表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界のんびり鍛冶屋『ひっそり暮らしたい刀匠の異世界工房』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/55

第36話 戻ればそこに、火と弟子未満が待っている

 工房の前まで戻ると、まず見えたのは煙だった。


 細い。だがたしかに、灰の奥の火が生きている証拠の煙だ。朝に残した火種は、ちゃんとつながっていた。


 そして、その煙より先に飛び出してきたのはリッカだった。


「おっせえ!!」

「帰ってきて第一声がそれか」

「町どうだった!? 包丁見た!? 鍛冶屋いた!? 店多かった!? 人多かった!?」

「多い」

「質問の答えが雑!」


 こいつは一人で工房の前に立っていた。しかも腕を組んで。待っていたつもりらしい。見送った時と同じく偉そうだ。なぜそうなる。


 だが、入口の前でこいつの声を聞いた時、少しだけ帰ってきた実感が強くなったのも事実だった。認めたくはないが。


 俺はまず炉の前へ向かい、灰を寄せる。赤は残っていた。そこへ細い炭を足すと、すぐに火が息を吹き返す。


「よし」

 思わず声に出る。


 リッカが横でにやにやする。


「やっぱ火、気になってたろ」

「当たり前だ」

「町より工房の方が好きだろ」

「それも当たり前だ」

「でも町、収穫あった顔してる」

「……」


 腹立たしいくらい、見ている。


「少しはな」

 とだけ答えると、リッカの目が輝いた。


「話せ!」

「命令するな」

「じゃあ頼む!」

「やだ」

「なんでだよ!」

「うるさいからだ」

「理不尽!」


 そう言いながらも、俺は道具台へ持ち帰った包みを置いた。包丁、小刀、細工刃。村の仕事だけでは見えなかった種類の課題が、いくつもそこにある。


 火が戻っていくのを見ながら、俺はぽつりと言った。


「町の包丁は、村のより速く動く」

「おお」

「でも、そのぶん無駄な重さが疲れに出る」

「へえ」

「鍛冶屋は忙しすぎて、一本ごとには寄りづらい」

「うん」

「見習いは、形は作れても使う人の顔を見てない」

「……なるほど」


 リッカはいつになく真面目な顔で聞いていた。


 俺は自分でも少し驚く。気が向いたら話す、くらいのつもりだったのに、火の前へ戻ると不思議と口が動いた。工房の中で話す町の仕事は、どこか「持ち帰ったもの」みたいに感じられるからかもしれない。


「で?」

 リッカが言う。

「で、何だ」

「おまえ、何試すんだ?」

「……まずは包丁だ」

「やっぱりか」

「町の流れを、村の手に合わせて噛み砕く」

「すげえ」

「すごくはない」

「でも、試したいこと増えたんだろ?」

「増えた」


 そこは、もう否定しなかった。


 火の前にしゃがみ、町の包丁をもう一度手に取る。町で見た仕事場の速さが、刃の減り方に重なって見える。そこへ村の台所や、女将の手の動きが頭の中で重なる。


 試したい。

 工房でやってみたい。


 町へ行った面倒と、帰ってきた安心と、その両方を抱えたまま、俺は炉へ炭を足した。


「……試したいことが増えた」

 口にすると、リッカが満足そうに笑う。

「いいじゃん」

「よくはない」

「でも顔はちょっと良さそうだぞ」

「うるさい」


 そう返しながらも、俺はもう包丁の方へ意識を向けていた。


 森の工房へ戻れば、結局やることは同じだ。

 火を見て、素材を見て、使う人間の仕事を考える。

 ただ、その視野が少しだけ広がった。


 工房にはもう、森の静けさだけではない温度がある。


 村の気配。

 町の課題。

 そして弟子未満の騒がしさ。


 それらを抱えたまま、俺は新しい一本へ手を伸ばした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ