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嵐の前は

まだ休みだな…投稿するか!

 ニコ、いやアイリスが動かなくなってから、どれだけの時間がたっただろう。一人で食べるご飯は、どうも味気ない。食料やその他全ての資源は、いつの間にか一型が集めてくる。少し前は、一型が人っぽく感じて話しかけてみたけど、返事は返ってこなかった。その日以降は独り言も少なくなっていった気がする。今日も小さなため息から一日が始まる。


40日目

「のーばーしーてー、とーおーしーてー。」

 程よい紐を見つけたので、慣れない手つきであやとりをしていると、外で作業をしていた一型がこちらに話しかけてきた。

「非常事態発生。複数のベータがこちらに接近してきています。」

 初めて私に声をかけてくれて少し驚いた。なぜなら、必要最低限の発声機能と言語能力しか付いてないはずだ。もしかしたら会話ができるようにアップデートされたのかも。試しに色々質問してみよう。

「質問させて。ベータって?」

「ベータ。アルファの感染が進行し、体の主導権を奪われた存在。現場の兵士や市民からはナイトメア(悪夢)と呼ばれています。」

 すんなりと答えてくれた。まぁ、要はナイトメアがこっちに向かってるということだ。

「他に質問はありますか。」

「じゃあ...これからどうするの?逃げるの?」

 もしも、あの子を囮にすると言われたらどうしよう。一人で戦えるだろうか。「もしかしたら」という不安が、鏡を見なくたってわかるくらいに顔に出ているのがわかる。

「地形的に、すでに包囲されています。撤退は推奨できません。迎え撃つ準備が必要です。」

 少し安心した。あの子を見捨てろとか言われなくてよかった。だが、絶望的な状況には変わりはない。私は戦うのが怖いよ。

「防衛兵器がある簡易拠点をマーク。三型に位置情報を送信しました。回収に向かってください。」

 どうやら、私に拒否権は無いようだ。言われたとおりに三型を使って......うん?

「ねえ...どうやって運ぶの?時間もないのに、私一人でやるの?てか、子どもの私よりあなたが運んだ方が...。」

「時間がありません。三型の操作方法は音声認識です。」

 無機質な顔が鼻先に触れそうなほど近づく。ちょっと怖い。

「信じて。」

「わかったから離れて...怖いよ...。」

 しぶしぶ外に出て、ガラクタのところまでいく。白くて丸っこい胴体に、二枚のプロペラが付いている。その胴体の下には担架と救急箱が目を引く。


 断ればよかった。勇気を出すべきだった。しばらくの間、私の足は地面から数メートルも離れることになったからだ。

「ああぁぁぁぅうううぅぅぁああぁ!」

 私は三型の担架に乗せられている。左手で握ったベルトが、私の命綱になっている。大人用なのか、上手く体を固定できない。やだ!降りたい...。いややっぱここから落とせって意味じゃなくって。その...えっと...早く終わってくれ。もう風切り音は聞きたくない!


「つぃた...いきてぇる...よかぁた。」

 もう二度と三型に乗らないと声に出して誓いたいけど、呂律が回らない。意識できないほど体が怯えているのが分かる。そういえば何かを忘れている気がする。

「あ、回収!」

 時間が無いんだった。メモに書いてある絵の物を引っ張り、三型へ括り付ける。そういえば何個必要だったんだっけ?

「えーと、トゲトゲ輪っかが6つ。ボール?が35個もあるのか。そして筒っぽい物が70...え?」

 こんなに運ばせる気なの?まぁ、全部括り付けさえすれば何とかなるはず。だが、目の前には数十の簡易倉庫が建ち並んでいた。

「この中から探すの!?」

 一番近い倉庫から順番に探して行く。

「スコップ!缶!砲弾!銃!弾薬!包帯!テープ!ぬいぐるみ...ぬいぐるみ!?えぇい!」

 結局、目当てのものがあったのは一番遠い倉庫だった。もうちょっと奥に着陸してくれよ。そう思いながら筒っぽい物の11個目を着けると、警告音が鳴り始めた。どうやら重量オーバーらしい。

「とりあえず戻るか。これで戻るのかぁ...。」


「た…だいま...」

 小鹿のように震える足で家に入る。全部は持ってこれなかったことを伝えよう。うん、これは仕方ないはずだ。

「お...う...ふ...く...?」

「往復時間も計算した上での要求量です。時間がありません。」

 またあれに乗るのか。何回も乗るのか。そんなの嘘だ、嘘だそんなこと!


 生き地獄だ。運んで、飛んで、また運ぶ。指の関節が痛み始めるが、まだ運ぶ。転んだりもしたが、処置はすぐに終わるから休む暇も無い。痛む体に鞭を打ちながら最後の装備をくくり付ける。達成感と疲労感で、少女の意識は混濁していた。わずかに残った力でベルトを体に括り付ける。

「帰る。」

 その言葉と同時に、少女を乗せたドローンは、大きな風切り音を立てて空へ上がる。意識は、深い夢の世界へと堕ちていった。


「戦力計算。戦闘員は意識不明。二型、走行不可。三型、異常なし。地雷並びに有刺鉄線の敷設完了。対象は現在南下中。2300に接敵。」


2059年 12月24日 23時00分

 かつて、眠らない街とも評された地上の星々は宙へと戻り、月明かりだけが戦場を照らす。

 百鬼夜行のように奴らが迫る。その中の黒く蠢く巨大ムカデの体を閃光が穿つ。総力戦の幕開けである。

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