9話
「着いたよ」
気づいたら、そう声をかけられていた。
目を開けると、確かにそこはスーパーだった。
「悪いけど、ふたり起こしてくれる?」
バックミラー越しに目が合う。
ふたり、というと…
「凪沙さんと、ゆ、…」
後ろを振り返って手で悠くんを指す。
「うん」
凪沙さんはいい。問題は、悠くんだ。どうやって起こすのがいい?
とりあえず、凪沙さんを起こす。
「凪沙さん、着きました。起きてください」
「んぁ?」
次は悠くんだ。
どう、しよう。
名前もまだ呼べそうもないし…。
「あれ、悠も寝てんの?」
助かった。凪沙さんが悠くんに向かって手を伸ばそうとすると、
「凪沙さん」
大山さんの制止が入った。
「僕は、桜さんにお願いしたんだ」
「…はい」
凪沙さんは大人しく手を引っこめる。
「桜さん。大丈夫、できるよ」
バックミラー越しに頷かれる。
なら、やるしかない。
私は、意を決して腕を伸ばす。
人差し指で、トントンと肩を叩く。
「あの…着い、たよ…」
聞こえてない…かもしれない。
目は開きそうもなかったから。
キュ、と唇を噛んで、再び口を開く。
「ゆ、う…く、」
私は、最後まで名前を呼ぶことはなかった。
悠くんの目が開いたからだ。
開いた口を閉ざし、腕を引っ込める。
「着いた、よ…スーパー…」
「ああ、ありがとう」
名前を呼ぶとは出来なかったけれど、大山さんに任されたことは出来た気がする。
大山さんからは、"怖い気配"が一切なかった。
「じゃあ、あたしはさくらんと、凌は悠と一緒に行動。何かあったらグループラインに連絡すること。
で、いいよね、だいさん」
テキパキと指示を出す凪沙さん。
振り返って、大山さんに確認する。
「僕は何一つ干渉しないよ」
けれど、大山さんはこの一点張り。
本当に全て私たちに任せるつもりらしい。
「じゃあ、行くか」
凌さんがカゴを持って動き出す。悠くんはそれについて行く。
「私たちも行こ、さくらん」
「はい」
カゴをカートに乗せて私たちはピザを目当てに歩き出した。
「ピザ、好きなの2、3枚選んでいいよ。あたし、アレンジに使えそうなやつ探してくるから」
「は、はい」
目の前には、4種チーズ、照り焼きチキン、マルゲリータ、ベーコンピザ、シャウエッセンの5つのピザがあった。
4種チーズは、アレンジにはあまり使えなさそう。
照り焼きは、ハンバーグがあるからやめておいた方がいいかな?
私は、マルゲリータとベーコンピザにしておいた。
2枚手に取って、凪沙さんを探す。
チーズ売り場に姿を見つけた。
「凪沙さん。ピザ、選んできました」
「お、ありがと〜。カゴ入れといて」
「はい。…あの、これは…?」
3つでひとつのプリンがふたつ入っていた。
「プリン。デザートにと思って」
「いいんですか、そんな…」
「だいさんの許可は取ってるからね」
器用にウインクをきめる。
「そう、ですか…」
凌さんには何か言われそうだけど。
「凌さん、ハンバーグに必要な材料ってなにかわかります?」
俺が尋ねると、凌さんは首を振った。
「知らん。とりあえずひき肉と玉ねぎだけでいいんじゃないのか?」
そう言いながら、チラリと大山さんを見る。
大山さんはにこにこしたままだった。
(ほんとに、何もかも干渉しないつもりなんだな…)
「じゃあ、次、たこ焼きの材料買いに行きましょう」
「ああ」
玉ねぎとひき肉をカゴに入れて、たこ焼き粉を探した。




