11話
「さくらん、お皿とって」
「はい、どうぞ」
たこ焼きが無くなったから大皿を凪沙さんに渡す。
「はい、これチーズいりでーす。たまにウインナーとかもあるかも」
そういいながら、器用にひょいひょいとたこ焼き、いや、この場合はチーズ焼き?をお皿に盛り付ける。
「それから、こっちはキムチが入ってまーす」
私は辛いものが食べられないので、チーズが乗った皿からひとつとる。
お皿は、間違えなかったはずだ。
「辛っ…」
「えっ、うそ、マジで?ミスったわ〜。さくらん、食べられる?あ、み、水…」
涙目になってしまった私を見て、いつもの凪沙さんとは思えない慌てっぷりを見せる。
「すみません…ありがとうございます」
凪沙さんから水を受け取って、一気に煽る。
空気がひと段落落ち着いたころ、大山さんが凍らせた。
「そういえばふたりとも、遅刻した"理由"はまだ聞いてないよ?」
凪沙さんは、缶ビールを持ったまま、凌さんは箸でハンバーグを挟んだまま、私は空になったコップを持ったまま、悠くんは何も持っていないけれど、大山さん以外がピシッと動きを止めた。
私と悠くんは関係ないけれど、固まってしまう。大山さんだけが、優雅にハンバーグを口に運んでいる。
「あの場での謝罪は受け取ったけど、凪沙さんも凌くんも、理由は言ってなかったよね。ずっと気になってたんだ」
ニコニコしたまま言う。
さっきのキムチの辛さが蘇る。
舌がヒリヒリしてきた。
最初に口を開いたのは、凪沙さんだった。
「あの…道に迷ったお婆さんの、道案内をしていました」
缶ビールをそろそろと下ろしながら述べたそれは、遅刻の言い訳の定型文だった。
「うん、それで?」
(それで、って何?)
私は、静かに水を口に含む。
微量の水を飲み込んで、凪沙さんの言葉の続きを待った。
「はい。9時に共有スペースに集合、というのは覚えていました。朝、シャー芯が切れていたことに気づいて、コンビニに行ったんです。帰ろうとした頃の時刻は、正確なものは分かりません。帰り道、お婆さんに話しかけられ、困っているご様子でしたので駅まで付き添いで行きました。大山さんから電話がかかってきた時に8時半だと言ったのは、その時に見た時計がスマホではなく壊れている時計のものだったからです」
明るくて、一人称が「あたし」の凪沙さんが、淡々と「私」として事実説明をしている。
「その後は、真っ直ぐ帰って来なかったの?いちばん最後だったよね?」
「はい。実は、情けないながらも、私が道に迷ってしまいました。スマホの充電は絶望的で、ナビはおろか、連絡することすら出来ませんでした。今後このようなことがないように、スマホは朝にはフル充電、シャー芯はいつでも帰るので、用事が済んでから買いに行こうと思います」
大山さんは、しばらく黙った。
この沈黙が、嫌なくらいに長く感じた。
それから、ようやく口を開いた。
「うん、そっか。それが最善策なんだね。わかった。凌くんは?」
言い方に何か引っ掛かりがあるけれど、ひとまず大丈夫ならしい。
凪沙さんは、ホッとしたように息をついた。
それに対して、再び身を固めた凌さん。
「俺…自分は、完全に忘れていました。8時半に家を出て、9時開館の図書館にいました。徒歩で30分ほどなので。
これからは、しっかりと予定をメモやカレンダーに書き込もうと思います」
「…うん、それが最善策なんだね。
わかった。ふたりとも、ありがとう。
それはそうと、僕が食べたたこ焼きにワサビが大量に入っていたんだけど、何かの腹いせかな?」
「わーっ、ごめんなさい!あたしが食べるつもりでした!」
凪沙さんが慌てふためく。
このお陰で、空気が和んだ。
「自傷趣味でもあるの?」
「違います!」
「冗談だよ」
やっぱり、大山さんの冗談は冗談に聞こえなかった。




