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9話 馴れ初め

 あれから1日、今やすっかり元に戻った親子の関係。いや寧ろ更に良くなった様な気がする。会話が増えただけでなく、挨拶のキスもするようになった。

 まあ僕からは恥ずかしいので出来ていないんだが……。


「村長、先日は花畑の場所を教えてくれてありがとうございました」


「気にするでない。それよりもどうじゃった?上手くいったか?」


 どうやら村長は僕が気持ちを伝えたかどうかの方が気になるらしい。


「もちろん、上手く行きました!」


「そうかそうか。良かったのぅ」


 村長は、伝えたい事を伝えられた孫を見るかのように優しい手つきで頭を撫でる。


「今日来たのは、それを報告しに来たからかの?」


「それもありますが、前から聞きたいことがあったんです。父さんとお母さんの馴れ初めの事についてなんですけど」


「カストルとファノンの馴れ初めか?」

 

「はい」


「本人達から聞けばいいものを何でわしに……」


「いや何か恥ずかしいじゃないですか。それに聞いたは聞いたんですけど、何というか二人だけの世界に入っちゃって…」


「カッカッカッ、そういう事か。わしも詳しくは知らないが、それでもいいなら話すとしよう。あれは今から12年程前だったか、カストルがまだ冒険者をやっていた頃の話じゃ」


 ☆☆☆


「くそ!何でこんな事に!!」


 簡単な依頼だったはずだった。それなのに、どうしてこうなった。


 俺たち緋色の盃(ヒイロのサカズキ)は、小さな村から出てきた田舎者冒険者チームだったが、実力はあり、期待の新人冒険者チームとして見られていた。


 そして今回も簡単な依頼な筈だったんだ。ゴブリンの群れの討伐。アイアン級冒険者チームに依頼される筈の依頼を昇級試験として受けさせてもらえた。

 確かに最初はアイアン級の冒険者が受けるという依頼で緊張はしたが、ゴブリンだと知ると緊張は直ぐに解れた。ゴブリンは有害級の魔物で、何度も戦った事があるからだ。例えそれが群れようとも俺たち3人なら簡単に倒せると踏んだ。だが今思えば、何でこれが昇級試験に選ばれたのか分かる気がする。


「くそっ!…っ、はあ…はあ……」


 そして、依頼は失敗に終わった。最初は緋色の盃の副リーダーであるダストが死んだ。ダストは魔法使いで、中衛を担当していた。ゴブリンの群れを探している最中に矢が飛んで来て頭に命中。即死だった。残った俺と、メンバーであるオルトラは慌てて警戒し周りを見るが、矢を撃ったゴブリンであろう気配以外は感じない。


 それならばとダストが殺された怒りをぶつけに、警戒をといてゴブリンの元へ走って向かう。結論から言えばそれが失敗だったと言える。もしもダストが殺された時、直ぐに帰っていればオルトラは死ななかっただろう。

 仲間を見殺しにして依頼を失敗した冒険者という称号は残るだろうが。


 そして、ゴブリンの元に着いた時目を疑った。なんとゴブリンと思っていたゴブリンはただのゴブリンではなく上位種、ホブゴブリンだったのだ。そして、周りには数十匹のゴブリン達が棍棒やボロボロの剣を持っていた。


 こいつらはやばい!早く逃げて組合長に伝えないと!!


「おい、オルトラ逃げ…「ピシュッ!」」


 えっ……?


 風切り音が聞こえ、オルトラの方を振り返ると、オルトラの頭が無くなっていた。まだメイジゴブリンが隠れていたのである。


「うっ、うわあぁぁあぁぁ!!!」


 全速力で走り出した。幸いなことにゴブリンはまだ後ろには回っておらず、開いている場所から全力で逃げ出した。後ろから魔法が飛んでくる音や弓を撃った風切り音が聞こえても、止まらずに走った。それが功を成したんだろう、俺は何とか逃げ延びることには成功していた。

 だけど今まで一緒に過ごした友人を二人も失い俺の心は、自信は完全に折れた。


 街に戻ろう。ふらふらとした足取りで依頼失敗の報告と、仲間の無念を伝える為に来た道を戻ろうとするが、また問題が発生した。


「ここ何処だ?」


 無我夢中で逃げてしまったため、来た道が分からず、今現在何処にいるのかもわからない状況だった。


「取り敢えず、近くの街道でも探すか」


 近くの街道を探しに歩き出す。逃げる途中に荷物も殆ど落としてしまい、持っているのは黒鋼の短刀のみという不安な状況。だがこのままここにいるとそれこそ喉が乾き、腹が飢えて死ぬだろう。

 腐っていても冒険者。心こそ折れはしたが、その持ち前の決断力で南へと歩き出した。


 歩き始めて7日。ここまでの道中で街道らしきものは見ておらず、魔境へと向かっているんじゃないかと錯覚する。

 これまでは魔物を倒して料理することで、食事を済ましていたが、それも遂には体力の限界を迎えていた。

 目の前にはコボルトが3匹いる。しかし、武器を構えようにも疲弊しきった体では何も出来ない。後はじっと目を閉じコボルトに殺されるのを待つのみだった。


 あぁ、ここまでか……。


「ウォーターショット!!」


「ギャンッ!」


「大丈夫ですか?」


 女性の声が聞こえ、次に何かの悲鳴が上がる。目を開けると、そこには銀髪碧眼の美しい女性がこちらを心配そうに見ていた。


「天使……?」


 なんとかそれだけを呟くと、体力が限界をつげ意識を落とした。



「んっ、ここは?」


 目が覚めると、知らないベッドで横になっていた。


「俺は、死んだはずじゃ?」


 あの時確かに俺は天使の姿を見て死んだ。なのに生きている?なんの冗談だ。


 ベッドから起き上がり部屋を見渡す。特におかしな点はないが、少しばかり質素にも感じる。まあ今どき贅沢をして暮らす人など貴族ぐらいなものか。


 部屋を出るとリビングがあり、三人分の机と椅子がある。そしてそこには、天使が眠っていた。


「あっ」


 貴女が助けてくれてたんですか?と声を掛けようとするが、眠っているのを起こすのは気が引ける。だが、俺をベッドに寝かして自分は机で寝ていたのは事実だろう。せめてものとベッドの上に運ぶ。

 持ち上げる時に少しだけ無茶な体勢をしたが、天使は起きる事は無く、それどころか、すぴゅーと可愛い寝息をたててぐっすりと眠っている。ベッドの上に運び終わると今度は椅子に座り、天使が起きるのを待ち続けるのだった。


「あの、生きてますか?」


 誰かが肩を揺すっている。肩を揺すっている人物を確認すると天使だった。


「あっ、天使さん起きたんですか!」


「天使、ですか?」


「あれ?違うんですか?」


「違いますけど」


「本当に?」


「違います」


「…………」


「………………」


「あの、助けてくださりありがとうございました」

 

「イエイエ、キニシナクテイインデスヨー」


 視線が痛い、確かに助けてもらった人に対して天使呼びをするのはどうかなとは俺も思った。仮にも恩人に対しての態度ではないな。


「すみません、天使さんなんて言ってしまって。あの俺カストルって言います、お名前をお聞きしてもよろしいですか?」


「私はファノンって言いますよ、カストルさん」


 どうやらはぐらかす事に成功したらしい。少し機嫌は良くなった気がする。そして聞きたかった事を聞く。


「失礼ですけど、ここって一体何処なんでしょうか」


「ここは私の家ですよ」


「いやそうじゃなくてですね、ここの場所を聞きたいんですが」


「そうですね私の家です」


「あー、いや大丈夫です。わざわざファノンさんのお家まで運んで頂きありがとうございます」


「どういたしまして」


 やばい、この子もしかしなくても天然入っているのかも。


「あ、あと一つ聞きたいんですけど、冒険者組合って何処にありますかね」


「冒険者組合はないですよ、ここ小さな村ですし」


「えっと、じゃあここから1番近い街って何処にありますかね?」


「一つって言ってましたよね?」


「えっ?いや…「それに、今日はもう遅いです。夜ご飯を作りますのでそこで待っていて下さい」


 ファノンさんは夜ご飯を作りに行ってしまった。

 どうする、明日街の場所を聞いて街に行くか?だが食料や飲み水が無い。村の中を探せば店はあるかもしれないが可能性は低い。そもそも街ならばともかく、村で店をやっている人は殆どいないだろう。

 それにもし店があったとしても、今の俺には払えるお金もない。短刀を売る?そんなの論外だ。これは、故郷から飛び出してきた際に持ってきた唯一の物だ。簡単には売れない。それに武器が無いと、街までの道のりが危険すぎるからな。


「お待たせしました」


「あぁ、ありがとうございます」


 ファノンさんが持ってきたのは野菜スープとパンだった。7日間、魔物の肉で何とか過ごしてきた俺にとっては、ご馳走だった。

 いや、普通に考えたら魔物の肉を食べる方が贅沢だ。だけど、俺は料理をする火を付ける時間が勿体無かったため生で食べていた。物凄く不味かった。


「凄く、美味しい」


「ふふ、ありがとう」



 翌朝、目が覚めるとまたベッドの上にいた。だけど前回と違う点もある。ファノンさんが隣にいる事だ。


 いや、待って?何で隣にいるの?確かにここはファノンさんの家で、ファノンさんが全てに置いての優先権を持っていると思うけど、昨日確かに「他にもベッドはあるから大丈夫」と言ってなかったけ?


 まあ、取り敢えずここから出よう。そして、床で寝てた事にしよう。そうしよう。


「んっ、おはよう」


 最悪だ。終わった、俺の人生終わった。

 考えても見ろよ、助けてもらった恩人の家に泊めてもらっておいて、朝起きたらベッドで一緒に寝てんだぜ?そんなん、ヤバイやつだろ。せめてもの抵抗で土下座をしよう。


「どうしたの?大丈夫?」


 心配そうな顔で見られる。これは本気で心配している顔だ。こんな顔を見たら土下座なんて生ぬるい。土下座以上の謝罪をするしかない!


「申し訳ございませんでしたぁ!!!」


 綺麗な土下座をする。そして謝罪の言葉を口にした後、地面にめり込む勢いで頭を床に打ち付ける。


 数秒、もしくは数十秒たった辺りだろうか、何も言わないファノンさんにこれだけでは足りなかったかと感じて顔を上げる。すると、そこにはあわあわしているファノンさんの姿があった。


 話を聞くと、どうやらファノンさんがいつもの癖で寝に来てしまったらしい。いつもの癖、それはつまりいつもはここで寝ているという事他ならない。

 どちらにせよ、アウトじゃねえかよ!


「どちらにせよ一緒に寝たのは事実です。申し訳ありません」


「いやいや、私が来ちゃったんだからカストルさんは悪くないよ」


 気まずい……。

 俺も彼女も目を合わせようとしないのが分かる。それからどれくらい経ったか、ファノンさんは突然「あっ私、朝ごはん作ってくる!」と言い部屋を去ってしまう。そして、気まずい雰囲気のまま朝ごはんをご馳走になるのだった。


「あの、ありがとうございました。助けてもらっただけじゃなく荷物も貰えるなんて」


 あの後、ファノンさんに街に行きたい事を相談をすると、問題はあっさりと解決した。どうやらここから北に進むと、小さいが街があるとのこと。それに荷物に関しても用意して貰えた。しかも、お返しは何も要らないと言うのだから本当に天使なんじゃないかと思う。


「困った時はお互い様ですし、私も助けてもらえましたからね」


「俺が助けた、ですか?」


「気にしなくていいんですよ」


「はあ」


 俺がファノンさんを助けた所なんて思い浮かばないが、きっとファノンさんがそう言っているから間違いないのだろう。もし力になれていたのならそれは嬉しいな。


「それよりも、行かなくていいんですか?余り長居していると夜遅く着くことになりますよ」


「あぁ、そうですね。それではまたいつか」


「ええ、またいつか」


「「会いましょう」」


 ☆☆☆


「とまあこんな感じじゃったな」


 ツッコミどころ満載だよ!

 なにが天使だよ!なにがまた会いましょうだよ!ドラマかよ!!というかドラマ。それに何最後別れちゃってんの?どうやって再開したの?そっちの方が気になるよ!

 そして村長はなんで知ってんのそんな事。いや聞いたのは僕だけど、どうやって知ったのかそこからまず話を聞きたい。


 でも取り敢えず今一番聞きたいことは。


「あの、村長」


「なんじゃ?」


「お母さんの口調が所々変わっているのは置いときます。それでも気になるのがあって…。お母さんは父さんに何を助けられたのでしょうか?」


「確かあの時はファノンの両親が殺されてな、一番心が不安定になっていた時期だったんじゃよ。」


「おじいちゃんとおばあちゃんがですか?」


「あぁ、それで自暴自棄になりかけてた時にたまたま助けたのが、カストルだったんじゃ。一目惚れだったらしい。口調が変わったのは好きな人が出来て、いい子の振りをしなくて良くなったからで、ついでに言うと天然アピールも演技じゃぞ」


 天然も演技だったんですか……。恐ろしい、だが納得した。

 お母さんは大切な人、特に家族という存在が消えるのがどれだけ恐ろしく悲しいものなのかを知っている。

 あの日、僕が怪我をして帰ってきた時、お母さんは凄い怒った。家族を失うとどんな気持ちになるか、残された方の気持ちをよく考えなさい。

 この、特に家族という部分を強調して叱った。

 悪い方向へ行っていたら僕は死んでいた。そしたら、お母さんと父さんは死んだ僕を見て何を思うのか。

 これは想像でしかないが、きっと後悔するだろう。あの時自分は何をしていた、何故自分の子の非常時に気がつけなかったのだ、と。何度も何度も悔やんで、それでも悔やみきれなくて後悔する。

 甘かった。僕はちゃんと怒られる理由も理解してそれでいて受け入れたつもりだった。だけど僕は身近な人の死を見た事は無い。お母さんは、僕が死んだ時に父さんがどんな思いをするかをちゃんと理解して、それで怒ったんだ。自分以外の周りの事も考えなさいと。


「子供だな、僕…」


「何か言ったか?」


「いや、何でもないです」


 改めて知る。自分は見た目だけではなく、心まで子供なのだと。そしてきっとこれから先、この世界でどうやって大人に成長していくのかを学んでいくのだろう。今日の日の事を忘れずに。

話を無理矢理進めるために打ち切り感は出てますけど、まだまだ終わりません。始まったばかりです。

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