第20話 HOTEL MERMAID
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一方、そんな2人の後ろ姿を追いながら集結を果たした10人の刺客達はと言うと......
「兄貴、連中は裏口からこのビル内に入って行ったようです!」
部下からそんな報告を受けた『兄貴』なる者。落ち着き払った仕草、貫禄十分な風貌から察するに、この者達のリーダーと思われる。
とは言っても別に身体が大きいとか、強そうとか、そう言う訳じゃ無い。寧ろ小柄で弱っちくも見えたりする。
年の頃、50過ぎと言うところだろうか。頭はスキンヘッド、牛乳ビンの底のような眼鏡を掛け、何か宗教めいた雰囲気を醸し出している。
『インチキ霊媒士』とでも言えば、きっとそのイメージに近いのだろう。
そんな『兄貴』なるリーダーは、徐にビルの屋上に目を向けた。そこには真夜中であるにも関わらず、やたらと大きなネオン看板が七色に光り輝いている。
『HOTEL MERMAID』
そんな文字が描かれていた。
「ホテル マーメイドだと? それは何かのシャレか? 全く......こんな所へ逃げ込めば助かるとでも思ってんのか? まぁいいだろう。とっとと捕まえてやる。お前達2人は裏口を張ってろ。お前とお前は正面入口。残りの5人は俺に付いて来い!」
「「はっ!」」
「「承知致しました!」」
「「了解です!」」
美緒と摩耶に引き続き『兄貴』ご一向様もまた禁断の扉を開けたのだった。
ギー、バタン。
時刻は既に深夜4時近く。警察が『BAR SHARK』に乗り込んで来た時刻とほぼ一緒だ。
店内に入ると同時に6人の黒服集団は一気に薄暗い廊下を駆け抜けて行った。
店名を『マーメイド』とつけているだけに、絨毯の色はエメラルドグリーン。
更に壁紙は水色ときている。きっと南国の海をイメージしているのだろう。
ロビーの中央に飾られていたヨットの模型を踏み倒しながらロビーへ駆け込んで来た黒服男達は『事務所』と書かれた扉を乱暴に開け放つ。
バタンッ!
「なっ、なんだ君達は?!」
事務室の片隅でカップラーメンをすすっていた支配人らしき七三分け男が、割り箸をぶっ飛ばしながら驚きの表情を浮かべている。出川顔負けのナイスリアクションだ。
「若い女が2人入って来ただろう! どこに居る?!」
「若い女2人だと? 知るかそんなもん!」
見れば、事務机の上には複数のモニターが。きっと防犯カメラが捉えている映像なのだろう。
そしてそんな支配人のすぐ目の前にはテレビが。きっと支配人はカップラーメンを食べながら、モニターよりテレビに夢中だったに違いない。
「よしっ、片っ端から部屋を開けてくぞ。お前、ルームキーを全部よこせ!」
「んなバカな! そんな事出来る訳無いだろ。お前達分かってんのか? ここはラブホだぞ。ラ・ブ・ホ! しかも今日は結構客多いし」
「客の事なんてどうでもいいわ! 早くルームキーをよこせ! さもないと......」
気付けば、なだれ込んで来た黒服6人は揃いも揃って銃を構えている。それらの者達の浮かべる鬼の形相を見れば、それが脅しで無い事くらい凡そ想像がつくものだ。
ところが支配人は見事なまでの食い下がりを見せたのである。
「はは~ん、そんなオモチャで俺を騙そうってか? ルームキーは絶対渡さんぞ。撃てるもんなら......」
プシュン! ビシッ!
兄貴の放った縦断が、見事カップラーメンに命中する。
「はい、どうぞ。これがルームキーです」
論より証拠......撃って見せるのが一番早い。支配人は借りてきた猫の如く大人しくなり、ラジャーと言わんばかりに、ルームキーの束を兄貴に手渡したのである。口ほどにも無い。
すると兄貴は満足気な表情を浮かべながら部下達の顔を見渡した。
「よし、お前はここでモニターを見張ってろ。あとの4人は俺に付いて来い!」
「「「了解!」」」
ロビーの壁には、各々の部屋の写真が掲げられ、それぞれに『使用中』ランプが密接している。このランプが点灯していれば現在『使用中』と言う事になるんだろう。
201『トロピカル』
202『サンセット』
203『な・ぎ・さ』
301『ポセイドン』
302『ドルフィン』
303『シュリンプ』
401『チャモロ』
402『マンタ』
403『若大将』
501『マーメイド』
全5フロアー10室。名前から察するに、全ての部屋が海をイメージした志向で統一されてるようだ。
中でも一番目を引く部屋が『マーメイド』。このホテルと同名なるその部屋は最上階(5階)に位置し、1泊4万円、休憩でも2万5千円と他の追随を許さぬ金額と豪華さを誇っていた。




