ少しずつ近づいてくる。
『翔斗様!危ないです!』
「まぁまぁ。とりあえず黙って見といて。」
そして手のひらを返し差し出す。
ホワイトガルルが警戒しながら近づく。
するとーー
クンクン。
クンクン。
ペロッ。
匂いを確かめるように手を舐めてきた。
「ほらな。」
『えぇぇぇぇ!?』
『こいつらは魔獣ですよ!?』
「心配せんでもフィアの方がよっぽど噛みついて来よるわ!」
ピーピピッ。
【感情】
興味・警戒・空腹
「おー。なんや腹減ってんのか。」
「魔獣って何食うん?」
『そんなの知りませんよ!』
『生肉とかじゃないんですか?』
「雑食とかちゃうんかな?」
そしてマフィンに持たされた弁当を荷物袋から取り出す。
するとホワイトガルルは尻尾を振りながら弁当を食べ始めた。
他のホワイトガルルたちもよだれを垂らしながら尻尾をブンブンと振っている。
「いや――」
「お前ら全員犬やん。」
『こんな光景初めてだ……。』
『そりゃホワイトガルルに餌付けする人なんて見たことも聞いたこともないですよ……。』
何故か二人に呆れられていたようだった。
「とりあえず持ってる食い物を分けてやろう!」
そうしてホワイトガルル達に食料を分け与え、その場を後にした。
振り返ると七匹ともこちらを見送っている。
「なんか罪悪感あるな。」
「犬置いて帰る時みたいや。」
それからさらに数時間後。
『そろそろ鳥人族の村です。』
『私たちはこの辺りで野営しておきますので。』
そう言って見送ってくれた。
そこから十分ほど歩くと――
「ついたー!」
「ここが鳥人族の村か!」
思わず声が漏れた。
俺の目の前には、高さ三メートルほどの大きな門がそびえ立っていた。
ペルシャ村とは比べ物にならない。
「えっ。」
「なんかデカない?」
「村って感じちゃうやん……。」
俺が想像していた鳥人族の村は、せいぜいペルシャ村を少し大きくした程度だった。
「とりあえず入るか。」
門番のような者はいないのでそのまま入る事にした。
「ごめんくださーい。」
だが返事は無い。
恐る恐る中に入る。
すると――
突然目の前に二本の槍が突き付けられた。
「ひぇぇ…」
気付けばいつの間にか、両脇には鳥人族の男が立っていた。
『おい。何者だ。』
「た、旅人です。」
突然現れた二人の鳥人族に思わず背筋が伸びる。
鋭い嘴。
腕から伸びる羽毛。
そして何より目つきが怖い。
『旅人?』
『こんなところに何の用だ。』
「いやー。道に迷ってしまって。」
「腹が減って路頭に迷ってたら門が見えたんで。」
「何か腹ごしらえでも出来ないかな?っと。」
『……。』
二人は顔を見合わせる。
『荷物を見せろ。』
「はいはい。」
荷物袋の中身を確認される。
弁当はホワイトガルルに食われたので空だった。
『武器は?』
「持ってません。」
『敵意はないのか?』
「あるように見えます?」
『見えんな。』
少し間が空く。
『……通れ。』
『問題を起こしたら追い出す。』
「ありがとうございます!」
こうして俺は無事に鳥人族の村へ入ることができた。
村の中は想像と違っていた。
活気がある。
露店もある。
人の出入りも多い。
「思ったより栄えとるなー。」
ペルシャ村とは大違いだった。
「それにしても関所の役人えらい警戒心強かったな。」
「目つきも鋭いしむちゃくちゃ怖かったわ。」
「いきなり飛び込み営業しにいっても意味なさそうやな。」
そうこう考えごとをしながら適当に歩いていると酒場らしき建物を発見する。
「おー。酒場あるやん!」
「って俺見た目14やけどいけるんかな?」
「とりあえず情報収集に入ってみるか。」
異世界の情報収集といえば酒場。
テンプレは大事だ。
酒場へ入る。
すると鳥人族達の視線が一斉に集まった。
「うわ怖っ。」
全員警戒してる。
どんだけ人見知りなんや。
って俺が見た目ガキやからか。
適当にカウンターの席へ座る。
「マスター!ミルクありますか?」
『てめぇ見ねえ顔だがどこの者だ?』
「いやー。旅人でして、お腹が空いて迷い込んだんですよー。」
『こんなガキがか?』
『まぁそんなことはどうでも良いが、ここは酒場だぞ?』
「はい!旅をしてると道とか尋ねるのに適してるんですよ!」
『金はあるのか?』
「大丈夫です!」
『なら構わんが。』
『ほれ。ミルクだ。』
こういう時はまずはマスターと仲良くなろう。
「それでマスター?」
『なんだ。ベラベラ喋るガキだな。』
「旅人なもんで、そこはご愛嬌ということで。」
『まぁこの村のことは右も左もわからんだろうしな。』
「それでお尋ねしたい事が……」
そして俺はしばらくマスターから話を聞いた。
この村の名前はウラン村。
ウラン村は王都との交易が盛ん。
麓の街を経由して定期的に商人がやって来る。
食料は一部自給自足。
だが調味料や日用品はほぼ仕入れに頼っている。
「なるほど。」
「ところでマスター。なんか食うもんありますか?」
『ウチのオススメは酒の肴しかないぞ?』
「大丈夫です!肉とかあれば!」
『旅人って稼げるのか?』
「まぁ色々稼ぎ方はあるんですよ!」
『ほう。例えば?』
探りを入れてきよるなー。
流石に魔獣退治です!とか言うたら警戒心強いしえらことなりそうや。
「メインは人助けですよ!」
『なるほどなぁ。』
「割と旅の知識って役立つみたいで!」
「まぁウラン村には困り事なさそうですが。」
色々話を聞いた俺はお勘定を済ませ店を後にした。
「この村からは調味料を仕入れられそうやな。」
俺の読みは3択だった。
橋が壊れて生活物資に困っていたペルシャ村。
もし交易路が同じなら困ってることは同じはず。
仮に別の交易路があるなら困っていない。
もしくは自給自足で事足りてるならペルシャ村が困ってる品はあるはずだ。
「読みはあってたなー。」
「とりあえずある程度ウラン村のこともわかったし村長に交渉行くか!」
そして俺は村で一番大きな屋敷へ向かった。
村長とか偉い奴が住んでそうだったからだ。
『帰れ。』
門番に一言で追い返された。
「あのー。挨拶とかだけでも。」
『帰れ。』
「話くらい聞いてくれませんか?」
『帰れ。』
「そこをなんとかお目通りを。」
『帰れ。』
会話にならない。
⸻
十分後。
ようやく面会が許された。
『全くしつこいやつだ。』
『しばらくここで待っていろ。』
通されたのは広い部屋。
少しして鳥人族の長がやってきた。
いかにも金持ちそうな人だ。
『それで。』
『何の用だ。』
「初めまして。まずは村にお邪魔してるので挨拶をと。」
『なに?たったそれだけか?』
「あっ、いえ。実は交易のお話が――」
『条件は?』
「え?」
『こちらに提示する条件は?何を持って来た。』
「いや、何も……。」
沈黙。
数秒後。
『帰れ。』
「えっ。」
『話にならん。』
『商談とは、欲しい物を頼みに来る場ではない。』
『相手が欲する物を、こちらから提示する場だ。』
『それすら持たずに来た者と、何を話せと言う?』
『ましてや、飛び込みの得体も知れぬ者だ。』
『こちらが耳を貸す理由を提示してこそ、商談は始まる。』
完全敗北だった。
そして追い出された俺は途方に暮れていた。
「商売って難しすぎん?」
だが言われたことはもっともだった。
しばらく冷静に考えてある事に気づく。
「そういや慧眼つこてへんやん。」
「慧眼使っとったら多少は話できたかもしれんのに。」
俺は威圧に負けて冷静さを欠いていた。
タジタジで商談に臨んでてもそりゃ無理だ。
「とりあえずもう一回酒場戻るか。」
再び酒場へ戻った俺は頭を抱えていた。
「はぁ。」
「何も困ってなさそうな村に何を提示すんねん。」
その言葉を聞いた隣に座っていた鳥人族のおじさんが吹き出した。
『ガハハ。坊主。』
『この村は何も困ってなさそうに見えるか!』
「はい。」
『それはお前が何も知らんだけだ。』
『割と困っとることも有るぞ?』
『なんならこの村はほとんどが行商人頼りだ。』
『つまりどうしても金が無いと生活できん。』
「でも栄えてるじゃないですか。」
『確かに活気があって栄えてるように見える。』
『だが、それも交易があっての話だろ?』
『だからどうしても商店の品は高い。』
『この酒一杯にしてもそうじゃ!』
『坊主が飲んどるミルクも肉も。』
この世界で初めて外で飲み食いする俺はこれが高い安いもわかってなかった。
『一度街を隅々まで見ることが大事だぞ!』
「ほぉ。なるほど……。」
反論できる余地もなかった。
確かに俺は何も見ていない。
むしろまだ知らないことの方が多い。
商品も。
相場も。
人も。
そして――
この村が困っていると言うことも見えてなかった。
「商売って想像以上に難しいんやな……。」
村長の言葉が頭をよぎる。
「『相手が欲する物を持って来い。』かぁ。」
俺はミルクを一口飲みながら大きくため息を吐いた。
「さて。」
「何から調べるかな。」
その時だった。
『ガハハハハ!』
また隣の鳥人族の男が豪快に笑う。
『坊主。』
『商売を生業にしたいのか?』
「え?」
男は酒を飲み干すとニヤリと笑った。
『商売がしたいなら――』
『まずは商人に聞くことだ。』
その言葉に、俺は思わず男の顔を見た。
どうやらこの鳥人族の男。
ただの酔っ払いではなさそうだった。
第14話を読んでいただきありがとうございます!
今回のテーマは「商売は難しい」でした。
翔斗は人を見るのは得意ですが、商売人としてはまだまだ駆け出し。
村長に言われた
「相手が欲する物を持って来い」
という言葉は、この先の翔斗にとっても大きな経験になっていきます。
次回は新たな商人との出会い。
ここから少しずつ「しがないただの商人」の物語が動き始めます。
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次回もよろしくお願いします!




