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10話 収穫祭前日

今回は少し短いです。

 あれから、約二ヶ月と半月。少し前に大地神の月に入り、もうすぐ収穫祭を迎えようとしていた。


「んー、疲れた!」


「ほらほら、休んでいる暇があったら手を動かしてよ」


「セレン、後少しだから頑張ろうぜ」


 今、僕達は収穫祭の準備をしている。収穫祭は年に一度、作物を無事に大量収穫した時に開く祭りだ。

 今年は色々とあり、前年度と比べると収穫量は減ってしまったがが、正直な所、収穫量が多いとか無事に収穫できたとかは余り関係していない。村の人々が祭りを開きたいがためについている建前に過ぎないのだ。

 確かに収穫量が減ったりした場合は残念がる所もあるけど、それも祭りを開く事に比べたらどうでもいいらしい。


 でも建前も大事なので、大地神に感謝の意を表すための会場を毎年作っている。そして今僕達が担当しているのも、その会場だ。


「いやいや、エレイナ姉さんとルーイ兄さんは体力が別次元だから…」


 最近のルーイ兄さんは、前と比べると体力が増えてきている。それもケイオスおじさんの剣を教えて貰っているからだろう。エレイナ姉さんは前から畑の仕事をなんやかんや手伝っているから前からあるし……。

 あれ?もしかして僕だけ体力無い?いやいや、つい先日6歳になった僕だよ?

 先日僕は6歳の誕生日を迎えた。それで更に強くなったはずだったのに、どうやら差は縮まる所か広がっていたらしい。

 考えたら年の差で当たり前の事なんだけどね。


 さてと、準備を再開しますか。

 このまま休んでサボりたい気持ちもあるけど、それでは後でエレイナ姉さんに何を言われるか分からない。

 あの人、子供だろうが容赦はしないからな。


「そいえばさ、今年は大丈夫なのかな。年貢の事」


「さあねぇ、確かに今年は量は減っているけど、あれって確か収穫量によって納める量が変わるんでしょ?ルーイは何か聞いている?」


「じいちゃんは確か、今年も増えるかもと言ってたなぁ」


「それだと納める量が決まっているみたいだね」


「さあ、詳しい事は聞いてないから分からないな」


「それよりも体を動かしなさい。セレン、ルーイ」


 エレイナ姉さんに叱られ、年貢の話を終わらせると、止まっていた作業を再開する。夕方になる頃には担当部分の会場は作り終わり、村長に伝えると帰宅して良いと言われたので家に帰る。

 家の中には誰も居なく、1人の時間が訪れる。


 久々に魔法の習得でも狙ってみようかな。


 最近は忙しかったりで疎かになってしまった魔法の習得。

 そのかわり最近は魔法を見る機会もあったため、前回と比べると習得出来る可能性は高くなったといえよう。


 さて、と。

 まずは、魔力を感じる所から。


「うぉぉぉおおおお!!!!」


 力を込めて、体から魔力を感じようとする。


 …………。


 何も、感じない。


「うーん、やっぱりこれじゃ駄目なのかな」


 前々から思ってはいた。魔力とは魔法の力という意味で実際に力を込める必要はないんじゃないかと。


 そうと決まれば力を抜こう。そして、自然と一体化するのだ。


 …………。


 何も、感じない。


 いやさぁ、そろそろ一歩前に進もうよ。6年だよ、6年!

 生まれてからずっと、魔法を使おうとして、魔力を感じようと独学でやってきた。だけど、どれも成果を上げることはなかった。

 お母さんから教えてもらえば1発で原理は分かるだろう。だけどお母さんは危険だからと教えてはくれない。

 エレイナ姉さんは論外だ。あの人天才型だからブワッとして、ギュオオオっとする。しか教えてくれなかった。それでいて、分かるでしょ?という目で見てくる。そんな目で見られたら分からないとは言えなかった。


「今日はこれぐらいにしといてやろう」


 魔力に対してなにが、今日はこれぐらいにしといてやろうだよ。

 だけど、こうしてやっていないと、恥ずかしくてやっていられないのだ。


「暇だな」


 外を見ると、まだ夕方でそんなに時間が経っていないのが分かる。お母さんと父さんが帰ってくるにはまだ時間がかかるだろう。帰ってくるまでの時間、どうやって有効に使うか考えなくてはならない。


 普段、誰かがいると出来ない事をしたい。


 そうだ、日記でも書こうかな。それも日本語で。

 紙は高級品ではない。確かに高品質のは高級品だが、最低品質だと一般人でも簡単に手に入るほど安い。

 街に行く時に、お母さんがよく買っているので分かる。


 今回使うのは、5歳の時に買ってくれた紙の束を使う。

 内容は、異世界に転生してからの事を書く。

 覚えている限り、出来るだけ。


 もしも、後世に日本から転生してきた人が居たら、この日記を見てどう思うのだろうか。もしかしたら驚くかもしれない。自分以外にも転生した人が居たのかって。


 まあ、この品質が低い紙ではそこまで長い間は残らず、朽ちてしまうだろうけど。

 それでも書く。自分が誰だか、何処から来たのかを忘れない様にする為に。


 実のところ、最近、日本の頃の記憶が薄れてしまっている所がある。それに地球という星がある世界は、自分が勝手に存在していると思っているだけで、本当は存在していないんじゃないかと思う事もある。

 長い間、暑い場所にいると暑さに順応するのと同じだ。

 転生してからこの世界にいたから、順応してきたのであろう。

 自分が死にそうになった時は怖かったが、魔物が、生物が殺されるのを見ても大丈夫になった。大きな怪我をするのも、見るのも慣れた。

 そして、元の世界と触れ合う機会が無くなった。その為、元の世界での記憶や感覚が薄れていったのであろう。

 新しい世界での記憶や感覚を受け入れる場所を作る為に。


 それに気づいた時は怖かった、その日は眠れなかった。

 だけど、どうしようもない事に気づいた。

 ならどうすればいいのか。せめて忘れない様に自分の事を何かで残す事しかない。それが日記だ。

 日本語で書いたのもそれが理由。もし、この日記が読めなくなった時は、自分が日本語を忘れたという事が分かる。


 もしも誰かがこの日記を見たらどう思うか。

 研究者であれば、謎の言語で書いてあるから興奮するかもしれない。未知の言語を知る事が出来ると。

 しかし、村の人の誰かがこの日記を見たらどう思うか。まず不思議に思うだろう。知らない言語で書いてある事に。

 そして、書いた僕を奇異な目で見るかもしれない。それだけならいいが、お母さんと父さんも奇異な目で見られるかもしれない。

 それは耐えられない。

 だからこの日記は誰も居ない時にしか書けないし、見れない。


 覚えている限りの事を書くと、紙の束を閉じる。50枚以上ある内の22枚が埋まった。半分近くも書けた。

 既に外は暗くなっており、いつお母さんと父さんが帰ってもおかしくない時間帯になっていた。

 急いで紙を閉じ、箪笥に入れると、家の前でお母さんと父さんが帰ってくるのを待つのだった。

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