第6話 トモダチ中編 大深度地下での茶会
アマテラスでの茶会
暖かい拍手が、アサクラ社施設全体にゆっくりと広がっていった。
アサクラのスタッフたちが、心の底から安堵したような、
柔らかな笑顔を浮かべて手を叩いている。
※アサクラの広報課もちゃっかりとしかし、熱心に撮影して
リアルタイム配信を全社に流している。
スタッフの一人が小声で囁くのが聞こえた。
「……広報課、今日も仕事熱心だな……」
その拍手は人工の風に乗り、研究所内の緑化部分の木々を優しく揺らし、
遠くの人工池の水面にまで小さな波紋を立てていた。
ヤマトは耳を赤く染めながら、照れくさそうにシキとチョビを振り返った。
「……。じゃあ、みんな疲れたと思うから、VIP用のゲストルームに案内するね。
シャワーもベッドも、好きに使ってゆっくり休んでいいよ♡」
高級感溢れる専用通路を進み、重厚な扉が静かに開いた瞬間——
ゲストルームの広大な空間が、柔らかな金色の間接照明に包まれて現れた。
天井は高く、壁の一面は全面ガラス張りで、吹き抜け庭園の緑とネオンが
美しく映り込んでいる。
室内の空気は微かに甘い香りが漂い、温度も湿度も完璧に調整されていた。
そして壁際に、スライムSHOP いんめんずかふぇの限定アイテムが豪華に
ディスプレイされていた。
虹色に輝く高級粘液エキス各種、可愛いランキングの高いスライムばかりを
模した特大ぬいぐるみシリーズ、レアスライム型の浮遊照明、
ぬるたろのようなレインボースライム専用プレミアム餌の限定セット……。
棚の照明までスライムモチーフで統一されており、部屋全体が淡くプルプルと
光っているかのようだった。
ヤマトが少し得意げに、しかし優しく微笑んだ。
「シキの好みに合うといいけれど……
気に入ったものは全部持って帰ってくれていいよ」
シキは呆然と部屋を見回し、心の中で呟いた。
(……完全に、ほだされそう……やべえな、これ)
3時間後。シキはスライムの特大ぬいぐるみに埋もれながら広大なベッドに
だらしなく寝そべり、軽いイビキをかいていた。
そこへ、ヤマトがそっと部屋を訪れノックする。
コンコン「シキ……チョビちゃん……起きてる?」
チョビが扉まで全力ダッシュして即反応する。ガチャ
(やや機械的でAI読み上げ風に喋るチョビ)
「やあ。ヤマト君。おかげでゆっくり休めているよ。あとこのゲストルーム、
君の趣味の良さを端的に表しているね。ところで……亜駄夢さんは
どうしてるのかな?」
ヤマトは少し照れながら、真剣な目で言った。
「三島(←アダムのこと)も今はゆっくりしているよ。
実は……妹のチヨメが今日は体調がいいみたいなんだ。
みんなをお茶会に招待したいんだけど、チヨメも同席させてもいいかな?
彼女が三島にもなついていてね、よかったらそこに三島を……」。
チョビの目が一瞬で輝いてヤマトの言葉を強烈にさえぎる
「勿論だよ!! 断る理由なんてあるわけがないよ!!!!」
「んあ?うっる・・・・せーな・・・・ブス」
チョビ「シキ君ももう十分に休息できたみたいで本当に良かったよ。さあ来るんだ。
シキ君♪」
シキ:「‥‥?‥‥スヤア‥‥‥‥ブホッ」
シキはまだ半分寝ていたが、チョビに首根っこを掴まれて強制連行された。
一行が向かったのは、研究所内の最重要エリアにかかる通路だった。
セキュリティゲートをいくつも通過するたび、空気が重く張りつめていく。
通路の照明は通常より暗く、壁には微かな振動が伝わってくる。
ところどころに「極秘」「生体管理区域」「レベルS」の表示が
浮かび上がり、遠くから低く響く機械音が不気味に聞こえた。
ここには何かやばいものがいる——そんな空気が、肌にまとわりつくように
濃厚だった。シキはぼんやりと意識を保ちながらも、背筋に冷たいものを感じていた。
(……なんだよ、この雰囲気……まあ何が出てきても驚かねえが……)
やがて専用リフトでさらに地下深くへ降り、一行は地下20階分の高さを持つ
巨大人工庭園「アマテラス」に辿り着いた。
そこは、面積でいっても東京ドーム3つ分もの途方もない広さを持つ、
息を呑む美しさの空間だった。
竹藪が優雅に揺れ、清流が石畳の間を静かに流れ、華厳の滝を模した大きな滝が
白い飛沫を上げている。
枯山水の砂紋は完璧に整えられ、柔らかな人口太陽の光が
水面と緑を幻想的に照らしていた。
そんな庭園のほぼ中央に印象的な畳敷きの広い茶室があった。
既にそこに待っていた亜駄夢(三島)は、フルボーグから換装した
一般義体の和装姿で静かに一礼した。
黒を基調とした和装に包まれたその姿は、庭園の風景に溶け込みながらも、
確かな威圧感を放っていた。
チョビはその姿を見た瞬間、くらくらと倒れ込み、シキを巻き込んでシキを
押し潰すかたちで床に崩れ落ちた。
シキ「グヘエ」
ヤマトが慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫!?」
シキ「‥‥‥このブスをどけろ」
チョビの下敷きになりながら庭園の天井近くの高架通路に自然に目がいく。
ん・・?人影のようなものが見える。白い顔に黒いスーツだが、
コーポの人間か・・?でもそいつを見ていると奇妙に目の焦点が合わなくなる‥。
それに嫌な感じと懐かしさが混じったような‥‥。
次の瞬間もう人影のように見えたものは消えていた。
シキ(疲れてんな。。気のせい…か。)
亜駄夢もシキの視線の先を見つめていたが、自身の義体に仕込まれた端末の
操作をした後、何事もなかったかのように振る舞った。
(つづく)




