4話
「あ、そうだ。共有スペースの利用は朝の6時から21時までね。消灯時間とかは特にないけど、そこそこの時間には寝るように。休みの日でも、寝すぎないようにね」
大山さんは、今思い出したように付け足した。
「はい」
「はい」
私たちは、素直に頷く。
大山さんに連れられて、部屋を案内される。
「ここが桜さんに使ってもらう部屋。隣は凪沙さんって言って、君たちの2つ上。酔ってる時に話しかけるのはあまりオススメしないかな。
それから、その左斜め前の部屋が、悠くんに使ってもらう部屋ね。隣は凌くん。口下手だけどいいやつだよ。初めは戸惑うかもだけど」
部屋を見回しながら中に入る。
勉強机と、その隣に本棚。その反対側にベッドがある。
窓がひとつあって、そこを境にして机たちとベッドに別れている。
ドアの前に立って右側にベッド、左側に机だ。
壁はエメラルドグリーンと白。半分ずつくらい。
勉強机のすぐ側の壁に、不思議なボタンが着いていた。
「help call ヘルプコール へるぷこーる」
わざわざ英語、カタカナ、平仮名で書いてあった。
なんだ、これ。
「あの、大山さん」
神田くんの部屋から出てきた大山さんに、さっきのボタンについて尋ねた。
「どうした?なにか不便なことでもあった?」
ペタペタとスリッパを鳴らしながら歩いてきた。
「あ、いえ。そうじゃなくて…この、ヘルプコールってなんですか?」
「ああ、さっき悠くんの部屋でも説明したんだけどね、これは「ヘルプコール」っていって、このボタンを押すと、僕の部屋に通知が来るんだ。文字通り、ヘルプが、つまり助けが必要な時。そういう時に押してくれたらできる限り対応するつもりだよ」
「助けが…必要な時…」
「そこのスピーカーから会話もできる。ただ、他の部屋に通知を送ったり通話したりはできないから、ご容赦ね。
体調が悪いときとか、勉強で分からないところがあった時とか。使ってね」
勉強で分からないところがあった時。この人に解けるんだろうか。
「あの、失礼ですけど、どこの大学の出身なんですか…?」
「一応、東大卒だよ」
「ひょぇ…」
思わず変な声が出る。
東大、って、あの東大?
すごい人に出会ってしまったようだ。
それからも、大山さんによってルームツアーは行われた。
「__とまぁ、こんな感じかな。
質問があればその都度受け付けるよ。僕は、この奥に住んでるから。何かあったら言ってね」
「はい」
「ありがとうございます」
大山さんが家に帰ろうとしたら、ドアがガチャっと開いた。
「さーせん、遅れましたー」
「鈴木凌くん。1時間30分15秒の遅刻だよ。それから、ふたりの新入居者を君は30分25秒待たせました。
にもかかわらず、出てきた言葉は"さーせん"ですか」
メガネをカチリと上げて、笑顔のまま言う。
一瞬にして、不穏な空気が流れた。




