俺こんなとこで死ぬんか?
目の前に現れたのは巨大な熊だった。
いや、熊なんてもんじゃない。
体長は五メートルは優に超えている。
全身を覆う青い毛並み。
そして額には鋭い一本角が生えている。
何より恐ろしいのはその爪だ。
一本一本が短剣のように鋭く光っていた。
『グリズリーホーンだ!』
『全員散開しろ!』
ガルドが叫ぶ。
次の瞬間――
ドンッ!!
熊の巨体が地面を蹴った。
「はっ!?」
見た目に反して異常な速さだった。
一瞬で俺との距離を詰めてくる。
『翔斗ッ!!』
ガルドの怒号が飛ぶ。
初めて見る魔獣に俺は腰を抜かしてしまい動けない。
ドゴォォォン!!
直後、俺目掛けて熊の爪が振り下ろされる。
シュピピピピーン。
スキル【神の加護】が発動されました。
地面が抉れ、大木が数本まとめて吹き飛んだ。
「いやいやいやいや!」
「死ぬ死ぬ死ぬ!!」
どうやら神の加護のおかげで少し状況が変わったようだ。
周囲の木々が突然動いたように視界へ飛び込み、気付けば俺の身体は攻撃の直撃を避けていた。
だが、それで状況が良くなった訳ではない。
足が震える。
呼吸も乱れている。
頭では逃げろと分かっているのに身体が言うことを聞かない。
『お兄ちゃん逃げてー!!』
フィアの悲鳴が聞こえる。
無理やねん。
動けへん。
いや、動けるはずや。
俺は腰に手を当てた。
「ヒール!」
淡い光が身体を包む。
すると身体の強張りが嘘のように消えた。
「よし。動ける。」
咄嗟にヒールをかけ身体の硬直を解除し逃げた。
何やあの破壊力!
『集中しろ!』
『相手から目を離すな!』
ガルドが応戦する。
護衛の二人も武器を構えた。
だが熊は俺だけを見ている。
真っ赤な瞳が俺を捉えている。
「何で俺やねん!?」
『知らん!』
『だが狙われているのは貴様だ!』
ガルドの返答も大概だった。
とにかく神の加護があるから俺は危険から回避はされるはずや。
ガルドも戦ってくれとるし俺も応戦せな。
俺は逃げながらイメージした。
あの熊を吹き飛ばす。
燃やす。
爆発させる。
両手を熊に向け放つ。
「ファイアー!!!」
ボフッ。
へぇ!?
手が暖かい。
ライターのような大きさの火が手のひらに灯っていた。
「何じゃこりゃ!?」
逃げながらもう一度イメージする。
「ファイアー!!!」
ボフッ。
「いや、なんでやねん!」
「森吹っ飛ばしたやん!」
「意味わからんって!」
『貴様は何を遊んでいる!』
「いや、今それどころちゃうて!」
俺が魔法を試してる間も熊は、じっくり獲物を見る目で俺に狙いを定めゆっくり近づいてきていた。
『貴様はそのまま橋の方まで行け!』
「何か考えがあるのかー!?」
『橋の下に落とす!』
「あー!そう言うことか!」
俺はガルドの指示に従い熊を引きつけ崩れた橋に走った。
ちょい待て。
俺は考えた。
橋まで来て俺どーすんねん。
逃げられへんやん。
あっ。
そや。
『俺たちが何とかするから貴様はギリギリまで引きつけろ!』
「お前は俺に死ね言うんか!」
俺は必死に頭を回した。
熊とタイミングを合わせて突っ込む。
神の加護のおかげで熊の攻撃は回避できるはずだ。
そして橋の足場に分解をかける。
そうすれば熊は崖下へ落ちる。
やるしかない。
グリズリーホーンがジリジリと距離を詰めてくる。
俺は大きく息を吸った。
いち。
にの。
さんっ!
次の瞬間――
グリズリーホーンが地面を蹴った。
「今や!」
俺は橋の足場へ両手を向ける。
そして熊とすれ違うように前へ飛び込んだ。
「ぶ・ん・か・い!」
ズザァァァッ――
橋の足場が音を立てて崩れ落ちる。
グリズリーホーンが俺のいた場所へ着地しようとした。
だが――
そこにはもう地面が無い。
『グォォォォォォッ!?』
巨体が宙へ投げ出される。
そのまま崖下へと転落していった。
しばらくして――
ドォォォンッ!!
遥か下から鈍い衝撃音が響く。
「ふぅ……。」
「良かった。生きとる。」
『何とかなったな。』
ガルドが剣を納める。
『だが貴様、本当に旅人か?』
『あまりにも弱すぎる。』
「俺も今そう思っとったとこや。」
激戦の末、何とか勝利を収めた俺たちは、安堵からその場で少し休憩することにした。
「それにしても神の加護ってなんやねん。」
もう一度ステータスを確認する事にした。
右手を振る。
ヴゥォン。
半透明の画面が目の前に現れた。
【神の加護】
天使より与えられた特別な加護。
保有者の安全を最優先とし、生命に重大な危険を及ぼすと判断された行動や能力の使用を自動的に制限する。
加護の成長に応じて制限の一部が緩和され、新たな恩恵が解放される。
「生命に危険を及ぼすと判断された行動や能力の自動制限。」
「やから死にそうになっても回避出来たんか?」
「けどさっき木が勝手に動いたように見えたよな……?」
「加護の効果?成長したんやろか?」
『お兄ちゃんブツブツ言ってるけどどーしたの?』
『まだ怖い?』
「あーいや、ちゃうねん。色々あってな。」
『なら良いんだけど。』
『私、怖かった。』
『翔斗お兄ちゃんが死んじゃうと思って。』
「大丈夫や!死なへんって!」
『そんなことわかんないじゃん!』
「まぁ根拠はないけど大丈夫やから心配すんな!」
そう言ってフィアの頭を軽く撫でた。
その後しばらく考えた。
「待てよ……。」
「俺、森吹っ飛ばした時はとんでもない威力やったよな?」
「けど今の戦闘では全然魔法出えへんかった。」
「それどころか、分解くらいしかまともに使えんかったし。」
「あっ――。」
『どーしたの?』
「能力の自動制限ってそーゆーことか!」
『うわ!びっくりした!いきなり大声出さないでよ!』
「あーごめんごめん。」
『貴様は何を言ってる?』
「あっ、いや、こっちの話。」
この時ようやく理解した。
爆発するような危険な魔法は制限される。
逆に回復や補助、便利系の魔法は使える。
「なるほど、安全装置ってことなんやな。」
「安全装置はええ。」
「安全装置はええねん。」
「でも――」
俺は両手を握り締める。
「思いっきり弱体化しとるやないか!!」
『うわっ!?』
フィアの耳がピンと立つ。
「森吹っ飛ばした時の俺どこ行ったん!?」
「川蒸発させた俺どこ行ったん!?」
「世界樹生やした俺どこ行ったんや!」
『知らないよ!?』
「今やったらフィアの方が強いんちゃうか!?」
『えへへっ!』
『そりゃ私は強いよ!』
「威張るな!」
そんなたわいもない会話に少し和んだ俺たちは村へ戻る事にする。
あのアホ天使。
ほんまに。
とんでもない欠陥品くれたやないか。
『それにしても翔斗。』
『今回の件をどうするつもりなんだ?』
「あー、橋を直すかな!」
ん?
「ガルド、お前今俺の名前呼んだ!?」
『それがどうした。』
「少しは信頼してもらえたってことか!?」
『少し見直しただけだ。』
『まだ貴様を認めたわけではない。』
「まぁええわ!」
「少しでも信頼が得られたなら十分や!」
『しかし橋を直すための技術はどうする?』
「それなら大丈夫や!」
「ただ俺一人じゃ無理やから、村戻ったら修復部隊を作って欲しい。」
「んで明日から橋の工事開始や!」
『お前の魔法が変なのは分かった。』
『だがファイアすらまともに出せないのに、本当に出来るのか?』
「そこは心配するな!」
「攻撃魔法は使えんけど補助魔法とかなら大丈夫やし!」
『本当に変わったやつだな。』
そうして俺たちは村への帰路についた。
明日から橋の修復工事を始める。
果たして俺の考えは本当に上手くいくのか。
少しの不安と大きな期待を胸に、俺は夕焼けに染まる道を歩き続けた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
初めての魔獣戦でした!
森を吹き飛ばし、川を蒸発させ、世界樹まで生やした主人公。
さぞ最強なんやろなぁ……。
と思いきや、
ファイア→ボフッ。
ライターかな?
どうやら翔斗は思っていた以上に弱体化していたようです。
そして次回はいよいよ橋の修復編!
果たして翔斗の考える修復方法とは?
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それではまた次回!




