8話 300年前の記録
今から約300年前、とある大陸が消滅した。
確認されている中で最も科学に秀でた世界、テクロノアス。
しかし、魔法の発達したこの世界では魔法科学相反現象により、科学の発達には限界があった。
この世界で魔法も、娯楽も、特殊な力もない彼らの存在価値はないに等しかった。
そこで、テクロノアス出身者による、ある研究グループが立ち上がった。
魔法科学相反現象とは何なのか。
何を基準に高度な科学としているのか。
そして、魔法科学相反現象を乗り越え、科学を発展させる方法は存在するのか。
彼らは、科学を魔法として世界に認識させることで魔法科学相反現象を回避しようとした。
科学と魔法を組み合わせたのだ。
しかし、科学と魔法を組み合わせたその技術は、彼らの予想をはるかに上回るものだった。
それはもはや科学でも、魔法でもない。
全く新しい第三の技術だった。
そして、それが魔法科学相反現象を乗り越えたことだけは確かだった。
だが、その技術を扱うには、彼らは早すぎたのだ。
きっかけは、ほんの些細なことに過ぎなかった。
科学しかない世界からきた彼らは、魔法がどういうものなのか知識としては入れていても、完全に理解することはできなかったのだ。
魔法は再現性の大きい科学とは違う。
イメージによって結果が変化する、不確定な力なのだ。
研究グループの研究者たちは、一日のほとんどを研究に費やしていた。
30分も睡眠できればいい方だった。
その結果、疲労、ストレス、そして上司への不満は限界に達し、今にも爆発しそうだった。
当然、その爆発は物理的なものではない。
というのが彼らにとっての常識だ。
だが、イメージが世界を改変する魔法の世界ではどうだろう。
そのような研究者たちのイメージは実際の現象として変換され、その結果大陸をも破壊するほどの爆発が起きた。
ただの魔法ならこれほどの現象は簡単には起きない。
魔法と科学を組み合わせた第三の技術だからこそ起こり得たのだ。
そして、この事件をきっかけにミクシアでは労働時間や労働環境の見直しが進められた。
その結果、現在では過酷な労働環境は大きく減少し、ホワイトな職場が当たり前のものとなっている。
さらに、あまりにも危険すぎるその第三の技術の開発、使用、保有は完全に禁止された。
それだけで終われば良かった。
その事件が起きて以降、約300年たった今でもテクロノアス出身の異世界人はいまだに差別の対象となっている。
その事件にかかわった研究者はすでにこの世にいないにも関わらず、テクロノアスから来たというだけで差別されるのだ。
存在価値がなかったあの頃のほうが圧倒的にましだったというのは言うまでもないだろう。
◇ ◇ ◇
「——これが、この世界で科学が発達しない二つ目の理由、そしてテクロノアスが差別される理由でもあります」
あの後、メナにはギルドの依頼報告を任せ、私はあの少女を屋敷へ連れ帰りました。
そして、報告を終えて帰ってきたメナに約300年前に起きた事件を語りました。
「そんなことが……」
「この事件はテクロノアス事件と呼ばれています」
「この子は何も悪いことをしてないのに……」
「はい。その通りです」
少女は今もまだベッドで寝ている。
しばらくは起きそうにないでしょう。
300年前に起きた事件。
今となっては、この事件を正しく把握している者はほとんどいない。
ただ「テクロノアス人は危険だ」という風潮だけが残り、それに従って差別している者がほとんどなのだ。
「そういえばリシアって物知りだよね、この事件のこととか、魔法科学相反現象とか」
「ま、まあ学校で習いましたので」
「学校か……あんまり友達いなかったけどみんな元気かな」
メナがそう呟いた。
そういえば転移してきた際も制服を身に着けていましたね。
「……この子、これからどうしましょうか」
「この屋敷に住まわせられないの?」
「できなくもないですが、それはこの子の自由を奪うことになってしまいます。屋敷から出ればまたああなるかもしれませんから」
あの時多くの人に見られていた。
何もせずに外に出してしまえば、また差別を受ける可能性がある。
だからと言って、屋敷に閉じ込め続けるわけにもいかない。
「じゃ、じゃあこの町のみんなにテクロノアスの人が悪い人じゃないって伝えれば……」
「無理です。差別はそう簡単には消えません。地球での差別はどうですか?」
「あっ、確かに……」
やはり、どんな世界でも差別は起こるものなのですね。
「やはり、ユートリア魔王国へ連れて行くのが一番いいでしょうか……」
「えっ、魔王!?」
「はい、魔王が統治している国です」
「えっと、魔王は人間の敵じゃないの?」
地球の創作物ではそういう認識ということですか。
「昔はそうだったみたいですね。今では全然そんなことないですよ」
「そうなの!?」
「はい、魔王は七人いるのですが……」
「七人もいるの!?」
「……はい。まあともかく、ユートリア魔王国では魔王の名のもとに完全に差別が禁止されています」
「……魔王ってめちゃくちゃ良い人なの?」
「さあ、どうでしょうね」
◇ ◇ ◇
私は気づいたら知らないところにいた。
お母さんも、お父さんもいない。
知らない街並み、知らない人たち。
私はどうしたらいいのかわからなかった。
「大丈夫かい?もしかして異世界人か?」
道をさまよっていたら一人の男性に出会った。
その人は私に食べ物をくれた。
私はその食べ物のことを知らないけど、今まで食べたことあるものとは全然違った。
「……あったかい」
温かみのある食べ物だった。栄養固形物とは違って、何か幸せなものを感じた。
こんなものがあるなんて、私は知らなかった。
その後、私はその男性に連れられて、ギルドという建物へ向かった。
そこで一つの水晶に触れるよう言われた。
言われた通りに水晶へ手を触れる。
すると、水晶の中に文字が浮かび上がった。
そこに書かれていたのは――
『テクロノアス』
知らない言葉だった。
でも男は何か表情が変わっているような気がした。
建物を出た私はその男とこれから暮らすのかと、そう思った。
でも――
「ったく、テクロノアスかよ!」
私は蹴り飛ばされた。
わからなかった。
テクロノアス、あの水晶に映し出された文字。
それにどんな意味があるのか。
私はまた一人になった。
すれ違う人は私を見ると何か遠い目で見るようになった。
中にはあの男と同じように暴力を振るうような人もいた。
「私が何をしたの?」
でも誰も答えてくれなかった。
「お前みたいなのが、この街を歩いていいと思ってるのか?」
「テクロノアスから来たやつがよ!!」
私は蹴り飛ばされて意識を失った。
次に目を開けると、そこには二人の女性がいた。
科学が発展した世界では栄養固形物が主食です。知らんけど
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