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第45話 火の前では、言い訳より先に手元を見る
村鍛冶――リッカの父は、工房の前へ一歩入ると、それ以上すぐには口を開かなかった。
代わりに炉の前へ近づき、しゃがみ込む。灰の色、炭の置き方、土壁の締まり具合。そういうものを見ている。俺も同じように相手の手を見る。指の節、掌の厚み、火傷の跡、爪の欠け方。言葉より先に、仕事の痕を読む。
しばらく、本当に何も言わなかった。
その沈黙を破ったのはリッカではなく、父の方だった。
「工房は粗い」
「そうだな」
「だが火は悪くない」
「今できる範囲だ」
「炭も見てある」
そこで初めて、ほんの少しだけ互いに職人としての線がつながった気がした。
リッカは固唾をのんで見ている。
父は立ち上がり、道具台の小刀をちらりと見たあと、静かに言った。
「包丁と斧の話は聞いている」
「そうか」
「鎌も」
「だろうな」
「雨戸の金具も」
「……それもか」
村の中では、もうだいぶ話が回っているらしい。
父は俺をまっすぐ見た。
「火の前に立つ人間の目はしている」
「そっちもな」
「当然だ」
それだけのやり取りなのに、リッカの肩が少しだけ下がった。完全に険悪で始まらなかったことに、少し安堵したのだろう。
だが、安心しきるにはまだ早い。




