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9・メイクアップ

 治療を受けた彼女をそのまま床で寝かしておくわけにもいかず、東雲に案内を受けながら、ホクサイの自室へと運んでいく。


 鍵のかかった部屋の合鍵は何故か東雲が持っており、そこに関して特に問題は……なかった、と思う。うん、多分。

 問題は運んでいた道中だ。


 ホクサイの体つきは全体的に細いとはいえ、気を失った人間というのはなかなかに重く、何より、支えのない人間の運びづらさといったらこの上ない。

 ただでさえ素の力がそこまで強くない私の身体は、ホクサイをベッドに降ろす頃には、ひいひいと音を上げていた。

 道中で東雲にそれとなく『代わってくれ』というアピールをしたものの、頑張れの一点張りで聞く耳を持ってはくれなかった。


 肩で息をしつつ部屋を見渡すと、どこぞのヤブ医者とは違って、各所がきちんと整理されており、ホクサイの几帳面さが伺える。

 例えば本棚は本の種類と高さ順で綺麗に揃えられており、並んでいる物は家具はもちろん、キッチンに置かれた調味料、机の上に並べられたちょっとした小物含め、全て何かしらの法則に基づいて配置されている。


 ……ただ、見れば見るほど、あまりにも整えられすぎていた。

 棚の上で直線上に並んだ生活用品は、1ミリのズレすらなく、どれもが軍の隊列のようにきちっとしすぎていて、生活感はまるで無い。

 最初は『マメな性格なのだろう』と浅く考えてはいたものの、生活のために置かれている物、というよりは、配置するためだけに物を置いている……異様な部屋だと感じた。


 そんな妙に落ち着かない部屋で、東雲との他愛もない雑談を交えながら、2時間ほどが経った頃。


「ん、んぅ……?」

「お、起きたね。おはよ、ホクサイちゃん」


 目を覚ましたホクサイはゆっくりと体を起こしつつ、現状を確認するように東雲、私、部屋と視線を動かしていく。

 そして、寝起きでしょぼけていた目がぱっちりと開かれると、次は膝を抱えながら顔を伏せてしまった。

 大きなため息とともに、またどんよりとしたオーラが彼女を包み込む。


「私……またやっちゃったんですね。本当にすみません……」

「……東雲さんの能力で、暗いのって直ったんじゃなかったの?」

「いやいや、ホクサイちゃんは元から暗いから。トラウマ抑えたって、こんなもんだよ」

「く、暗い……そうですよね、すみません。元からこんな人間なんです……」


 しきりに謝る姿に、東雲はクスクスとほほ笑んでいる。

 初めてスコールで出会ったのが初見で人を殺そうとするような東雲で、次は自己肯定感が地の底に沈んだトラウマ持ちの美少女。

 正直ここ最近、会う人間の情報という名のカロリーが高すぎて、胃もたれを起こしそうになる。


 変人具合に関して聞いたとき、東雲は『メンバーなんて、私以外は大体そんなもん』と言っていたが、あながち間違いでもないのかもしれない。私以外は、という文言を除けばだが。


だいぶ先が思いやられ、眉間に寄ったシワをほぐすように指でほぐしていると、東雲がパンっと手のひらを叩いて話題を切り替える。


「さーってと、ホクサイちゃんも起きたし、とりあえず自己紹介しちゃおうか」

「あ、えーと、仲秋……仲秋唯月(なかあきゆづき)って言います。東雲さんからはホクサイちゃんって呼ばれてて……すみません、初めましてなのにあんなお見苦しい姿を見せてしまって……」

「……別に何とも思ってないですから。私は今日から所属することになった、一ノ瀬夕凪です、よろしくお願いします」

「うんうん、お互い仲良くしてね。じゃ、こっからは仕事の話。

――ホクサイちゃんには優等生ちゃんの()()()をお願いしたいの」

「……メイク?」


 私が首を傾げると、東雲は口角を上げる。同時にホクサイは肩を落とし、気まずそうに視線をそらした。

 私だけがその単語の本当の意味を理解出来ていなかったが、すぐに察してしまった。

 ろくな事にはならないと。


 ― ― ―


「異能――灰被りのシンデレラ」


仲秋――ホクサイという呼び方は、初めましての時から東雲が勝手に付けて勝手に呼んでいるだけらしい――は自身の異能を発動させると、手に持った筆で腕をなぞる。


すると、まるで光そのものを絵の具にしたかのように、筆の毛先がかすかに発光し始める。

そして、今度はその絵の具で絵を描くように

――キャンバスに見立てた下着姿の私の体を、筆でゆっくりと撫で始める。


彼女の自室からアトリエと呼ばれている部屋へと移動したのだが、何をするのかも結局説明されないまま、妙に薄暗い部屋に入った途端、東雲に命令されたのはメイクのために服を脱げという指示。

耳を疑い、多少の恥じらいとともに抵抗したものの、結局逃げ場はなく、脱いだというよりは強制的に剥かれたという方が正しいかもしれない。


そして何やら準備があるとのことで、ひん剥いた私を仲秋に任せてどこかへと行ってしまった。


「……人権って無くなったんだっけ」

「す、すみません……私の異能はあくまで絵の具みたいな性質(もの)なので、服の上からじゃ上手く行かなくて……」

「いや、いいんだけど……」


仲秋は申し訳無さそうに頭の天辺から足の爪先まで、隙間なく丁寧に筆を滑らせているが、彼女も東雲に命じられて仕事をしているだけなのだから仕方がない。


「よし……終わりました。お疲れ様です」


仲秋から手渡された手鏡に映っていたのは……見知らぬ男性の顔だった。

起き上がって体を見てみると、骨ばった肉体に、筋肉質な体つき。だが、不思議と体の重さなどの感覚は何一つも変わっていない。

なのに触った感覚はしっかりと人肌で、かつ私にはない鍛え上げられた筋肉の硬さまで表現されている。


幻や錯覚などではない、本物に限りなく近い偽物。

似たような異能を見たことはあるが、感触まで完全に再現可能な異能は初めてだ。


「お、メイク終わってんじゃん。お疲れ、ホクサイちゃん」

「理由もわからず、裸に剥かれたあたしには……って、すご。声まで変わるんだ」


不満をぶつけようと口を開くと、聞こえてきたのはいつもの自分の声ではなく、野太く低い男性の声だった。

完全に見た目を別人へと描き替えられたような体験したことのない状況。

能力としての完成度があまりにも磨かれすぎていて、異能使いとして力量の高さに尊敬してしまう。


「驚いたでしょ。本人はどうであれ、ホクサイちゃんの能力は優等生ちゃんにも負けないくらい唯一無二な能力なんだから」

「なんで東雲さんが得意気なのよ……でも、本当に凄いですね、仲秋さん」

「あ、い、いやいや。私の能力なんてそんな……」

「仲秋……()()? 私には最初は無かったくせに?」


恥ずかしそうに手を火照った頬に当てつつ、顔をそらす彼女。

東雲は不満そうに、自身の腕を指でトントンと突きながらこちらを見つめているが、私だって敬うべき人間は自分で判断できる。


「色々言いたいことはあるけど……まぁいいや。とりあえず優等生ちゃんは速攻でこれに目を通してね」


東雲は小脇に抱えていた資料フォルダーを私に手渡す。

ずしっと重さのあるそれの中身を確認すると、内容は今の私と瓜二つの男性の個人情報だった。


体重、出身地、今日までの大まかな経歴と、ここ1年間の微細な出来事まで。びっしりと書かれた個人情報の中で、一際目を引いたのは職業欄に書かれた『三等勇者』という文言だった。


勇者には階級が存在する。

候補生としての活動が終わると、実力等を含めた査定が行われ、一等から六等までの等級に振り分けられる。

他にも規格外の化け物を振り分けるための七星と呼ばれる等級もあるが、それを除けば三等は比較的上位の勇者に与えられる名誉だ。


そんな人間に似せたメイクを施され、個人情報を手渡されたこの状況……自然と頭は本人の望まない結論を弾き出す。


「優等生ちゃんにはその資料にある人間を異能で模倣してもらって、勇者施設に潜り込んでもらう。それが朝話した『優等生ちゃんにしか出来ない仕事』ね」

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