4話 この世界でこれから
町を案内しようと思っていたのですが、さすがにこの格好では歩き回れないので、一度家に帰ることにしました。
「えっ、ここがリシアさんの家ですか?」
目の前には豪華な屋敷がある。
私の家は、貴族の大豪邸というほどではありませんが、一般的な家と比べれば十分すぎるほど大きな屋敷です。
まあ、ここは私が冒険者をやるためにこの町に建てたものなので、本邸はもっと大きいんですが。
「はい。ここが私の家です」
「リシアさんってもしかして貴族様だったりしますか?」
「ええ、まあ……ちょっとした貴族ですね」
「では、これからリシア様と呼ぶことに……」
「今まで通りでいいですよ!」
するとメナさんは少し沈黙した。
やっぱり『様』と呼びたかったのでしょうか。
「じゃあ、こうしましょう! お互いに呼び捨てにしませんか?」
「……いきなりですね」
「案内役と転移者の関係じゃなくて、お友達になりたいので!」
友達、ですか。
そういえば、友達と呼べる人は片手で数えれるほどしかいませんでした。
『怒闘の掟』のみなさんとは仲はいいですが、ギルドでたまに会うくらいですし。
「友達……わかりました。これからはメナと呼びますね」
「お願いします。リシアさ、あっ、リシア!」
提案した本人が言い間違えかけてるじゃないですか。
「では屋敷に入りましょうか」
メナの手を取り玄関に向かう。
「そういえばなんで貴族なのに冒険者なんてやっているんですか?」
「えっと、まあ冒険者の自由な生活にあこがれて……」
「冒険者は危険だとか言っておきながら私とほぼ同じじゃないですか!」
……何も言い返せません。
◇ ◇ ◇
「おかえりなさいませ。リシア様」
屋敷に入り、出迎えてくれたのは執事のアルフレッド。
幼い頃から私の世話をしてくれている執事です。
「わー!本物の執事さんだ!」
メナは目を輝かせながらアルフレッドを見ている。
執事のどこにそんなに興味があるのでしょうか。
「リシア様、そちらのお客様は?」
「転移者のメナです。今日から私が案内役を務めることになりました」
「リシア様自ら案内役を務められるのですか?」
「ええ、そういうことです。メナも当分ここで暮らすことになるので客室を一部屋用意しておいてください。私は服が汚れてしまったので、先にお風呂をいただきます。あっ、あとメナの服も用意してください」
メナは制服を着ていますからね。
動きにくい服装なので着替えたほうがいいでしょう。
「承知いたしました」
返事をしたアルフレッドはメナのほうへ向き合った。
「申し遅れました、メナ様。私はアルフレッドと申します。この屋敷でリシア様のお世話をさせていただいております」
「様!?」
「リシア様の大切なお客様ですので」
「でも私は今来たばかりで……」
「そんなことは関係ありません。それに……」
「それに?」
「いえ、なんでもございません。では失礼いたします」
そう言うとアルフレットは颯爽と立ち去って行った。
本当に役に立つ執事です。
「ねえ、リシア。こんな立派なお屋敷に住んでいいの!?」
「もちろんです」
案内役ですから、転移者の住む場所を手配するのは当然です。
それに……もう友達ですからね。
「ではお風呂に行きましょう」
「えっ、私も!?」
「当たり前です。メナも空から落ちてきたときに少し汚れていますよ」
私ほどではないですが、メナも泥で汚れていました。
私がふき出した紅茶はかかってなかったですが。
◇ ◇ ◇
「ひろーい!」
メナが驚くのも無理はありません。
私の屋敷のお風呂は、一般家庭のものよりかなり広いのですから。
「湯船に入るのは身体を洗ってからにしてくださいね」
「はーい!」
普段からそうしていますが、今回は体中汚れているのでなおさらです。
身体を洗い終え、私たちは湯船に浸かった。
「異世界か……そういえばこれって現実なのかな?」
「夢だと思っているんですか?」
「ちょっとだけ」
「……そうですか」
しばらくの沈黙の後、私は口を開いた。
「……メナ」
「ん?」
「これからどうするつもりですか?」
「これからって?」
「この世界でどう生きていくか、ということです。」
「……」
メナはこの世界に来てから最初は戸惑いこそあったものの、いろんなものを楽しそうに見ていた。
冒険者になりたいと言っていたし、これからも異世界で暮らすならそういう楽しみというものと多く巡り合えるでしょう。
でも……
「地球に帰りたいとは思わないのですか?」
まだ元の世界に帰る方法は発見されていないからこの質問に意味があるのかはわからない。
でも、なぜか聞かずにはいられなかった。
「今は、別にいいかな。帰る場所って言われても、もうあんまり思いつかないし」
「帰りたいと思う理由になるような人はいないのですか?」
「親は私が幼い頃に死んじゃったから……」
「あっ、すみません」
「いいよ。そもそも親の顔もほとんど覚えてないし……」
そういってメナは笑って見せた。
でもそれが気休めの笑顔だということは簡単に分かった。
「……私も、昔両親を失いました」
「え……」
「だから、少しだけ分かる気がします。平気なふりをしてしまう気持ちが」
私が親を失ったのはだいぶ昔のことですが、今でも思い出せるものですね。
「……っておかしいですよね。会ってから1日も経ってないのにこんな話」
「そうですか?創作物ではよくあることですよ」
「……そういうものなんですか?」
「はい。異世界に来た主人公が、似た境遇の仲間と出会って仲良くなるのは定番です」
「そういうものなのですか?」
「そういうものなのです!」
似た境遇の仲間……ですか。
泥園の森林でメナと出会えたことは、偶然ではなかったのかもしれません。
「とりあえず!私はこの世界で冒険者になって、楽しく過ごしたい!元の世界に帰るつもりは……今のところはないかな」
メナは突然立ち上がってそう宣言した。
楽しく冒険をしたい……やっぱり私と似ていますね。
「……わかりました。できる限りのことで手伝いましょう」
「ほんと!」
「案内役になった以上元からそのつもりでしたし、もう友達ですからね」
「リシア……!」
メナは嬉しそうに笑った。
その笑顔を見ていると、これから始まる日々が少しだけ楽しみになりました。
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