第48話 課題は一本、でも答えは人によって違う
課題は単純だった。
「同じ草刈り鎌でも、二人分の違いを見てこい」
俺は言った。
「形を見て、手を見て、仕事を見て、自分で何が違うか考えろ」
「それだけ?」
「それだけだ」
「答えは?」
「自分で持ってこい」
「……うわ、いちばん嫌なやつだ」
「嫌ならやるな」
「やる!」
返事だけはいい。
その日、リッカは朝から村へ飛び出していった。聞けば、畑の女たちのところへ行くらしい。前に鎌を直した相手なら、使い方の違いも見やすい。
昼過ぎ、工房へ戻ってきたリッカは、いつもの勢いが半分くらい削れていた。疲れた顔というより、考えすぎて頭が熱い顔だ。
「どうだった」
「難しい」
「だろうな」
「二人見た」
「うん」
「一人は引く時に手首強い。もう一人は刻むみたいに細かい」
「うん」
「でも、それだけじゃねえんだよ」
「続けろ」
リッカは木切れと炭を取り出し、また地面に図を描き始めた。
「こっちは畑の畝が狭い場所で使ってた。だから大きく振れねえ」
「……」
「もう一人は、草の丈が高い方で使ってた。引き切るのが多い」
「……」
「それで、同じ鎌でも“楽な形”がずれる」
「そうだ」
そこまで言えれば十分だった。
まだ粗い。言葉も雑だ。だが、ただ「AさんとBさんで違う」ではなく、仕事場の条件まで含めて見始めている。それは大きい。
「どうだ」
リッカが少し不安そうに聞く。
「半分だな」
「半分!?」
「人は見た。場所も少し見た。だが、まだ“何を変えるか”が薄い」
「うっ」
「でも前よりはいい」
「……前より、は」
不満そうだが、口元は少しうれしそうだった。
俺は続ける。
「次は、その違いを鎌のどこに落とすか考えろ」
「刃の流れ?」
「それもある」
「重さ?」
「それも」
「柄?」
「そこまで見えたら上出来だ」
「うわあ……鍛冶ってめんどくせえ」
「今さらか」
「今さらだよ!」
その叫びに、思わず少しだけ口元が緩んだ。
リッカはちゃんと前へ進んでいる。まだ弟子未満だし、うるさいし、勝手に工房へ来るし、面倒なのは変わらない。だが、ただ見て騒ぐだけの段階からは、確かに出始めていた。




