麗しきお嬢様プロトコル (中編) ギークビッチの逆襲
事務所を後にしたシキは、まだ多少優雅さを残した足取りで路地を抜け、
最寄りの地下鉄駅へと向かっていた。
スカートの裾(実際は短パン)をエアーで軽く摘まみ、
背筋を伸ばして歩く姿は、まるでダウンタウンの路地に
迷い込んだお嬢様のようだった。
「ふふっ……3日後の任務に備えて、まずは帰宅ですわね。今日も無事に……」
横断歩道に差し掛かった瞬間、向かいの歩道から声が飛んできた。
「おーい〇×■▽……! おーい……!」車両の通行音とクラクションで
声が遮られ、よく聞こえない。
シキは優雅に微笑んだまま、華麗にスルーしようと視線を逸らした。
その瞬間——バチン!!!青白い電撃がシキの背中に直撃した。
全身に激しい痺れが走り、膝がガクンと崩れる。
「アババババババ……っ!?」微笑んだまま、
ビクンビクンと痙攣するシキ。
外見はまだお嬢様スマイルを保っていたが、脳内はパニック全開。
『うわ!? 遠距離スタンガン!? 誰だよ!! あたしが何!!』
痺れながらも必死に信号の反対側へ目を向けると、
そこには二人の少女の姿があった。
片方は派手なメイクで真ん中色違いボブにしたギャル風の女が、
慌てた顔で手を振っている。
もう片方は——スケボー片手にメガネの奥で光を反射させ、
得意げにポーズを決めるお下げ髪の青髪ギーク女。
「ちょ……大丈夫か!?
ねーーーーーシキーーーーーー!!」
シキは痺れた体をなんとか起こし、微笑みながら小さく手を振り返した。
そのとき脳内シキは即座に犯人を特定した。
『あー、いいんだ……見覚えあるわ。定時制高校の委員長だ。
私は落ちこぼれて今は通信課だがな…。
手の速いギークビッチ……北条ミコト! あのクソメガネ、
相変わらず突然遠距離ぶっぱする趣味変わってねえ‥‥』
お下げメガネギークビッチ委員長(通称:委員長)は、
スタンガン型の獲物をくるりと回しながら得意げに言った。
「ふん♪ 反応速度テスト完了! 相変わらず
油断してるようでござるな、シキ。いざ、戦果確認~。」
ギークの分際でスケボー乗りとは……しかも器用に
道交法全無視で車を避けて移動してきやがる……。
あっという間にシキの目の前までスケボーの車輪が来る。
「まあ……とととと突然の電撃とは、し、少々驚きましたわ。
ごごごごご無沙汰ですすすすすこと……」
委員長「ん? 口調が別人のように?」
ギャルも慌てて駆け寄ろうとするが、信号がまだ赤のまま。
シキは髪を直しながら(実際はビリビリで髪の毛が跳ねてる)、
にこやかに答えた。「ええ……すす少しばかり、
また別のののの赤毛クソ女のトラップの影響を受けておりますの。
ふふっ、1日にこう何度も…困ったものですわね。」
とdisりつつもまだ全身がビリビリと痺れたまま、
微笑みを保とうと必死だった。
そこへギャルが全力で駆け寄る。
「はあ…はあ‥ちょっ、まじ効き過ぎじゃない!?
シキ大丈夫!? ねえ!!」
派手なメイクのギャル——
一応定時制からの友人であるクレハが、真っ青な顔で
駆け寄ってシキの腕を支えた。
ギャルらしい派手なネイルの手が、震えながらシキの背中をさすっている。
「シキってば、ビクンビクンしてんじゃん! 委員長のバカ、
遠距離スタンガン強すぎだってば!」
「フン……峰うちでござる。」委員長はメガネをくいっと上げ、
得意げに鼻を鳴らした。
そのときクソギーク委員長がリュックから取り出したのは、
なんとスニッカーズ。
包装を破って一口パクッと頰張りながら、シキの口元に残りを押しつけた。
「ほら、糖分補給。低血糖が原因かと。
どうせ高出力ガジェットの影響でちょっとだけ
神経過敏になっているのかと。
こういう時は即効性のあるチョコが一番である。」
シキは痺れた口で無理やりスニッカーズを咀嚼した瞬間——
ビクン……と最後の痙攣が収まり、みるみるうちに体が軽くなった。
「あら……この洋菓子、美味…美味ですわ♡
ナッツの食感とキャラメルの甘さが絶妙ですこと……ふふっ」
外見は完璧なお嬢様スマイルで、両手を胸の前で重ねて喜んでいる。
クレハ(ギャル)が安堵の息を吐きながらシキの肩を抱いた。
「よかったー……シキ…高校デビューで派手にこけてキャラ変した???
マジで心配したんだから。ねえ委員長、もうちょっと出力落としなよ!」
委員長はメガネの奥で目を細め、もう一口スニッカーズをパクつきながら
言った。
「データ収集実行中。シキの現在の状態……お嬢様補正値87%。
面白いデータが取れた。」
シキは微笑んだまま、脳内で全力絶叫。
『データ収集とか言ってんじゃねえよ!!高校デビューもしてねえわ!!
特にメガネ!てめえはもう死んだからな!!』
シキの不運な帰宅路は、まだまだ波乱続きだった。




