1話
「ご飯を食べ終わったらちゃんと歯を磨くのよ?」
「分かってるよ」
規約書のようなものを読み終え、お母さんを説得した後、申し込みを行ったのだ。
そして、諸々の手続が終わり、今はこれから住む家に向かっている最中。
「寝る前のスマホの利用は控えること。それから、隣の人にはきちんと挨拶をすること、それから、」
これからその大事な挨拶をするというのに止まらないお母さんの説教。止めなきゃ。
「はいはい。全部わかってるよ。
大丈夫だって」
「本当に?もう、お母さん心配で心配で…」
「大丈夫」
新生活を始める私がどうしてこんなに自信満々なのかというと、それは、これから暮らすこの家と関係している。
「なんせこの家は、大学生の為だけのシェアハウスだからね」
「そうは言ってもね…」
お母さんがそれでも心配なのはわかる。
これから一緒に暮らす人達の性別は分かっているけれど、性格までは分からないからだ。
それは私も一応不安。
「それに、大家さんいい人だって言うし。…あ、着いたよ」
話しているうちに、外装だけで即決した家に着いた。
玄関には、大家さんらしき人が待っていた。
大家さんらしい、と一目でわからなかったのにはわけがある。
格好がまずダサい。
大家さんは大学生ではなく社会人らしいけれど、なんというか、"に"から始まる引きこもり生活を送っている人にみえる。失礼だけど。
グレーのダボダボとしたズボン、ヨレヨレのシャツの上に、ごまかしで羽織っているのであろううぐいす色の、なんだろう、はんてんってやつ。
それから、ボサボサの茶髪に黒縁丸メガネ。
そこまで分厚くはない。
オシャレのつもりなんだろうか。
ボーッと空を見あげている。
寒いのか、時折腕を擦りながら。
「あの…」
声を掛けると、こちらを見て笑った。
「こんにちは」
笑顔だけは、とても素敵だった。
(この人が大家さんなのか…)
ホームページの写真とは違う。
幸先不安だ。




