第7話 賓客
「美緒さん、だ、だれ?!」
「あたしに聞かないでよ。あなたの10分前位に起きたばかりなんだから。知る訳無いでしょう」
「そ、そうなんだ......」
すると再び、
トントン、トントン......
もう仕方が無いんで、
「ど、どうぞ」
返事をしてしまった次第。すると、
「失礼致します」
そんな声を静かに発しながら、入って来たのである。
見れば、雪のように真っ白な髪を綺麗に束ねた老婦人。正に西洋と東洋を足して2で割ったような顔立ちだ。
この地がそんな2文化の中間地点であることを考えると、きっとこの地で生まれ育ったご婦人なのだろう。
「お2人共......目を覚まされたのですね。心配したんですよ。このままお眠りになられたままだったらどうしようかと思いまして」
そんな彼女の装いは正に『女執事』。見た目も然ることながら、畏まった素振り、静かな物言いはその典型と言えた。きっとこの城に仕える勤勉な徒なのであろう。
そんな『執事』の応対を目の当たりにした美緒はと言うと、脳内コンピューターが正にフル回転を始めていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※
恐らく、記憶の薄れ方から想像すると、あたし達が帝工本社ビルで眠らされてから3~4程度は経過してるはず......
帝工本社ビルと言えば正に敵の心臓部。そんなところに侵入して眠らされたともなれば、良くても牢屋か密閉された地下室で監禁されてる筈だ。
ところがいざ目を覚まして見れば、待ち受けていたのは国賓級の歓待。しかもとてつもなく無く日本から離れた中央アジアときてる。
更に今執事が扉を開けて入って来た時に鍵を開けた形跡は無かった。つまりあたし達がこの部屋から出ようと思えばいつでも出れたってことになる。
まだ見えぬ敵は、一体あたし達に何をしようとしてるんだ? もしくは何を期待してるって言うんだ?
分からない......とにかく分からない。でも1つだけ分かってることが有る。それは摩耶さんだけはその答えを知ってるってことだ。
ただ今それを問い詰めたところで、素直に答えてくれるとは思って無い。それはさっき窓からの景色のことで聞いた時の惚け方を見れば明らかだ。
一番の良策......
今はただじっと推移を見守ること。どう考えたって今はそれしか無い......
※ ※ ※ ※ ※ ※
そんな結論に達した美緒ではあったのだが、
「あたし達、随分長く寝てたみたいですね。こんなに良くして頂いたお礼をご主人の方に申し上げたいんですけど。連れてって貰えますか?」
やはり性分がらじっとはしてられなかったらしい。
もちろん美緒は、この執事がそう簡単に口車に乗ってくれるなどとは思って無かった。99パーセントのダメ元で言ったに過ぎない。
ところがどっこい、
「承知致しました。それでは間も無く夕食となりますのでご準備下さい。セルゲイ様もきっとお喜びになられるでしょう」
「セルゲイ様?」
「はい、こちら『ヴォズロデニア城』の城主になります。お2人がお目覚めになられるのを3日間ずっとお待ちになられてました」
「3日間......そうですか」
互いに顔を見合わせる美緒と摩耶だった。どうやらそんな長い時間、2人して眠り続けてたらしい。未だに頭が少しボ~としてる理由も頷ける。
「それと夕食の準備って、あたし達は何すればいいのかしら?」
由緒ある城・夕食と聞いて、嫌な予感しかしないネグリジェ美緒が恐る恐る聞いてみた。
「そのような格好で夕食に来られたりしたら、セルゲイ様が悲しみますので。この後直ぐに従者を来させます。その者達にお任せ頂ければ結構ですよ。それでは一旦私は失礼致します。夕食の準備が有りますので」
ギー、バタン。
言うべきことを言い終えると、あっさり消えてしまう女執事だった。
すると、シ~ン......再び2人だけとなったゴージャスゲストルームに突然なる沈黙が訪れる。
2人して開いた口が塞がらない......正にそんな表情を浮かべていた。
無理も無い。それまで死闘を繰り広げてた戦闘マシーンが、いきなりリッチなお姫様になってしまった訳なのだから。




