第44話 村鍛冶、森の工房を見る
来る時は、だいたい何の前触れもなく来る。
翌朝、工房の前で炭を整えていると、道の向こうから重い足音がした。村人の足音とも少し違う。急いでいない。だが迷いもない。まっすぐ、ここを目指している音だ。
俺が振り向くより先に、リッカが固まった。
「……親父」
木々の間から現れた男は、予想していた以上に“鍛冶屋”の顔をしていた。
大きな体ではない。だが無駄がなく、肩と腕に仕事の厚みがある。顔は日に焼け、目つきは厳しい。口数の多い人間ではないと、立っているだけで分かった。
そしてその目は、娘より先に工房を見た。
炉。
道具台。
炭置き場。
小屋。
工房の前の椅子。
視線が順にそこをなぞっていく。職人の目だ。見た瞬間に、俺にもそれが分かった。
男は少しだけ間を置き、それからリッカを見た。
「……いるとは聞いていた」
「親父」
「来るなとも言っていた」
「それは、その」
「聞かなかったらしいな」
怒鳴るわけではない。だが声は低く、重い。リッカが珍しく言葉に詰まっていた。
男は次に、ようやく俺を見た。
「……娘が世話になっているらしいな」
「勝手にいるだけだ」
俺は答える。
「ふむ」
その返事に、男の眉がわずかに動く。気に入らないのか、面白いのか、まだ分からない。
だが、少なくとも頭ごなしに怒鳴りつける種類の人間ではなさそうだった。
それが少しだけ救いだった。




