第47話 弟子未満、はじめて父に反発する
父が帰ったあとの工房は、妙に静かだった。
いつもなら何か一つ言えば三つ返ってくるリッカが、炉の前にしゃがんだまま何も喋らない。薪を持ってもぼんやりしていて、危うく落としかける始末だ。
「おい」
「……あ」
「火を見ろ」
「うん」
返事はする。だが上の空だ。
夕方近くなってもその調子なので、俺は諦めて椅子へ座った。こっちから何か言うのは得意ではない。だが、あまりに黙られるとそれはそれで落ち着かない。
やがて、リッカの方から口を開いた。
「親父、怒ってるかな」
「少なくとも頭ごなしではなかった」
「うん」
「でも、気分がいいわけでもないだろうな」
「……うん」
リッカは膝を抱えた。
「あたし、親父の仕事を馬鹿にしたいわけじゃねえんだ」
「分かってる」
「でも、ここで見たものも本気なんだ」
「そうだろうな」
「親父の鍛冶だけ見てたら、たぶん分かんなかったことがいっぱいある」
「……」
「それを知っちゃったのに、見なかったことにはできねえよ」
声が少し震えていた。泣きそう、というより、必死で押さえている感じだ。
俺は少し考えてから言った。
「なら、見続ければいい」
「え?」
「親父の仕事も、おれの仕事も」
「……」
「見て、考えて、自分で決めろ」
「そんな簡単に言うなよ」
「簡単じゃない」
「だよな……」
そこまで言ってから、リッカは小さく笑った。
「でも、ちょっと楽になった」
「ならいい」
「ありがとう」
「礼を言われるようなことは言ってない」
「そういうとこだぞ」
どこがだ。
言い返そうとしてやめた。
その代わり、俺は道具台から小さな木切れを一つ取り、リッカへ投げた。慌てて受け取る。
「課題だ」
「え?」
「次、考える鍛冶したいんだろ」
「……うん」
「じゃあ考えろ」
リッカの目が、少しだけ強くなった。




