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縁結びの令嬢はもう結ばない ~王家の縁を全部組んでいた私を追放した結果、誰も結べなくなったそうです~  作者: 早乙女リク


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第8話:祝言の日に、結ばれない側で

リネットとトマスの祝言は、境の川辺で挙げられた。


真新しい橋のたもとに、二つの領の人々が集まった。ヴェルンフェルトとドレーゼ、十年いがみ合った家々が、同じ花で祭壇を飾り、同じ酒を酌み交わす。


わたしが結んだ縁が、こうして目の前で実る。何度見ても、この瞬間だけは、胸が温かくなる。


「ロザ様、ロザ様!」


マリカが、駆けてきた。祝言用に、めずらしく髪を結っている。


「見た? リネットさん、めちゃくちゃ綺麗だった。トマスさん、緊張しすぎて誓いの言葉噛んでたけど」


「見ました。良い祝言でしたね」


「あんたのおかげじゃん。十年止まってた縁を、ぱぱっと結んじゃってさ」


マリカは、わたしの隣に腰かけて、少し声を落とした。


「……あたし、縁なんて信じてなかった。うちの村、ずっといがみ合っててさ。親も、その遺恨で死んだようなもんだし。縁なんて、人を不幸にするだけだと思ってた」


「今は?」


「……まだ、半分くらいしか信じてない。でも」


マリカは、祭壇の二人を見た。


「あんな顔で笑える縁も、あるんだって。ちょっとだけ、わかった」


わたしは、この少女の頭を、そっと撫でた。憎まれ口の下に隠れた、いちばん縁を求めている心。この子の糸も、いつか、良い縁に結ばれてほしい。



宴が賑わう中、わたしは少し離れた木陰に座っていた。


結ばれた二人が、幸せそうに人々に囲まれている。その光景は、美しくて、そして——少しだけ、遠かった。


わたしは、いつも、この場所にいる。


縁を結ぶ側。祝う側。見送る側。祭壇の中央に立つことは、決してない、外側の人間。


「縁を組む道具は、選ばれる側ではない」


王都で、何百と縁を結んだ。そのどれ一つ、わたし自身の縁ではなかった。それが当たり前だと思っていた。寂しいと感じることすら、贅沢だと思っていた。


「こんなところにいたのか」


声に振り返ると、アルヴィン様が立っていた。


手に、杯を二つ持っている。その一つを、わたしに差し出した。


「宴の主役が、隅にいるものではない」


「主役は、あのお二人です。わたしは、ただの……」


「縁定めだ、と言うなら、殴るぞ」


思いがけない言葉に、わたしは彼を見上げた。


アルヴィン様は、隣に腰を下ろすと、祭壇の二人を見ながら、ぽつりと言った。


「お前は、いつもそうやって、外から縁を見ている。人の縁は結ぶくせに、自分は輪の外にいるのが当たり前だという顔をして」


図星だった。あまりに、図星だった。


「……そういう役目、なのです。わたしは」


「役目、か」


アルヴィン様は、杯をあおった。


「俺も、そう思っていた。辺境を守るのが役目で、縁など要らんと。だが……お前が来てから、少し、わからなくなった」


彼の横顔が、宴の灯りに照らされていた。


「役目の外に、あってもいいものが、あるのかもしれん」


その言葉が、何を指しているのか。わたしには、わからなかった。


いや——本当は、わかりたくなかったのかもしれない。


他人の糸なら、一目で読める。けれど、この人とわたしの間の糸だけは、読もうとすると、指先が震える。読み違えて、期待して、また「道具」だと思い知らされるのが、怖かった。


「アルヴィン様」


「なんだ」


「……いえ。お酒、いただきます」


わたしは、杯に口をつけた。


辺境の酒は、王都のものより、ずっと強くて、ずっと、温かかった。



その夜、王都から早馬が着いた。


ハンナが、いつになく硬い表情で、報せを差し出した。


「お嬢様。王都で……セシリア様が組まれた同盟が、また一つ、破談したそうです。今度は、東の三家をまとめて」


「三家、まとめて」


「はい。そして——王太子殿下ご自身が、あなたに会うために、こちらへ向かっていると」


わたしは、杯を置いた。


宴の喧騒が、急に、遠くなった気がした。


来る。切り捨てた人が、切り捨てた土地へ。


——さて。あの人は、何をしに来るのだろう。


祝言の回でした。縁を結ぶ側で、いつも輪の外にいるロザ。その寂しさに、アルヴィンが不器用に手を伸ばします。「役目の外に、あってもいいものが、あるのかもしれん」——彼なりの、精一杯の言葉です。


そして、ついに王太子オルフェウスが辺境へ。切り捨てた人が、切り捨てた土地へやってきます。


次話、次々話は、この物語最初の大きな山場。どうぞお楽しみに。ブックマーク・評価、ありがとうございます。


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