3話
時計の針だけが、カチカチと音を鳴らしていた。
9時半になっても、他の住人たちは現れなかった。
(なにしてんだろ…事故、とか?)
嫌な予感ばかりが頭を過ぎる。
思い切って、大家さんに話しかけてみる。
「あ、あの…大家さん」
「大山でいいよ」
「お、大山さん…その、他の人、は、探しに行かなくていいんですか…?」
「うん。どうせ寄り道してるだけだから」
優しい笑顔でそう頷く大山さん。
けれど、目の奥は笑っていないように見えた。
「そうだ、どうせ寄り道してるだけだから、2人、先に自己紹介始めちゃって。あの二人にはあとで僕が説明しておくから」
「あ、は、はい…」
カンダユウと目を合わせる。
口を先に開いたのは…
「えっと、細川桜です。あ、えと、好きな食べ物は?モンブランです」
好きな食べ物とか、小学生かよ。
そう思ったけれど、発言は取り消せない。
「神田悠です。好きな食べ物は、みかん、かな」
みかん好きなんだ。なんか可愛いな。
「そうだ、同い年なんだよね?敬語なしで大丈夫だよ」
「そ、そっか…あ、うん。よろしく」
少し緊張がほぐれたところで、お母さんが立ち上がる。
「お母さん、このあと用事があるから。あとは頑張ってね」
「うん」
とっても名残惜しそうに去っていった。
というか、他の住人が現れないのが不安なのだろう。
安心させるために、笑って手を振る。
すると、神田くん?悠くん?(どっちでもいっか)に、
「仲良いんだね、お母さんと」
と言われたしまった。
「じゃあ、自己紹介も終わったところで、この家のことについて説明するね」
「この家のルールは、ざっくり言って3つ」
大山さんは、指を3本だけ立てた。そして、人差し指だけを残す。
「ひとつ。冷蔵庫の中には、それぞれ小さいカラーボックスがあるから、自分のモノはそこに入れること。それ以外の場所に置いておいて取られても文句言わない。
ふたつ。家事は当番制。これに関して僕は一切口を出さないから、自分たちで頑張って。
みっつ。不純恋愛は一切禁止。この家の中でも外でも。純愛はいいよ、大歓迎。あ、変態とかではないのでご安心を」
指をひとつずつ増やしながら、3つのルールを述べた。
「それから、ルールではないんだけど、ここは大学生の為だけのシェアハウス。だけど、外部の人間、たとえ友達だったとしても、ここの情報は一切漏らさないように。雑談程度ならいいよ。でも名前は伏せて。必要最低限のマナーは絶対ね」
何か質問は?と聞かれたけど、なにが分からないのかすらわからない。
とりあえず、首を振っておいた。




