11話 収穫祭
「セレン、起きなさい」
お母さんが僕を揺すり起こす。まだ日は登ったばかりで眠いが、眠気を振り絞りベッドから出る。
「朝ご飯はもう出来てるから早く食べちゃいなさい」
「はーい」
顔を洗い席につく。今日の朝ご飯はパンとお肉が入ったスープだ。
美味しかった。
ご飯を食べ終わると、動きやすい服に着替える。とは言っても服なんて必要最低分しか持っていないのだが。
外に出ると、村の住人の殆どが既に外に出ていた。
「おはよう、セレンちゃん」
「おはようございます」
普段は余り会話をしない人達とも今日は会話する。それ程今日は、皆にとって特別な日なのだ。
さて、このまま会話を楽しむのもいいが、それは出来ない。昨日の夕方、別れる時にルーイ兄さんと祭りを楽しむ約束をしたからだ。
エレイナ姉さん?農家の娘という事で今日は忙しいから、一緒に楽しむ事は出来ない。
このままだらだら過ごしたい気持ちを抑えて、ルーイ兄さんがいる村長の家へと行く。
ドンドンッ!
「ルーイ兄さん起きてるー?」
ケイオスおじさんが出て、家に入る事が出来た僕は、ルーイ兄さんの部屋のドアを叩き、ルーイ兄さんが起きているか確認する。
流石にノック無しで入る事はしない。常識は弁えているのだ。
まあその代わりに、少しだけ強めのノックをさせて貰ったけど。
「起きていないなら入るよー!」
次はトントンッ!と優しめのノックをして、起きているかを再度確認する。
「入るよー、入っちゃうよー」
そ〜っと扉を開けながらそんな事を言って部屋に入る。決して、侵入ではない。先に言っていたからセーフだ、セーフ。
部屋の中に入ると、そこは如何にも男の子の部屋という部屋が広がっていた。壁には木剣、恐らく練習用の剣だろう。それに、手作りだと思われる木の盾や剣が沢山置いてあった。
そして、その沢山の物の中にあるベッドの上にルーイ兄さんは寝ていた。
「もうお前に俺は倒せねえ」
いや主人公かよ。どう見てもそれ、一回やられてから復活した主人公が敵にいうセリフだよね。
……っと、そんな事より起こさなきゃ。
「おーい、起きてよルーイ兄さんー」
ゆさゆさと体を揺さぶりながら起こしてみる。
「俺の必殺技をくらえ!ルーイスラッシュ!!」
駄目だ、完全に夢の中に入っている。全然起きる気配がない。
そしてネーミングセンスが酷すぎる。もう少し、カッコイイ技名はあるでしょ!
例えば、例えば……。ごめん何も思いつかなかった。
流石に乱暴には起こしたくない。これでも友達だ。だから部屋の中の物で遊びながら起きるのを待つことにしよう。
「んっ……?あれ、セレン?」
あっ、起きた。
遊んでいた積み木を床に置く。後少しで完成しそうだった城は、上部にぽっかりと穴が空いており、何とも言えない寂しさを漂わせていた。
「おはようルーイ兄さん」
「おはよう、そして何で部屋にいるの?」
「家にはケイオスおじさんが、部屋には入る前に聞いたよ」
「えっ?俺入っていいよって言ってた?」
「いや、言ってないけど、返事しなかったから何かあったんじゃないかと心配して…」
まあ、嘘だけど。
「そうか、何かありがとな」
「どういたしまして」
ルーイ兄さんは、着替えてから行くから先に下で待っていてくれと言い、顔を洗いに行ってしまった。僕は下でルーイ兄さんが来るのを待つことにする。
ルーイ兄さんは着替えて下の階に来ると、朝ご飯を取り始めた。
パンとこちらもお肉入りのスープ。それに、サラダにチーズもついている、健康的な食事だ。
流石は村長の孫。我が家の食事より豪華だ。
街に行くともっと豪華で色んな料理はあるが、村にいるとパンと野菜スープの二つが食卓に並ぶことが多い。簡単で、材料が少なく作れる料理だからだ。ちなみにお肉は、村の戦士が取ってくるか、月に二度の街に買い出しの時にしか食べる事は殆どない。
「悪い、待たせた」
「んーん、大丈夫だから急ごう!」
ルーイ兄さんは朝ご飯を食べ終わるとトイレに行き、出掛ける準備を整えた。そして、収穫祭に参加する為に家を出る。
収穫祭、この村では朝早く起きて農家の指導の下、作物を回収する。その後、収穫した作物を使い、料理を作り参加者に賄う。
そして最後に大地神に供物を捧げ、来年も無事に作物を収穫できる事を祈る。
ルーイ兄さんがいつも通りの時間に起きたから、もう収穫は始まっているだろう。収穫が終わる前までに着かないと、ケールおばさんの料理が食べれないため少し急いで、エレイナ姉さんの居る場所に向かう。
まだ作物は少しは残っているようで、参加表に名前を書き参加する。
「遅いわよー、もう直ぐ終わっちゃうわよ」
「ごめん、ルーイ兄さんがなかなか起きなくて」
「それはさっき謝っただろ」
「はいはい、じゃあ後少ししか残ってないし、残りは2人でよろしくね」
「「はーい」」
残っている場所は畑の端っこで、数十分も掛からずに終わるだろう。この畑で作っているのはキャベツだった。
正式名称は、レインキャベツ。
水魔法の水か、魔力がこもった水を使うことで出来る特殊なキャベツで、普通のキャベツよりも魔物の肉と相性がいい。
もちろん普通に食べても美味しい。
球の部分を手で横方向に押して株元をナイフで切る。これがキャベツの収穫方法だ。
難しくはないので、ルーイ兄さんと手分けをして収穫する。
「疲れた……」
22個も収穫する事が出来た。取れたレインキャベツをエレイナ姉さんが持ってきた大きな籠に入れて報告をする。
「エレイナ姉さん終わったよー」
「お疲れ様、収穫した量はどれ位?」
「22玉取れたよ」
「そっか。と言うことはルーイもそれぐらいの量かしら」
エレイナ姉さんが渡してくれた水を飲みながら、ルーイ兄さんの帰りを待つ。ルーイ兄さんは少しすると戻ってきた。
「ふう、やっと終わった」
「お疲れ様、収穫した数は何玉?」
「お疲れー」
「30玉だったぞ」
「へー、そんなに」
「あっ、ルーイ兄さん水飲む?」
「じゃあ飲もうかな」
ルーイ兄さんは、さっきまで僕が飲んでいた水袋に遠慮なく口を付けて水を飲む。
この世界、関節キスで騒ぐ事などあまり無いが、少しは焦って欲しいものだ。決して、僕がルーイ兄さんの事を好きという訳では無いのだが、流石にここまで自然に関節キスをされると、きゃー、関節キスだー!とか言おうとしていたこっちが恥ずかしくなる。
さて、と。恐らくだが、収穫はもう終わっただろう。となれば、お昼ご飯の時間だ。
ケールおばさんが作る料理は美味しく、僕も初めて食べた時は驚いた。ミ〇ュランに載っているお店にも負けないほどの美味しさだったのだ。
お母さんの料理が決して不味いわけじゃない。
お母さんの料理も美味しかったが、ケールおばさんは格が違ったっていう所だろう。
そんな美味しい料理が食べれるのだ。喜ばない方が難しい。
お昼が早く来ないかなと太陽を見上げるが、まだ頂点には登ってなく10時ぐらいである事が分かる。
うう、この微妙な残り時間、どうしようか。
エレイナ姉さんはまだ仕事が残っているため、別れるとルーイ兄さんと2人きりになる。ルーイ兄さんもどうやらケールおばさんの料理の事を考えていたようで、太陽を見上げていた。
「ルーイ兄さん、残りの時間どうやって過ごそうか……」
「そうだな、父さんやカストルおじさんに何か魔物は取れなかったか聞いてみるか?場合によっちゃ、お昼の料理が増えるかもしれないし」
「そうだね、そうしよう」
ケールおばさんが作る料理が増える事に期待して、父さんとケイオスおじさんの所に向かう事にする。
父さんとケイオスおじさんは祭りっていう事もあり、村の兵士、警備隊として魔物の様子を朝から探りに行っていた筈だ。
時間的にそろそろ戻ってくるので、何か取れていたら教えてくれる筈。
村の入口に着くと、警備隊の人が居た。
しかし、父さんとケイオスおじさんの姿は見当たらなかったため、その警備隊の人に話を聞くことにする。
「あの、すみません」
「なんだい?」
「父さんと、ケイオスおじさんは今どこにいるか知っていますか?」
「あぁ、カストルさんとケイオスさんはまだ村の外で魔物がいないか警戒していると思うよ」
「そうですか、ありがとうございます」
「何か伝えたい事でもあったのかい?もし良かったら伝えるけど」
「いえいえ、大丈夫です。何処にいるのかなっと気になっただけで!」
「そうか、もし何か伝えたい事が会ったら、伝えてきてあげるからその時は言ってね」
「はい、その時はよろしくお願いします!」
「そうかまだ戻ってきてないのか…」
ルーイ兄さんは、少し落ち込んだ様子に見える。
きっと、このままだと調理に間に合わないから落ち込んでいるんだろう。僕も同じだ。出来れば、捕れたてのワイルドボアのお肉を食べたかった。
保管してあるワイルドボアのお肉も美味しいのだが、捕れたてのだと脂が乗っていて更に美味しい。それに、単純にお肉の量も増えるから捕まえてきて欲しかった。
このまま父さん達が帰ってくるのを待つのもいいが、それだと賄いを食べるのに遅れてしまうかもしれない。そしたら、余った時のお代わりに間に合わない。
父さん達には悪いが、ここで待っている訳にはいかないのだ。
どうやったらお代わり出来る可能性が高いかを模索する。そして、一つの方法が思い浮かぶ。それは、賄いの調理を手伝うというものだ。
一番近い場所で待機する事になるため、最初に料理が貰える可能性が高い。それにお代わりは出来なくても優しいケールおばさんなら内緒で味見とかさせてくれるかもしれない。
そうと決まれば善は急げだ。ルーイ兄さんにも説明をすると、その足で急いでケールおばさんが調理している天幕へと行くのであった。
しかし、付いた時には時すでに遅し。今年は何時もより賄いを配る予定だったらしい。既に料理は配り始めていた所だった。
「嘘でしょ……」
「嘘だろ……」
思わずがっくりと、膝から崩れ落ちる。もし、父さんとケイオスおじさんの様子を見に行ってなければ、もっと早く並べて食べれていただろう。しかし欲をかいて、もっと料理増えないかなと思ったから起きた事故。これは辛い。
お互い、とぼとぼとした足取りで賄いを貰いに列へと並ぶ。
並び始めてしばらく、列が進み僕の番となる。
「お願いします」
並ぶ時に受け取ったトレーを渡し、料理を受け取る。
「どうしたんだい、元気ないね」
ケールおばさんは、未だに落ち込んでいる僕とルーイ兄さんを見て、心配そうな顔を浮かべる。
「ちょっとだけ特別だよ」
そして、トレーにはお肉が多めに入ったお皿と野菜たっぷりのサラダが置かれた。
それを受け取り、用意された簡易テーブルに行こうとするが、他の人よりも少し多めに乗せられたお肉を見て、僕は思わず足を止める。
お肉が……多め?
ケールおばさんの顔を見ると、ナイショだよと指を口元に持っていきウィンクをする。
「……ありがとうございます!」
勝手にこっちが落ち込んだだけなのに、多めによそってくれたケールおばさんに感謝し、先程まで重かった足取りを軽いものに変えてスキップしそうな勢いでテーブルに向かう。
流石にスキップはコケそうなのでしないが。
その後ろでは、ルーイ兄さんも同じように元気になっている姿が見えた。
いやー、美味しかったです。もう元気になりました。
あの後、結局お代わり分は出なかった。だけど他の人よりも多くお肉を食べれたので問題ない。
お昼の賄いを食べた後は暫く暇になる。
大地神に供物を捧げるのをするのは、夕方からだからだ。
トレーを返すと、それまでの時間何して過ごすかを考えるが、余りいい案は浮かばない。
いや、一つはあった。ケールおばさんの手伝いをする事だ。
先程の欲望をさらけ出したやつではない。純粋に手伝いをするだけだ。勝手に落ちこんだだけなのに、お肉を増やしてくれたケールおばさん。その恩を返そうという訳だ。
ルーイ兄さんは薄情者だから何処かに行ってしまったが、まあいい。1人でも手伝えば、ケールおばさんも少しは楽になるはず。
「ケールおばさん、何か手伝う事はありますか?」
「そうだね、皿洗いを手伝ってもらえるかい?」
「はーい!」
手伝いに辿り着く事には成功した。
そして、皿洗いか……。前の世界なら、洗剤で油汚れも簡単に取れたが、流石にこっちには洗剤はないので、油を落とすのが難しくなっている。
スポンジに水をつけお皿を手に取る。お皿をスポンジで洗うと、汚れは全然落ちずにへばりつく。うーん、流石に簡単には落ちないか。
力を込めて洗うと何とか油汚れは落ちた。
ようやく1枚目のお皿が洗い終わった。横を見るとまだ沢山のお皿が置いてある。
手伝うの、早まったかなぁ。
残りのお皿を見て、少し憂鬱な気持ちになりながらも皿洗いを再開する。
どのくらいの時間が経ったであろうか、気がつくと既に夕方になっている。
左を見ると何も無いが、右側には洗い終わったお皿が沢山置いてある。
終わったぁぁぁああああ!
長く、辛く苦しい戦いだった。限界まで力を込めたため、腕はパンパンになっており、動かすのもしんどい。
「お疲れ様、手伝ってくれてありがとうね」
ケールおばさんからその言葉をいただくと、もう直ぐ始まる収穫祭最後のイベント会場へと行く。
会場では既に村人が数10人集まっており、エレイナ姉さんとルーイ兄さんの姿もあった。
「遅かったわね、セレン」
「そうだぞ、もう始まるぞ。……まぁ出来れば空気を読んで欲しかったけど」
後半は小さな声で喋っていたが僕には聞こえたぞ。
悪かったね、空気読めない子で。
会場の大地神に捧げる供物を置く祭壇には、村長とスコットおじさん、他の農家の人達4人が居る。
村長は、それぞれの農家の人達から作物を授かると、大地神に感謝の意を唱え始める。
「大地神様、貴方様のお陰で今年も作物を無事に収穫する事が出来ました。そしてこれが収穫された作物です。どうかお納め下さい」
作物を祭壇に捧げると、今度は農家の人達が、それぞれ持ってきた作物の口上を述べる。
1人、また1人と終わり、最後にもう一度村長が喋る。
「大地神様の恵みを得られる様に、これからも我々一同精進いたします。そしてどうか、来年も我らをお守りください」
村長がまず一礼をし、続いて農家の人達、最後に見ている僕達も一礼をする。
「はー、終わった、終わったー!」
「そうね、ようやく終わったわね」
ルーイ兄さんが腕を上げて伸びをしながら、エレイナ姉さんは暫くの間、家の手伝いが減るわ。と喜びならそれぞれ自宅へと帰っていく。
このあと、捧げられた供物は村長の家で食べられる事になっている。
村長曰く、大地神は旨みだけを取っていくとの事。
そして、旨みが抜けた野菜は食べないで腐らせるより、食べた方が無駄にならず大地神も喜ぶそうだ。
よくは分からないが、まあ食べ物を無駄にしないならそれに越した事はない。
家に着くと、既に父さんが帰ってきていた。どうやら夕方の前には仕事は終わっていたらしく、最後の一礼の時も参加していたらしい。
全然気が付かなかった。何時もだったら目立つから分かるのにな……。
それにお母さんは、今日は暇だったらしく、夜ご飯を作るのに気合が入っていた。
収穫祭は終わった。数日後、街からやって来る税務職員に収穫量のデータを見せて、年貢を納める事になる。
もし嘘を吐いたら、見せしめで殺されるという事は無いが、嘘を吐いた村長と他数人は捕まるだろう。
そして納める量が足りなければ、代用品で納める事になる。
この村には他に納める物は無いが、今まで足りなかった事はないから今年もきっと大丈夫だろう。
ベッドに入るとやはり疲れていたのか、直ぐに深い眠りへと入るのであった。
次回→未定




