6話 冒険者デビューはスライムから
メナがこの世界に来てから二日目。
今日は朝早くから武器屋に来ていました。
冒険者は日の出とともに活動を始める者も多いため、武器屋もすでに営業を始めている。
「やっぱり異世界の定番といえば剣!だけど弓も面白いかな。いや、あえて銃を…………って銃!?あっ、そっか、異世界人が多いんだから銃の技術ぐらい伝わっててもおかしくはないのか……」
メナはこの世界に銃があることに驚いていますが、確か数百年以上前から銃はあったはずです。
魔法の存在しない世界の銃は火薬を使うらしいですが、この世界の銃は魔力を流すと魔法が発動して、弾丸もしくは魔法そのものを飛ばすという仕組みです。
魔法を扱うことができなくても魔力さえあれば使えるというわけです。
「どれにするか決まりましたか?」
「んー、やっぱり剣にしようかな」
「剣ですね……」
店に置いてある剣をいくつか確認する。
重すぎるものは論外。
メナはまだ筋力も技術もないため、扱いやすさを優先した方がいいでしょう。
「ではこれを持ってみてください」
いくつかの剣を確認した後、最も扱いやすそうな一本を選び、メナへ渡す。
「おお、結構持ちやすい……かも」
少し反応が薄いような気もしましたが、今まで武器を触ったことがないのですから、持ちやすいという実感があまりなくて当然でしたね。
「ではこれを買いましょう。店主さん、この剣はいくらですか?」
「……あんた剣を見る目があるな。確かにここにある剣の中ではそれが一番嬢ちゃんに合うだろう」
「そ、そうですか?まあBランク冒険者ですからね」
「なるほどな。その剣は銀貨40枚だ」
銀貨40枚ですか……昨日の報酬よりも大きいですが、貯金はだいぶありますからね。
ドワーフの店主さんに銀貨40枚を渡す。
「確かに受け取った。大切に使えよ」
「はい!わかりました!」
武器を用意できた私たちは店を出て冒険者ギルドへと向かう。
メナにとってはいきなりの実践となるわけですが、私がいるので大丈夫でしょう。
「リシアは武器は持ってないの?」
「はい。私は基本的に魔法で戦うので」
そう言い、手のひらにちょこっと炎を出してみる。
「いいなー、私も魔法使いたいなー」
メナも私の手の真似をしてみるけど、当然炎は生まれない。
「そういえば、そもそも魔法ってなんなの?創作物によくあるものだから聞いてなかったけど……」
「ああ、言っていませんでしたね。魔法というのは魔力というエネルギーをイメージによって特定の現象に変換する技術のことです」
「じゃあイメージ次第でなんでもできるってこと?」
「理論上はそうですね。ただ、実際には簡単ではありません。大きな現象を起こすほど必要な魔力は増えますし、複雑な魔法ほど正確な制御が必要になります」
メナがさっき魔法を使えなかったのはおそらく魔力量が少ないからというのもありますが、イメージが上手くできていなかったからですね。
ただ単に私の動きを真似しただけです。
魔法は形のないものをイメージする必要がありますから、初めて使う人には難しいでしょう。
逆に、さっき説明した銃は、特定の魔法を発動するためのイメージがあらかじめ組み込まれているため、イメージをうまくできない人でも扱えるというわけです。
「そういえば魔法って名前とかあるの?」
「ありますよ。例えば、私はよく【収束する炎】という名前の魔法を使っています」
「あるんだ!でもイメージでなんでもできるなら、魔法名なんて必要ないんじゃない?」
「……どういうことですか?」
「だからイメージでなんでもできるなら名前を付けて区別をする必要ないんじゃないかなって」
「……人はイメージ次第で身体を動かせるのに、一つ一つの動作に名前があるのと同じなのでは?」
「えっと……どゆこと?」
それが当たり前だと思って生きていたのでうまく言葉にするのが難しいですね。
「走る、歩く、跳ぶ、投げる。名前を聞けば、その動作をすぐに思い浮かべることができますよね。いちいち筋肉の動きや関節の角度を考えたりしませんよね。魔法も同じです。【収束する炎】は、炎が一点に集まる魔法だと決まっているので、発動するときにそのイメージを簡単に呼び起こせるんです」
「なるほど……詠唱も魔法名もちゃんと役割があったんだね。てっきりただかっこいいだけかと……」
「まあ魔法使いの中には、起こす現象に必要な長さ以上の詠唱を、かっこいいからという理由だけでする人もいますけどね」
「あっ、いるんだ」
◇ ◇ ◇
冒険者ギルドの扉を開け、中に入る。
「改めて見るといろんな種族がいるなー」
メナの言う通り、様々な種族の冒険者がギルドには集まっていた。
人間が一番多いですが、他にもエルフ、ドワーフ、獣人、竜人など、実に様々です。
「この世界って種族による差別ってないのかな?」
「差別ですか?この世界ではあまりありませんね。昔はあったそうですが、異世界人は他の種族に転生することもありますからね。種族ではなく、中身で判断するということが多くなりました」
「中身?」
「はい。種族ではなく、その人がどんな人なのかを見るということです。ただ、生まれた世界で偏見を持つ人は今でもいます」
この世界には世界差別というものがある。
生まれた世界を理由に差別したり、その世界の価値観だけで相手を判断したりすることです。
メナの生まれた地球は世界差別の対象にはあまりならないようですが、異世界人の中には、その偏見に苦しみながら生きている者も確かにいます。
「そうなんだ……」
「はい。国やギルドも差別をなくそうとはしていますが、人の考え方までは簡単には変えられませんからね」
「そっか……」
「……少し重い話になってしまいましたね。今日はメナの冒険者デビューの日です。まずは最初の依頼を受けに行きましょう」
「うん、まずは依頼だね!」
気を取り直して依頼掲示板へ向かう。
ずらりと並ぶ依頼書をざっと見渡す。
私がいるのでBランク相当の依頼も受けることができますが、初依頼なら、やはり危険すぎないものがいいでしょう。
「これにしましょう」
一枚の依頼を掲示板から取る。
「スライム×10討伐・素材回収必須です」
「定番雑魚モンスターのスライムだ!」
「地球でもそういう認識なんですね。スライムはE⁻ランク相当の魔物です」
「へー、一番弱いランクの魔物ってことだね!」
「そうですね。ちなみに、メナさんの冒険者ランクもまだE⁻ですよ」
「……私はスライムだった?」
「あくまでランクの話ですよ」
依頼書を持った私たちは受付へ向かう。
「これをお願いします」
「スライム×10の討伐依頼ですね。ではギルドカードをご提示ください」
私たちは受付嬢にギルドカードを渡した。
「お二人はまだパーティ登録がお済みではありませんよね。」
「あっ、そうでしたね。では先にパーティ登録をお願いします」
「了解しました。少々お待ちください」
すると受付嬢はカウンターの奥へと向かった。
「リシア、パーティを組むとどうなるの?」
「パーティを組むことの一番のメリットは、場合によって高いランクの依頼も受けれるようになるということですね。例えばガルムさん達のパーティ、『怒闘の掟』はガルムさんのランクがB⁻、レクトさんとティスさんのランクはC⁺なのですが、三人を総合した実力で判断されるパーティランクはB⁺なのでB⁺ランク相当の依頼も受けることができます」
「じゃあ私たちの場合は?」
「BランクとE⁻ランクがパーティを組んでもBランクです。ですから、今の私たちにとってのメリットは、一緒に依頼を受けられることぐらいですね」
「あっ、そうなんだ……」
ちょうど説明を終えたところで、受付嬢はギルドカードと素材回収用のバケツを持ってカウンターへ戻ってきた。
「パーティ登録が完了いたしました。それと、素材回収用のバケツをどうぞ。依頼完了後に返却をお願いします。ではお気を付けください」
「へー、スライムの素材ってバケツに入れるんだ」
「ゲル状ですからね」
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