③
ーーー今朝、夢を見た。
カミーユ様とメラニー様が街でデートをしている夢だった。
メラニー様が白とピンクの帽子を持って、カミーユ様に「どっちが私に似合う?」と聞いている。
カミーユ様は数秒ほど帽子と睨めっこして、白の帽子を指差した。
帽子を選んでもらって嬉しそうに頬を染めるメラニー様はとても可愛らしかった。
そのまま二人は街で人気のカフェに入り、優雅にお茶をしてくつろいだ。
カフェを退店する際、段差に躓いて転けそうになるメラニー様。
そんな彼女を抱きしめるように支えるカミーユ様。
絵になる二人のその光景は悔しいほどにお似合いでとても綺麗だった。
そんな二人を見ていられなくて視線を逸らしたところで、目が覚めた。
「……おいおい、お前の夢、そのまま再現されてるんだけど。めちゃくちゃ怖いんだけど」
帽子を選ぶメラニー様とカミーユ様…を、カフェの窓から眺めるオーバンさんと私。
夢を見た今日、オーバンさんと街のカフェでスイーツを食べる約束をしていた。
私達は休日が被ると、〝料理研究会〟の活動をしていて、まさに今日がその活動日。
とにかく街で話題の物を食べ、自分たちの料理に活かせるものを探し勉強するという素晴らしい研究会だ。
…メンバーは今の所、オーバンさんと私だけだが。
そしてオーバンさんとカフェの隅にあるカウンター席に座ったところ、たまたま窓から見える帽子屋にカミーユ様とメラニー様がいるのを見つけてしまった。
…夢のとおり、カミーユ様とメラニー様は二人で街デートをしている。
わかってはいたが、実際に見てしまうとやはりショックは大きい。
メラニー様とカミーユ様は白い帽子を買い、二人は私たちのいるカフェに入った。これも夢のとおり。
私たちは入り口からは見えにくい場所にいるので気づかれなかった。
カミーユ様とメラニー様はお店のソファー席に座る。私たちのいるカウンター席から一番離れた場所でホッとした。
「てっきりカミーユ様に挨拶でもしに行くかと思ったけど…行かねぇの?」
「絶対行かないですし、気づかれたくないです。今日の私は、いつもはしない化粧もしてるし可愛いワンピースも着てますけど…これ、休日だからこその私の楽しみなわけで、決してオーバンさんの為に可愛くしてるわけじゃないんです。カミーユ様には絶対に、オーバンさんとデートしてるって勘違いされたくないんです!」
休日にしか化粧やオシャレをしない私。いつもコック帽に隠れている茶髪のロングヘアもウェーブをかけてふわふわにさせている。
我ながら、普段とのギャップはすごいと思う。
カミーユ様は私に興味がないとはいえ、絶対に勘違いされたくない。
「おい!俺だってニコルのこと何とも思ってないけど、でもなんかその言い方すごく傷つくんだけど?!」
「オーバンさん声がデカいです!もうちょっと小声で喋るか黙ってくれませんか!バレちゃいます!」
「だ、黙ってくださいっておま、」
「シーーーーッ!」
「……なんなんだよ」
呆れて冷ややかな視線を向けるオーバンさんを無視し、チラチラと振り返りながら遠くのソファー席の二人を見た。
…よくよく見たらカミーユ様、私服では?!
腰に剣を装備してはいるが、いつもの騎士服じゃない。白のシャツと黒のパンツでシンプルな装いだが、カミーユ様の整った顔立ちと煌めく銀髪を引き立てていてかなり似合っている。
「ちょ、嘘でしょ…あんなにかっこいい人がこの世に存在するなんて…神様ありがとうございます…生きててよかった…カミーユ様大好きです…」
「こわっ」
ブツブツ呟く私に、気持ち悪い物を見る目を向けてくるオーバンさん。
そんな私たちのところに、注文していたスイーツが運ばれてきた。
このカフェの人気メニュー、チーズケーキタルト。これを待ってました…!
カミーユ様に向けていた視線を一気にチーズケーキタルトに変え、まじまじと眺める。
「見た目も良いし、これは期待大だな」
隣のオーバンさんもニヤリと口角を上げた。
私は食べる前に、鞄からメモ帳とペンを出してチーズケーキタルトの盛りつけをスケッチ。
…盛りつけ方が丁寧で綺麗。さすが人気カフェだ。
見た目と香りをこれでもかと堪能した後、私たちはチーズケーキタルトをついに口に運ぶ。
「ふーん…なるほどね、レモン果汁だけじゃなくて果肉も入ってんのか」
「本当ですね、しかもかなり細かくしてあってチーズケーキの邪魔にならないようにしてる…擦りおろしてるんでしょうか」
「多分な。これくらいのレモンの爽やかさは紅茶に合うな。ニコル、タルトに隠し味もされてるけどわかるか?」
「あ、本当だ、普通のタルトと違う!これ…塩ですか?」
「正解。塩でさらにレモンのチーズケーキを引き立ててる…こりゃ美味いな」
ブツブツと二人で目の前のスイーツを吟味していく。
料理研究会はいつもこんな感じだ。色気も何もない。
…ふと、ソファー席の二人を見る。
私たちと同じチーズケーキタルトを堪能するメラニー様と、何も注文せずに姿勢良く座っているカミーユ様。
カミーユ様は信用した人の料理しか口にしない…いや、口にできない。人気のカフェに来てもトラウマが邪魔をして何も食べれない。紅茶すらも飲めない。
…カミーユ様は食べることが大好きな人なのに。
トラウマを植え付けた令嬢を、私は一生憎むし許さない。改めてそう思った。
「オーバンさん。私、このチーズケーキタルトの再現を作ってカミーユ様に食べさせたいです。再現するにあたって、作り方のご教授をいただけないでしょうか」
オーバンさんはかなり優秀な舌を持っている。
食べた料理の材料、おおよその分量までを把握することができるのだ。そんなオーバンさんを、なんだかんだで私は尊敬している。
「おお、いいねぇ〜愛だね〜。もちろん手伝うけど、まずは自分で材料や分量の目安を考えてみな。その後で俺が答え合わせしてやるから」
そう言ってニヤリと笑うオーバンさん。
後輩の成長の場を大事にし、しっかりと背中を押してくれる頼もしい先輩に、感謝の気持ちでいっぱいになった。




