第46話 違う鍛冶、違う正しさ
村鍛冶の父は、工房の前の椅子へは座らなかった。立ったまま、炉と道具台の間を見る位置にいる。俺も炉の前から動かなかった。火のそばの方が、余計な言葉を省ける気がした。
「村では、止めないことが仕事だ」
父が先に言った。
「鍬も鎌も鋤先も、戸板の金具も、止まれば暮らしが止まる」
「そうだろうな」
「一本ごとに寄りすぎれば、他が遅れる」
「それも分かる」
俺は正直に言った。否定する気はない。むしろ、村の道具を見てきた今なら、その重さは想像できる。
父は続ける。
「だから、俺は村の流れを止めないように打つ」
「……」
「娘は、それじゃ足りないと思ったらしい」
「そうだな」
「お前は、使う人に合わせる鍛冶をしている」
そこで一度だけ、俺ははっきりと答えた。
「している」
「なぜだ」
「道具は、使うやつの手で仕事になるからだ」
「……」
「止めない鍛冶もいる。だが、使う人間に合わせた方が楽になる時もある」
「それは知っている」
「なら話は早い」
父の目が少しだけ細くなる。
「だが村で、それを全部にやる余裕はない」
「分かってる」
「分かっていて、お前はやる」
「目の前に持ち込まれたものはな」
短い会話だった。だが、そこにある違いははっきりしていた。
父は村の流れを止めない鍛冶師だ。
俺は使い手に寄せる鍛冶師だ。
どちらも正しい。
ただ、正しさの向きが違う。
それを善悪で切らない会話ができたことに、俺は少しだけ意外さを感じていた。
父は最後にリッカの方を見た。
「娘の邪魔になるなら連れ戻す」
「えっ」
リッカが顔を上げる。
「邪魔?」
「俺の、じゃない」
父は低く言う。
「お前自身の、だ」
それだけ言うと、踵を返した。
怒鳴りもしない。だが、ずしりと重い言葉だけを残して。
リッカはしばらく動けなかった。




