また別のダイブ (前編) アパートでの瞑想
アサクラの研究所の最深部ラボで朝倉チヨメの記憶転移を受けて…。
その後の自分の記憶がちょいちょい曖昧になりつつもアサクラのAV(空飛ぶ車)
に送ってもらって…、私はとりあえずねぐらのボロアパート(旧荒川区)に
帰ってこれた。
チョビはどうなったかは知らん。。。心配する価値もないわ。
とりあえず私が不在時のぬるたろのお世話はダチのクレハに
お願いしていたはずだ…。
カン カン カンカンカンッ。安っぽいスチールの階段を上り、
懐かしい気すらしてくる自室のドアを開けるなり床にへたり込んだ。
だが、力を振り絞る。「ぬる…たろ。ただいま!」
……ぬるたろが心配そうにプルプルと近づいてくる。
「ちゃむ!!」ぬるたろが胸に飛び込んでくる。
「わっぷ!元気そうだにゃぷりち♡」
そのままMAXぎゅーーしつつもシキは頭がクラクラしていた。
ヤマトからは体調変化をしのげる?用の錠剤をもらっていたので、
とりあえず口の中にほとんどぶちこむ。
チヨメの記憶は、ただ苦しいだけじゃなかった。
薬を頬張りながらモゴモゴと「いや、とんでもねえわ…」
そこには嬉しい記憶も、楽しい記憶も確かにあった。
兄であるヤマトと遊んだ幼い日の庭園、人工の陽光の下で笑い合った瞬間、
温かい抱擁……。
しかしそれらが全部、掴みどころのない形になっていた。
笑顔が溶けて崩れ、楽しい記憶が突然千切れにちぎれた幾千の断片に変わり、
幸せだったはずの風景が、跡形もなく。
ん。なんだ。空母?アサクラ艦隊?いや‥‥なんでこれだけ完璧な記憶なんだ。。。
あとヤマトが多画面モニターでどっかの見慣れた汚部屋をじっくり観察してる風景
‥・ちょ。
‥‥まるで美しい絵画に、狂った筆でぐちゃぐちゃと死ぬほど
細かく引っ掻いたような感覚。
「……くそっ……」シキの指が震えた。
「嬉しい記憶まで……空母以外こんな風に腐らせやがって……
これが、チヨメの『今』なのかよ……」
私はよろよろと立ち上がり、汚部屋の先にある錬金部屋へ向かった。
この部屋だけはいつもマジで整理整頓してる。
魔術師としての最後の矜恃だ。
クレハはちゃんとぬるたろに餌をあげてくれてたみたいだけど
後片付けが…全然できてねえな…。
いや私が言えることじゃねえか。ハハ。
ぬるたろは今はとりあえず満腹そうで、ちゃむちゃむ言いながら
ぴょんぴょんと飛び回っている。
スライムチュールをあげてハウスに戻っててもらうか。
折角帰ってこれたのにほんとごめんね。あとでずっと一緒にいよ‥‥。
「……ちゃっちゃっと気付薬だけでも調合しないと、あたしもマジでヤバい……」
シキは錬金材料を引っ張り出しながら、掠れた声で続けた。
マインド系…だいたいこういうときの調合の方向性は
何となくつかめてんだけど……アノマリーには通用すんのか?
材料の中からニガヨモギ、ベラドンナ、ベナイン、ジュニパーなど
をかなり乱暴に机に並べていく。
※黒いベナインは「トランス系魔女の植物」として有名だが、非常に強い毒性がある。
まあこの中から・・・。ッチ…。あとの肝心な部分が、
すっぽり抜け落ちやがる……まじきついけど
……この状態では思い出せそうもない。
今瞑想するか……体調が全然…で危ないが。。
シキは部屋の照明を落とすと 炭を使って簡易的に魔法陣を
描いていく。
そして錬金部屋の中央で胡座、指でアグマの印を組む。
そして、ゆっくりと目を閉じた。
(※魔術師/魔女の瞑想……運が良ければ一族の高位エーテル体に魔術的、
霊的にアクセスすることで膨大な知恵の一部を過去に遡って引き出せる
可能性がある。
交感に失敗した場合は悲惨だが…。そのときは代償も覚悟しなければならない。)
ぬるたろがシキをじっと部屋の外から見守る。「にゅるる~…。」
心配しているのか、いつもよりわずかにプルプルと震えていた。




