7話 テクロノアス
水玉平原――ミクシア各地に存在する、スライムが多く生息する平原の総称です。
なんでも、スライムが大量発生したときに平原が水玉模様に見えたからそう呼ばれるようになったのだとか。
私たちが今訪れているのは、リーベルの近郊にあるため、リーベル水玉平原と呼ばれています。
「いました。あれがスライムです」
私たちは茂みに身を隠し、スライムの様子を観察する。
「おお、想像通りのスライムだ!」
スライムは身体の大部分がスライム液と呼ばれるゲル状の物質で構成されている魔物。
スライムは空気中の魔力や薬草を取り込んで生きている。
そのため、スライム液はそのままポーションとして使うこともできますし、ポーションの素材としても欠かせない素材として知られています。
水玉平原にスライムが多く生息しているのはそこが薬草の群生地だからです。
「えっと、普通に切っちゃえばいいのかな?」
「はい。色がほぼ同じなので見ることはできませんけど、真ん中にある核をスパッと剣で真っ二つに斬っちゃえば簡単に死にますよ」
「分裂とかしない?」
「しませんね。地球の創作物ではそういう能力を持つスライムもいるんですか?」
「いるいる。倒したと思ったら二体になったり……」
「この世界のスライムはそこまで厄介ではありませんね。核さえ残っていれば死なないそうですが……」
「なるほど……」
メナは剣を握ったまま震えている。
それもそうでしょう。
魔物と言えど生物であることに変わりはないのですから、殺すことに少しくらいためらいが……
「えいっ」
茂みを飛び出したメナは可愛らしい掛け声とともに、剣を振り下ろした。
剣はスライムの中心を正確に捉え、核を両断する。
核を失ったスライムは一瞬だけ震えた後、その身体を構成していた液体を残して動かなくなった。
「……」
「……倒せた?」
スライムを倒したメナが私のもとへ駆け寄ってくる。
「はい。完璧です。ではスライム液をバケツに回収しましょうか」
……杞憂でしたね。
バケツを持ち、メナが倒したスライムのもとへ行く。
核を失ったスライム液はいずれ地面に染みこんでしまうのでできるだけ早めに回収しないといけません。
「メナ、今の動き……もしかして剣術の経験がありますか?」
スライム液をバケツに入れながらメナに問う。
「あー、中学の頃にちょっとだけ剣道やってたからかな」
「剣道?」
「うん。竹刀っていう木刀みたいなものを使って戦う競技……みたいなものかな」
「なるほど……だからあれほど迷いのない振りができたんですね」
「リシアは魔法で倒せるの?」
「はい、そりゃもちろん」
「見たい!」
「わかりました」
スライム液をバケツに入れ終えた私は一匹のスライムを見つけた。
【収束する炎】ではスライム液を蒸発させてしまうので別の魔法を使わないといけません。
「では行きます。【狙い穿つ風刃】」
解き放たれた風はスライムに命中。
スライム液を飛び散らすことなく核のみを正確に破壊した。
「これが魔法……」
「はい、ではスライム液を集めましょうか」
◇ ◇ ◇
「おらっ!」
メナが10匹目のスライムを倒す。
……最初の可愛らしい掛け声はどこへ行ったのでしょうか。
「このバケツって見た目に反して結構入るんだね」
10匹分のスライム液を入れたはずなのに、バケツはまだ半分ほどしか満たされていない。
「魔法で空間を拡張していますからね」
「魔法ってすごいなー」
やはり魔法のない世界から来たメナは魔法に強い興味があるようですね。
異世界に来たばかりで、魔力も少ないですが、練習する価値はあるでしょう。
「町に戻ったら魔法の練習でもしますか?」
「えっ!ほんとに!!」
「はい」
スライム液の入ったバケツを持ち、リーベルへと戻る。
容量の拡大の他に軽量化の魔法もかけられているようなのでだいぶ楽に運ぶことができます。
「そういえばこの世界ってあんまり科学は発達してないんだね」
メナがリーベルの街並みを眺めながらそう言った。
確かにメナの言う通り、この世界はあまり科学が発達していない。
地球を含め、その他にも科学の発達した世界からの異世界人は多くいるのにも関わらずです。
「それには大きく二つの理由があります。一つ目は魔法と科学の相性が悪いということですね」
「相性が悪い?」
「はい。魔法と科学は相反するものです。例えば……地球から何か精密な機械を持ってきてはいませんか?」
「……スマホとか?でも空から落ちた時に壊れたのか電源は付かなかったよ?」
スマホ……聞いたことはないですが、高度な科学が使われていることには間違いなさそうでしょうね。
「おそらく壊れたわけではありません」
「えっ?」
「この世界は魔法で満ちています。そのため、地球のような高度な科学技術は本来の性能を発揮できないんです。これを魔法科学相反現象と言います」
「まぎあ、あるす、あんちのみー?」
「はい。そのスマホ?に電源?が付かなかったのもおそらくそのせいでしょう」
「なるほど……」
「まあ、魔法科学相反現象を回避した科学を研究する者もいましたけどね」
「魔法科学相反現象を回避?」
「はい、そしてそれが二つ目の理由に繋がります。二つ目の理由、それは――」
その時だった。
「お前みたいなのが、この街を歩いていいと思ってるのか?」
少し先から怒鳴り声が聞こえた。
見ると、数人の男たちが一人の少女を囲んでいる。
「……」
少女は抵抗せず、そこにうつむいているだけだった。
一人の男が少女を蹴り飛ばした。
「テクロノアスから来たやつがよ!!」
蹴り飛ばされた少女は建物にもたれかかり、それを見た男たちはその場を去っていった。
周りには多くの人だかりができている。
けれど誰もその少女を助けはしない。
テクロノアス。
それはこの世界に訪れる異世界の一つ。
現在確認されている中で一番科学技術が発達した世界であり、そして――
「リシア、あれって……」
「……世界差別です」
最もこの世界で嫌われ、世界差別の対象となる世界。
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