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第6話 勝機の光

 鋭き無数の牙を持ち合わせた巨大モンスター 

 VS

 出刃包丁1本しか持って無い人間女性


 もしそんなプロアマバトルを美緒が挑むとしたならば、それは間違い無く自殺行為。誰の目にも無謀としか映らない。


 だだしこの時の美緒は、想定外とも言える八方塞がり状態に陥ってたこともまた事実。そうともなれば、彼女のそんな苦肉の策も情状酌量の余地が有るのでは無かろうか?


 とは言え、常に冷静沈着、精密機械すら白旗を上げる彼女の脳が【逃避】と言う言葉を封印して、わさわざそんな愚策に走るのは、ちょっとばかり合点がいかない。



 実はこの時......


 美緒の脳内時計は、17階の扉を爆破して以降、正確にその時を刻んでいたのである。


 カチカチカチ......


 更には意識しなくとも、目に見えぬその者達の動く姿が、鮮明な映像となって脳内に映し出されていたこともまた事実だった。



 もしかしたら......


 一見八方塞がりに見えるこの状況下でも、美緒の心の目には【勝機】と言う名の光がすぐその先に見えていたのでは無かろうか?


 

 やがて美緒は、まだ見えぬそんな勝機の光へと向かって、第1歩を踏み出して行った訳である。


 そして次の瞬間にはなんと?!


「さぁ、あたしはここよ! 食べたきゃ早くこっちへ来なさい!」


 厨房に転がってた出刃包丁片手にそんな奇声を発したのである。


 それはもう、意図的にキラースパイダーとの接触時間を早めてるとしか考えられない行動だった。


「ちょっと何自分の居場所知らせてんのよ?!」


 全く持って理解不能。摩耶が驚くのも無理は無い。


 一方、そんな摩耶の慟哭を他所に、敢えてバサッ、バサッと大きな音を立てながら、キラースパイダー射程内へと突き進んで行く美緒。


 対するキラースパイダーも、遂には蜘蛛糸の振動を感じ取り、当然の如く触感レーダーが獲物の位置を検知してしまう訳だ。


 気付けば、顔の四方を取り囲む8つの目全てが寸分も狂わず彼女にロックオンされていたのである。



 やがて、


 もう少し......もう少し......


 勝機の光が見えるまでの時間は......


 よし、あと5秒だ!


 そんなテロップが頭の中で流れ始める美緒。そして果敢にもどんどんその距離を縮めていった。


 いつの間にやら、あとたったの5メートル。


 この後何かが起こるとするならば、もう数秒後の世界なのだろう。


 その一方、キラースパイダーはと言うと、当然の如く補食本能が最大限に刺激されてしまう訳である。


 グワァッ!っと大きく開かれた口は、きっと補食の為の準備運動なのだろう。ダラダラと流れ落ちる唾液は床に小さな池を形成していく程だった。



 まだもう少し......もう少し......


 よし、あと4秒!



 そして遂には、キラースパイダーとの距離4メートル。


 そんな化け物が最大限に開いた大きな口は明らかに美緒の身体よりも大きかった。


 しかも威嚇の為に露出させた大きな牙は、まるで刀のようにも見えてしまう。仮にそんな刀で切り刻まれようなものなら、一瞬にして絶命すること間違い無しだ。


 通常の人間であれば恐怖で戦き、この時点で尻尾を巻いて逃げ出してることだろう。


 

 そして距離は2メートル。


 そんな距離ともなれば、キラースパイダーが長い足を伸ばせば容易に届いてしまう。



 もうちょっとだけ待ってくれ......


 ここはタイミングが大事!


 よし......あと2秒だ!


 2秒後には間違い無く勝機の光が、あたし達を包み込んでくれる!



 お前さ......


 あたしの目の前でそんなに大きな口開けてるけど。


 あいにくあたしはこんなところで、死んでる訳にはいかないんだよ!



「グワッ!」


 いよいよキラースパイダーが長い足を伸ばし、美緒の身体を包み込みべき行動を開始した。


 

【そして遂に勝機の光が差し込むまで残り1秒】

 

 美緒の右脳と摩耶の左脳が1つとなり、大量のエネルギーが発散される時がやって来たのである!


 美緒は、重心を極限まで引くし、全てのエネルギーを腿、脹脛、足首へと均等に蓄積する。


 更には8本にも及ぶ長い足の動きを読み切り、1秒後の抜け道を見極める。


 そして美緒の足は地上から浮き上がり、足から放出されたエネルギーは今即座に手へと蓄積を開始を始める。


 更にそして、


「てやぁ!」


 気合い一発ジャンプ! 


 頭上眼前に迫ったスプリンクラー配管に、手が届く正にその瞬間のことだった。


 ガシッ!


 ............


 ............


 ............


 気付けば......


 美緒の身体は完全に絡み付いてたのである。


 残念なことに、絡み付いてたのは蜘蛛の糸じゃ無かった。それはなんと......キラースパイダーの長い足だったのである。


「み、美緒さん!」


 そんなキラースパイダーの直前なる捕獲劇に思わず雄叫びを上げる摩耶。


 その顔は興奮に満ちて真っ赤に火照ってる。きっと【サスケ】でも観てる感覚になってたんだろう。


 あとは丸ごとパクりと食べられるだけ。


 きっとこの時キラースパイダーは、頭の中で既にフォークとナイフを準備してたに違い無い。


 ところがここで美緒は確信を持って、こんな言葉を食堂中に轟かせたのである!


「タイムオーバー、そして、ウェルカム!!!」


 すると、


 ピカッ!


 なんと、それまで真っ暗だった食堂に目映い複数の光が差し込んで来たのである!


 それは正に、【勝機の光】だった。





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