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2話 異世界人は冒険者にあこがれる

「……異世界人の多い世界?」

「はい、この世界『ミクシア』の現世界人と異世界人の比率は1:1と言われています」

「そっ、そんなにいるんですか!?」


 『地球』出身の異世界人に限らず、この話を聞いた異世界人は必ず驚く。

 やっぱり、この世界って比率バグってますよね。


「だから地球のことも知っていました。娯楽の多い世界だと認識しています」

「異世界ではそういう認識なんですね」


 その転移者は少し不安げな表情を浮かべている。

 突然見知らぬ異世界に転移したのだし、当然でしょう。


「そういえば、まだ名前を聞いていませんでしたね。私はリシアです」

「私は白石(しらいし)瞳奈(めな)っていいます」

「シライシさん?それともメナさん?」


 ミクシアでは姓が後ろに来ますが、世界や国によって姓と名前の順番が異なることがあるのでこれはしっかり確認しなければいけません。


「えっと、白石が苗字で瞳奈が名前です」

「メナさんですね、よろしくお願いします」


 メナさんはまだ不安げな表情を浮かべている。


「なんで私って転移していたんでしょう。リシアさんが召喚したわけではなさそうだし……」

「召喚?」

「異世界ものだと、異世界人って特別な力を持っていて、召喚されて魔王を倒す……みたいな展開があるんです」

「……なるほど。そういう物語があるんですね」

「え、ないんですか?」

「ないですね」

「ない!?」

「少なくともこの世界にはそんな魔法ないですし、異世界人だからと言って強いという保障なんてないでしょう」

「えっ、でも強いスキルを神から貰えてチートで無双して……」

「この世界にはスキルはありません」

「スキルないの!?」


 まあ、この世界には、ですけどね。

 ショックを受けたのかがっかりするメナさん。

 勝手に期待されただけですけど少し申し訳ないですね。

 メナさんの言う通りのことが起こればこの世界の人口の半分がチートで無双することになってしまうんですよね。


「私の最強チートスローライフ……」


 地球人ってチートとスローライフに憧れでもしているのでしょうか。

 するとメナさんは私の服装をじろじろと見始めた。

 あっ、そういえばオーガに付けられた泥がそのままでした。


「あっ!リシアさんってもしかして冒険者ですね!」

「はい、私は冒険者ギルドに所属するBランク冒険者です」

「Bランク!………それって強いんですか?」

「一般的には上位ですね。ソロで活動している冒険者としてはかなり高いほうです」

「すごい人なんですね!」


 これでも私は十年間冒険者をしていますからね。

……えっ?私が何歳かって?

 レディに年齢を聞くなんて、デリカシーがありませんよ。


「決めた!私も冒険者になります!」

「冒険者は危険な仕事ですよ」


 まあオーガを楽々討伐した私が言えることではないですけど。


「せっかく異世界に来たのに冒険者にならないなんて大損ですよ!」


 どうやら地球では、異世界に来たら冒険者になることが定番らしいです。

 この世界では冒険者は危険な仕事なのですが……。


「私を冒険者ギルドに連れて行ってください!」

「冒険者は転移者を見つけたら冒険者ギルドに連れて行く義務があるので、言われなくてもそうしますよ」

「あっ……冒険者ギルドって、安全な場所ですよね?」

「もちろんです」

「異世界人だからと解剖とかされませんよね……?」

「ああ、その反応は地球人によくあると聞いたことがあります」



               ◇ ◇ ◇


 セルアリア王国の首都リーベル。

 私が拠点としている町です。

 その町の冒険者ギルドにメナさんを連れてきました。


「ここが、冒険者ギルド・リーベル支部です」

「おおー、それっぽい!」


 地球の創作物にも冒険者ギルドというものはあるようです。

 地球には魔物はいないらしいのですが、どうやって思いついたのでしょうか。

 まあ、考えても仕方がないですね。


「では中に入りましょう」

「はい!」


 扉を開けると、そこには冒険者の人々、そして出発前も出会った『怒闘の掟』の姿もあった。


「おっ、リシア、さっきぶりだな……って泥まみれじゃねぇか」

「はい、ちょっとオーガに泥をぶっかけられまして。ガルムさん達はまだ依頼に行っていないんですか?」

「ちょうど依頼を終えて帰ってきたところだ。思っていたよりも簡単な依頼でな。ところでそっちの嬢ちゃんは?」

「メナさんです。先ほど転移してきたところを保護したんです」


 メナさんは私の後ろに隠れてしまっている。

 見知らぬ異世界人の集団。

 しかも屈強な冒険者たち。

 メナさんが警戒するのも無理はありません。


「メナちゃんっていうんだー。私はティス! こっちがガルム、見た目はあれだけど中身は優しいからねー」

「見た目はあれってなんだよ!」

「僕もそう思いますよ~」

「レクトさん、また酒飲んでるんですね……」


 レクトさんは依頼を終えると酒を飲む習性があるらしく、今も足元がおぼついている。


「皆さんも冒険者なんですね」

「おう。ついでに言うと俺たち三人ともお前と同じく異世界人だ」

「えっ!?」


 メナさんが驚いた表情を浮かべる。


「皆さんも地球から……?」

「いや、違う」

「違う?」

「俺たちは同じ世界、『ルスレス』ってところから転生してきた」

「るすれす……?」

「そうだ。魔物……じゃなくて魔獣って呼ばれる生物がはびこる世界だ。魔法がない世界だから大変だったんだぜ」

「結局この世界でも同じことしてる癖に」

「……確かにそうだな」

「ぼくは魔法職なんていなくてもだいひょ~ふですよ~」


 ティスさんがちらちら私のことを見ているような。


「ねえリシアちゃん」

「お断りします」

「私たちのパーティに――」

「お断りします」

「まだ最後まで言ってないよ!?」


 やっぱり私はソロが好きです。


「じゃあ、私はメナさんを連れて行かないといけないので」

「またねー」

「まはね~」

「ふふっ」


 レクトさんがティスさんの真似をしていることに思わず吹き出しそうになりました。

 メナさんを連れて受付へと向かう。

 すると突然メナさんが立ち止った。


「メナさん、大丈夫ですか?」

「か……」

「か?」

「かっこよかったです!あれが冒険者パーティですね!本当に仲がいいのが感じられて……あっスミマセンつい……」


 メナさんは急に語りだしたかと思えば赤面して、また私の後ろに隠れた。

……地球出身の人はみんな、冒険者にこういう憧れを持っているのでしょうか。


「リシアさん、お疲れ様です。オーガ×3の討伐依頼でしたね。では冒険者カードを提示ください」

「はい、お願いします」


 受付に行き、ギルドカードを受付嬢へ渡す。


「素材は今回もなしですか?」

「はい。魔法で消えちゃったので」

「了解しました。オーガ×3の討伐が確認できました。こちらが報酬の銀貨30枚です」


 そして冒険者カードと依頼報酬の銀貨30枚を受け取る。

 素材も回収すればもっと報酬が多くなりますが、銀貨30枚でも普通に生活する分には足りますからね。

 メナさんが「銀貨30枚?日本円ではいくらだろう……」と言っているのが聞こえたけど、私はその世界の通貨の基準がわからないので答えられませんね。


「ところで、そちらの方は?」

「転移者で、森で空から落ちてきたメナさんです」

「空から……」

「はい!私空から落ちました!」


 メナさんの自己申告が入りました。

 しかもなぜかドヤ顔。


「ではしばらくお待ちください」

「わかりました」


 テキトーな席に座り、しばらく待つ。

 メナさんは目を輝かせてあたりを見ていて、まるで子供のようです。

 転移したての時の不安げな様子はどこへ行ったのやら……。

 すると受付嬢が戻ってきた。


「リシアさん、メナさん、こちらに来てください」


 受付嬢に連れられ、着いたのは支部長部屋。

 長く冒険者をやっている私でもたまにしか入ったことはない。


「支部長、リシアさんと転移者の方をお連れしました」

「入ってくれ」


 受付嬢が扉を開ける。

 その部屋の中央には書類に目を通していた壮年の男性がいた。

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