1話 空から女の子が!!
ミクシア――それが、この世界の名前。
ここは異世界人の多い世界。
異世界人とは、異なる世界から訪れる者たちのこと。
転移や転生など、様々な形でこの世界へやって来る。
今では、ミクシアの総人口の半分が異世界人とも言われている。
赤子の頃からこの世界で育つ転生者と違い、転移者はある日突然、この世界へやって来る。
そして、そんな転移者を支える案内役という制度がある。
◇ ◇ ◇
「じゃあ、この依頼をお願いします」
私の名前はフィルリシア。でも長いので普段はリシアと名乗っています。
ミクシア生まれの現世界人。
冒険者ランクはB。今日もいつものように依頼を受けに来ています。
依頼掲示板から取った依頼書を受付嬢に渡す。
「オーガ×3の討伐依頼ですね。ではギルドカードをご提示ください」
ギルドカードにはこれまでに倒した魔物の数を記録する機能がある。
異世界から伝わった魔法技術で作られたものらしい。
この技術がなかった頃は、必ず倒した魔物の指定部位をギルドへ持ち帰り、倒した証明をする必要があったそうです。
「ギルドカードの読み取りが完了しました。ではお気をつけてください」
「ありがとうございます」
私は受付嬢からギルドカードを受け取り、冒険者ギルドの出口へと向かう。
これから、冒険者ギルドを出発して、オーガの討伐を依頼された泥園の森林に行きます。
その時、ギルドの扉が開いた。
「よう、リシア。これから依頼か?」
そこには見慣れた三人の人物が立っていた。
「はい! オーガ三体の討伐依頼です」
B⁺ランクのパーティ『怒闘の掟』。
全員同じ世界からの転生者で、全員前衛の脳筋……コホン、近接系職業だけで構成された珍しいパーティ。
戦士のガルムさんとレクトさん、そして剣士のティスさんの三人組だ。
「相変わらずソロでオーガ三体? リシアちゃんはすごいなー。私たちのパーティ入らない?」
ティスさんはよく私をパーティに誘ってきます。
私は魔法を使って戦うほうが好きなので、近接系だけのパーティには向いていないと思っています。
「お気持ちはうれしいですが、私はソロで気楽に冒険者していたいんです」
「そっかー、入りたくなったらいつでも言っていいからね」
「僕も異論はありませんよ」
まあ、それにパーティ名の『怒闘の掟』。
かっこいい名前だとは思います。思いますけど……。
自分がその名前を名乗るのは少し違う気がします。
「まあ、リシアがそう言うなら仕方ないな。じゃあな、依頼頑張れよ」
そう言うと『怒闘の掟』は依頼掲示板へと向かっていった。
「さて、依頼を終わらせないと」
◇ ◇ ◇
泥園の森林、その名の通り地面が泥に覆われている森林。
出現する魔物の平均ランクはDと、あまり高くはないですが、足場が悪いので冒険者の間では嫌われている場所でもあります。
今回の依頼は泥園の森林に出没したオーガ×3の討伐です。
オーガの平均ランクはB⁻、泥園の森林に出現する魔物の中でも最上位の強さを誇ります。
「オーガの気配は……あっちですね」
オーガの放つ魔力を感じ取ってその方向へ歩きます。
足を踏み出すたびに泥に沈んで歩きにくい場所ですが、風魔法で泥を乾燥させるだけで簡単に通ることができます。
「あっ、見つかりましたね……」
グオオオオォォォォ……!
森全体にオーガの咆哮が響く。
それはオーガが獲物を威圧するために放つもの。
低級の冒険者なら、この威圧だけで動きを止めてしまうかもしれません。
「まあ、私には効きませんがね」
ステップして横に回避を取る。
その瞬間、さっきまで立っていた周囲の木々を吹き飛ばし、オーガが現れた。
オーガは私を見て固まっている。
さっきの一撃で仕留めるつもりだったのでしょう。まさか避けられるとは思っていなかったようです。
オーガの身体は平均2m、でもここにいるオーガはその一回は大きそうです。まあ大きければ強いというわけでもありませんが。
グオオォォ……!
再び咆哮をあげたと思えば、オーガは拳を地面に振り下ろした。
泥が私の視界を覆う。
オーガはこれでもB⁻ランクの魔物、見た目通りの力任せではない、そこそこの知能はある。
「でも、私には意味ありませんね」
私は魔力で気配を感じ取ることができるので、視界を奪われても戦闘に支障はない。
舞い上がった泥の中から突如オーガの拳が現れる――
――ように視覚だけでは見えるでしょう。
迫りくる拳を躱し、そのまま魔法を発動させる。
「【収束する炎】」
放った魔法は、森や泥に影響を及ぼすことのなく、一点に収束し、オーガのみを焼き消した。
炎魔法の中で一番使いやすくてお気に入りの魔法。
「やっぱり死体は残りませんでしたか……あっ、服が汚れちゃった」
やっぱり泥も焼き消したほうが良かったですね。
服は帰ったら洗うとして、次のオーガを探しましょうか。
◇ ◇ ◇
「【収束する炎】」
三体目のオーガを魔法で焼き消す。
これで依頼達成。
あとはギルドに戻って報告するだけ――
「ーーーーッ!」
悲鳴?
どこからか声が聞こえる。
でも森の中には全く人の気配はない。
「いったいどこから……」
上を見るとこちらを見つめる制服を着た女性の姿があった。
「……あ」
しまった。
魔物に襲われて悲鳴を上げたのだと思って、森の中ばかり探していました。
まさか、空から人が落ちてくるなんて思わないじゃないですか。
このままだと、私のところにぶつかってきますね。
ボフッ
人がぶつかったにしては軽い効果音が鳴る。
咄嗟に風魔法で威力を軽減しましたが、そのまま私にぶつかってしまいました。
「痛たた……」
「窶ヲ窶ヲ縺薙%縲√←縺凪?窶ヲ??」
「えっと……?」
「縺ゅ↑縺溘???」
落ちてきた女性が何か話していますが……何と言っているのでしょうか。
私には全く理解できません。
ミクシア語——この世界で使われている言語ではありませんね。
もしかして……
「【万語翻訳】」
魔力が彼女の周囲を包み込む。
これは異世界人との会話に使われる翻訳魔法。
「何、今の?」
「私の言葉、聞こえていますか?」
「あ、はい……わかります」
【万語翻訳】がちゃんと効いたみたいですね。
「ここはどこですか?さっきまで家でゲームしてたのに……」
「……驚かないで聞いてください。おそらくあなたは異世界転移しました」
「……異世界転移?」
「はい」
「いやいや、そんな小説みたいな……」
信じられないようなので人差し指の上に極小の【収束する炎】を出してみる。
「これでどうですか?」
「えっ、それって魔法……!?本当に異世界!?」
「はい。そうです。元居た世界には魔法はないんですか?」
「なかったです。あったとしても創作物の中にしか……」
この世界には異世界人が多い。
中には魔法のない異世界から来た人も多くいる。
そして、創作物の中、つまり想像の中のみで魔法が存在する世界はこれまで確認されてきた中で一つしかない。
「あなたが生まれた世界は『地球』ですか?」
「……え?」
その言葉を聞いた瞬間、彼女の表情が変わった。
「なんで……地球を知ってるんですか?」
「だって――ここは異世界人の多い世界ですから」
※作中の文字化けしているところはそういう演出です。
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