第51話 試すのは鍛冶場ではなく、畑の泥の中で
午後、試作した二本の鎌を持って、俺とリッカは畑へ向かった。
前に観察させた二人の女に、実際に使ってもらうためだ。鍛冶場でどれだけ「良さそう」に見えても、結局、畑の泥の中で使って初めて答えが出る。
「緊張する……」
隣でリッカが小さく言った。
「作ったのは俺だ」
「でも考えたのあたしもだろ」
「少しはな」
「少しって言うなよ!」
そう言っているくせに、顔は本気で緊張していた。
畑へ着くと、女たちはすでに草取りの支度をしていた。俺たちを見るなり手を止める。
「あら、早かったね」
「試作だ」
俺は鎌を差し出す。
「前のやつと違う」
「うん、見りゃ分かるよ」
「今日は、こいつも見てる」
俺は顎でリッカを示した。
女たちは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに「ああ」と笑った。
「賑やかな弟子さんかい」
「弟子じゃない!」
リッカが即座に叫ぶ。
「でも今日は半分くらい弟子っぽいだろ」
女のひとりが面白そうに言う。
「半分って言うな!」
「うるさい、始めるぞ」
俺が切ると、ようやく二人とも鎌を受け取った。
最初に、小刻みに使う方の女が刃を入れる。
しゃ、しゃっ。
草のまとまりを細かく払う音がする。前より確かに返しがいい。手首の動きに鎌がついてくる。だが、二、三度使ったところで、女は少し首を傾げた。
「悪くないけど……前のよりちょっとだけ軽すぎるかね」
リッカがびくっとする。
「軽すぎ?」
「うん。狭いとこで使うのは楽。でも、湿ってる草が重い日はもうひと押し欲しいかも」
俺は黙ってうなずいた。
そういう答えだと思っていたところもある。
次に、引いて刈る方の女がもう一本を使う。
ざっ、ざっ。
こちらは分かりやすかった。前より刃が流れ、草丈のある部分でも止まりにくい。女の顔がすぐに明るくなる。
「こっちはいい!」
「どういい」
俺が聞く。
「引いた時に途中で引っかからない。前のはたまに“ぐっ”て止まってたけど、これはそのままいける」
「うん」
「腕が楽」
リッカがそっちを見て、ちょっとだけ嬉しそうな顔になり、次の瞬間には片方が外れた事実に気づいて複雑そうな顔へ戻る。
俺はその横顔を見ながら言った。
「分かったか」
「……うん」
「考えるのと当てるのは別だ」
「うん」
「でも外した理由も見えただろ」
「たぶん」
「なら次につながる」
リッカは悔しそうだった。だが、その悔しさは悪くない。
ただ「すげえ」で終わるやつより、外して悔しがるやつの方が、次へ行ける。
畑から工房へ戻る道すがら、リッカは何度もぶつぶつ言っていた。
「軽すぎたのか……でも返しはよかったんだよな……」
「そうだ」
「じゃあ、返しやすさは残して、もうちょい腹へ……」
「声がでかい」
「考えてんだよ!」
考えている時点で、前よりずっとましだ。




