第6話 再出発
「アレハ......」
そんなポールの視線が釘付けになってたもの......それはなんと、地上に散乱した白いカルシウムの塊だった。
「あれはな......この崖を登ろうとして、落ちちまった仲間の亡骸なんや。 その事件以降、崖下の警備が厳しくなっちまってな......この事件が解決したら、まず真っ先に供養してやろうと思ってる。
こんな情けないリーダーの下に配属になっちまって、ほんとすまなかったな......恨むならあたしを恨んでくれ。いずれあたしもお前のところへ行くからよ」
そこには、いつも明るい凛の姿は無かった。部下を死なせたことにより、心を失った孤独のチームリーダーとしかポールの目には映らなかった。
「凛サン......コノ仕事に就いた時点で部下サンはこうなるコトを覚悟してたとオモイマスヨ。 部下サンが命を捨ててデモやり遂げたかった任務を遂行デキルのは、アナタと僕の2人だけデス。
コノ任務をやり遂げるコトこそが、部下サンにしてあげれる最大の供養なんじゃ無いデショウカ?」
決して慰める為じゃ無い。ただ思ったことをそのまま口にしただけだ。
「何を偉そうに......部下を持ったことの無い人間が聞いたようなこと言うな。あたしの気持ちなんかお前に分かってたまるか」
この人は間違い無く、部下を死なせたことで自分を責めてる!
そんなことに気付いた途端、これまでの会話の中で、どうしても理解出来なかった彼女の発言の意味を知るポールだったのである。
「凛サン......アナタもしかして死のうとしてやシマセン? さっきからあなたの口カラ度々出る言葉の数々ガどうしても理解出来なかったんデス。『死んで土に帰るも良し』とか、『いずれあたしもお前のところへ行く』とか......
確かに僕ハ、この仕事に就いてカラ部下を持ったことなんかアリマセン。でも仲間の命の尊さ位はヒラでもワカリマス。
リーダーが部下の命ヲ大事に思うのと同じデ、部下に取ってモリーダーの命が大事なんデス。アナタガ何と言おうとも、僕は凛サンを守り通しマス。
デスカラ、今は死んだ部下のコトを忘れて下さい。本気で生きるコトを考えてクレル人じゃ無いと、守り通せませんカラ。
婦女子の念に囚われテル場合じゃアリマセン。今は任務を遂行するコトだけに集中シテ下さい。いいですか、チームリーダーの凛サン!」
ポールが精一杯のエールを送り終え、徐に視線を凛に向けてみると摩訶不思議。なぜか直ぐ横に居た凛の姿が無い。
まさか落ちた?!
そんなハルマゲドンに怯えながら、視線を下に向けてみたが、幸いにも地上に新たな屍体は転がって無い。ならば一体どこへ?!
ポールが目をキョロキョロさせながらあたふたしてると、今度は飛んでも無い方向から、
「いつまでそこに居る気なんや? ツルハシ抜けても知らんぞ」
そんな声が聞こえて来たのである。
その方向とは、なんと!
さっき落ちたばかりの排水路の中だったのである。
「い、いつの間に?!」
「ずっとだ。さっきからそんなとこで何ボソボソ語ってるんや。早くしないと朝になっちまうぞ」
「リ、リョウカイ!」
言ってる言葉とは裏腹に、優しく手を差し出す凛。そしてそんな手をしっかりと握るポールだった。
一方、今足を踏み入れたばかりの排水路の方はと言うと、すっかり水が引いてて、歩くと言う行為に関しては何の支障も無かった。
そんな中、再びブラックホールへと突き進む2人は、口を閉ざしたまま。発する音が有ったとしたら、それは足元をチョロチョロと流れる小川の音のみだった。
正直......
自分の話を凛が聞いててくれてたのかどうか? なんてことは全く分からなかった。でもそんなこと、どうでもいいことだった。
凛は心の内側に封印してた感情をさらけ出せたし、自分も言いたかったことを言葉としてしっかりと表現出来た。
少しだけど、2人の理想とする『チーム』として、心が通じ合えたのでは? なんて、ポールは思ったりもしてる。
生まれも育ちも性別も性格も全く違うそんな2人ではあるが、目的は一つ。
そんな目的の為に今2人は俄チームを組んで、再び地獄のロードを歩み始めたばかり。
期待しよう......難攻不落の城をこのチームが落とすことを。ここからが本番だ。
もちろんこの時、ポールは知る由も無かった。エマが怪我を負って『羊の杜』に運ばれてたことなど。くわばら、くわばら......




