5話 私の秘密
「では、そろそろ上がりましょうか」
十分に身体も温まったところで、私たちは湯船を出た。
脱衣室へ戻ると、一人のメイドが頭を下げた。
「お着替えをご用意いたしました。リシア様、メナ様」
「うわー!本物のメイドさんだ!」
「こちらはメイドのエルノです」
「エルノさん、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
挨拶を済ませると、私はエルノが用意してくれた服に着替えた。
メナも新しい服に袖を通している。
「では、アユサがお食事をご用意しておりますので、食堂へお越しください」
そう言い残すとエルノは脱衣室を出て行った。
「アユサ……さん?」
「この屋敷の料理人のことです」
メナはどこか疑問気な様子だ。
「どうしましたか?」
「なんか……日本人っぽい名前だなーって」
日本といえば、メナの故郷でしたね。……あっ。
「そういえば……アユサも日本から転生してきたと言っていたような気がします」
「え!?ほんとに!?」
「はい、詳しくは知りませんけど……」
「私の他にも日本人が……」
「では食堂に行きましょう」
「はい!」
◇ ◇ ◇
「ここが食堂です」
扉を開けると、食欲をそそる香りが漂ってきた。
「わー、いい香り―」
食卓では、一人の女性がテーブルを拭いていた。
私たちに気付くと、その手を止めてこちらへ向き直る。
「おかえりなさいませ、リシア様、そしてメナ様。お食事の準備が整っております」
「あなたがアユサさんですか?」
「はい。私がこの屋敷で料理人を務めております。清水歩咲と申します」
「やっぱり!日本人だったんですね!」
「ということはメナ様も日本人なのでしょうか?」
「はい! 私も日本人です! 白石瞳奈です!……あれ? でも歩咲さん、日本人っぽい見た目じゃないような……」
「私は転移ではなく、転生してこの世界に来ましたからね。この姿で生まれ育ったんですよ」
「転生したなら名前はまたこの世界の親に与えられるのではないんですか?」
「この世界では、転生者だと認められた人は、前世の名前をそのまま使ってもいいという決まりがあるんです」
「へぇー!そんな決まりまであるんだ!」
メナは感心したように頷いた。
「はい。では、お話の続きはまた今度にして、麺が伸びてしまうので、どうぞお席にお座りください」
「はい!」
メナと一緒に席に着く。
「ん?麺が伸びてしまう…?」
「お待たせいたしました」
アユサは大きなお盆を持って厨房から出てきた。
お盆には二人分のラーメンが載っている。
「えっ、ラーメン!?」
「メナも知っているんですね、ラーメン。私の一番好きな食べ物ですよ」
「知ってるも何も、日本じゃ定番の料理だよ!? 」
「アユサが作ってくれるようになってから、私もすっかり大好物なんです」
「リシア様のお口に合うようで光栄です」
「ではいただきます」
箸を手に取り、ラーメンをすする。
「……おいしい。やっぱりアユサのラーメンは最高です」
「……いただきます!」
メナも勢いよく麺をすすった。
「……日本のラーメンと全然変わらない!」
「完全に同じというわけではありませんが、できる限り再現してみたんです」
「すごい……けど、異世界の貴族様の食事がラーメンって、なんかイメージ違うなぁ……」
「美味しいからいいんじゃないですか?」
「……確かに」
◇ ◇ ◇
食事を終えた私たちは、メナがこれから暮らす客室へ向かっていた。
「この屋敷ってもしかしてアルフレッドさん、エルノさん、歩咲さんの三人しか使用人いなかったりする?」
「そうですよ」
「そうなの!?少なくない…?」
「この屋敷は別荘みたいなものですし……」
「別荘?」
「はい。冒険者をするためにアルフレッドへ家の手配を頼んだのですが、気付いたら無駄に広い屋敷になっていました」
「さすがは貴族……!って、貴族ということは領地の管理とかあるんじゃないの?」
「……領地の管理は信頼できる配下に任せていましたから、大丈夫です」
「そんな大事なことを任せちゃっていいの!?」
「みなさん優秀でしたから」
「その配下の人たち、苦労してそう……」
「そうですか? うちは残業NG、有給も取り放題、さらにボーナスも多く……」
「めちゃくちゃホワイトだった!!」
それに、私には皆さんはいつも楽しそうに仕事をしているように見えました。
「着きました。ここがメナの部屋です。私の部屋の隣ですね」
扉を開けると、客室とは思えないほど広々とした部屋が現れた。
この前までは色々物が散乱していたはずですが、さすがはアルフレッドですね。
「これが私の部屋……」
「どうですか?」
するとメナは迷わずベッドにダイブした。
「すごい!お姫様の部屋みたい!」
「お姫様……ですか?」
「だって、こんな大きなベッドに、綺麗な家具に……普通の人が住む部屋じゃないよ!」
「そうでしょうか……?」
「あー、異世界に転移してよかったー!もう地球には帰れないよ!」
そう言ってメナがベッドの上でゴロゴロ転がっている。
……随分と馴染むのが早いですね。
「明日は6時には起きてくださいね」
「6時?」
「まずはメナが使う武器を用意しないといけませんから」
「武器!何にしようかな~」
「ではメナ、おやすみなさい」
「おやすみ!リシア!」
私はメナの部屋を後にして、隣にある私の部屋に入った。
案内役、最初はどうなるかと思いましたが、案外楽しいものですね。
十年間ソロで冒険者をやってきましたが、これからどうなるでしょうか。
。
この秘密をずっと隠し通せるでしょうか。
……いつか、話さなければならない日が来るのかもしれません。
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